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建築随想
ふたつの計算資源
AI(Artificial Intelligence:人工知能)に使われる学習用データは、主にインターネットによって収集された様々な分野や言語にわたる大量のテキストデータですが、AIモデルの性能はその計算資源の量によって左右される(スケーリング則*01)といわれています。
AIはもともと人間の脳の神経回路の仕組みをモデル化したものですから、人間の脳の“性能”も、そこに与えられる計算資源の量によって左右される、といっていいでしょう。この私たちの脳に与えられる計算資源とは、この地球上に生息する他の動物たちと同じように、自らもその構成要素である生態系とそれが存在する自然環境から生じる様々な刺激と、それらとの相互作用によって与えられるものがまず考えられます。
そうであれば人間の脳に与えられる計算資源の量は、温暖・湿潤で豊かな生態系を築いた世界の方が、一年の大半を氷雪で覆われた世界や寒冷・乾燥化し砂漠化した世界よりもはるかに大きい、といえるでしょう。豊かな生態系を構成するすべての生き物たちが、それぞれ環境世界や他の生き物たちとの相互作用を繰り返すことで、同じ環境に棲み込む人間に与えられる計算資源は、累乗化し、それこそケタ違いに大きくなるからです。
最終氷河期が終わる1万5000年前からヤンガー・ドライアスが始るまでの数千年間、定住化した狩猟採取民の集落であったアブ・フレイラが栄えた中東の肥沃な三日月地帯などに拡がった豊かな生態系の世界は、まさに人類の脳の“訓練”にとって、非常に重要で、かつ非常に最適な時期に生まれた世界だったのです。
人類はすでに3万年前のショーヴェ洞窟において、雪原を疾駆する動物たちに対する、ある意味現代人さえも凌駕する観察眼と記憶能力を持っていたことを示していました。そしてアブ・フレイラの“春”を謳歌した彼らは、周囲の豊かな生態系をもつ環境から、幅広く、深く、多様な知識を学習し、のちの農業革命に不可欠な、栽培化や家畜化に適した動・植物たちの種類や特徴を詳細に把握し、さらにアドビ・レンガなどの製作方法などを探求していったのです。
それは知識の獲得だけではなく、四肢や手指などを繊細に動かす運動指令の“訓練”にもつながり、個人のレベルでは、この時代の狩猟採取民たちは、知識と技能の点で歴史上最も優れていた*02のです。
そしてもうひとつ、人類の脳に与えられた計算資源として重要なものがあります。それは人類同士のコミュニケーションの濃密化によってもたらされたものでした。
アドビ・レンガの方形の家が積みあがったチャタルホユック(BC6000~8000/アナトリア)の巨大都市は、ピーク時には1万人の人口を擁したといわれています。
3D Catalhoyuk: Project Animation (FINAL CUT)
from Jenn Lindsay
Çatalhöyük Resarch Projectより
*01:2020年1月にOpenAIが提唱した法則
*02:サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福/ユヴァル・ノア・ハラリ
/柴田裕之訳 河出書房新社 2016.09.08 文庫版2023.11.03

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