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建築随想
顔の全体論的な次元を表すもの
コットレルさんの顔認識ネットワークの第二層の80個の細胞に投影され、「重みづけ」がなされて第三層に出力されたものを、ジャネット・メトカルフェさんはホロンHolonと名付けました。
このホロンとはなんなのか、どんな特徴をもっているのか、引き続きチャーチランドさんの解説*01を引用しましょう。
第二層で形成されたホロン画像は、鼻の長さや口の大きさ、両眼の距離、といった局所的な顔の特徴に焦点を合わせているのではありませんでした。それは、各細胞が入力層の全表面を包含し、顔の孤立的な特徴ではなく全体的な構造を表現したものだったのです。ここで選択された選好刺激(この細胞がもっとも好む入力パターン)は元の訓練セットに含まれていた個々の顔とは一致しませんでした。むしろ、それらの選好刺激は、顔のまったく全体論的な特徴ないし次元であるように思われた、とチャーチランドさんは指摘しています。
日常言語には、このような次元を表す適当な言葉が存在しませんが、それにもかかわらず、ある顔が入力層に提示されると、これら80個の全体論的な特徴がそれぞれ、さまざまな程度に活性化され、その結果、第二層においてその顔に特有の活性化ベクトルが形成されていったのです。
また、入力層に同じ人の異なる写真が提示されても、第二層の細胞は本質的に同じ活性化ベクトルを形成し、そのため、第三層の出力細胞はその人を正しく同定することができたのです。
入力画像の各画素は第二層のすべての細胞にそれぞれ微小な影響を及ぼします。つまり、各画素の情報は第二層の全細胞に分散されるのです。また、第二層の各細胞は入力層全体に関して少なくとも一部の重要な情報を含んでいます。したがって、細胞とシナプスがネットワーク全体にわたって散在的に失われても、ネットワークは多少の機能低下を起こすだけで、なお非損傷状態に十分近い機能水準を維持することができたのです。
コード化された表現およびその変形の両方がネットワーク全体にわたって広く分散されているので、表現についても変形についても「ボトルネック」となるところが存在していない、とチャーチランドさんは指摘します。つまり、そこに損傷が起こるとネットワークの機能が大きく低下するような簡所は存在しない、というのです。
左:帯によって五分の一隠した顔の入力画像。
右:コットレルの圧縮ネットワークの中間層における表現は、隠された入力領域を、残りの部分と整合的な特徴で補充する*01
*01:認知哲学-脳科学から心の哲学へ/ポール・M・チャーチランド/信原幸弘・宮島昭二訳/産業図書 1997.09.04