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Holon

 コットレルさんの顔認識ネットワークの振舞いは最終的にすばらしいレベルに達した01とチャーチランドさんは評します。訓練セットの写真については、顔性、性別、誰の顔かに関して、正解率は100%でした(これは当初の目標どおりの成果といっていいでしょう)。ところがこの顔認識システムは、そのほかにも、まったく新しい対象や人物についてもその顔性と性別(その人の名前[コード番号]については当然ながらわかりませんが)に関して高い確率で正解したのです。さらに特筆すべきは、「既知の」人の顔を五分の一だけ水平の帯で隠した場合でも、ネットワークの成績はほとんど落ちなかった01というのです。
 この成果を受けてチャーチランドさんは次のような問いを発します。
 この訓練されたネットワークは、いったいどんなふうにして、このようなことを成し遂げたのか。この驚くべき技能を実現するために、ネットワークの内部でどんなことが起こっているのか。
 コットレルさんたちのさらなる研究成果に対するチャーチランドさんの説明01を引用し、この問いについて話をすすめていきたいと思います。
 まず、チャーチランドさんは、コットレルさんのネットワークの第二層にある80個の細胞に着目しています。人間の「網膜」にあたる第一層の入力層は64×64画素に相当する4096個のグリッド細胞からなっていて、各細胞は256段階の異なる活性化度合い(すなわち「明度」)を示すことができました。そして各入力細胞は第二層の80個の(標的)細胞すべてに対して、出力装置である軸索の枝を放射状に伸ばし接続しているのです。つまり第二層の80個の細胞のそれぞれには、入力画像を80分割した断片が投射されているのではなく、入力画像の全体像が80の細胞ひとつひとつに投射されていたのです。そこに逆伝播法によって最適に調整された「重み」が個々に加算されていたのです。
 では、ネットワークの第二層の細胞によってコード化されたのは、顔のどんな特徴なのでしょうか。言い換えればネットワークが訓練期間中、容赦ない圧力(調整の繰り返し)にさらされながら、次第に見出していったのは、どんな有効なコード化方法だったのでしょうか。
 これについては、コットレルさんのこのネットワークでは、中間層の80個の細胞すべてに対して、この問いにはっきりした明確な答えを与えることができました。それは、このネットワークを訓練したコンピュータ内では、ネットワーク内のどのふたつの細胞についても、それらをつなぐシナプス結合の正確な値を知ることができたからです。
 それぞれの顔細胞に対するネットワークの最終的な入力配置を読み出すことによって、その細胞の最適な刺激を構成する網膜入力パターン(これは、この細胞がもっとも好む入力パターンという意味で、その細胞の選好刺激(preferred st imulus)と呼ばれています)を再現できたのです。そしてじっさい、私たちが自分の目で見ることができるような、画像の形で、それを再現することができたのです。
 コットレルさんの共同研究者であるジャネット・メトカルフェ(Janet Metcalfe)さん02は、こうして再現されたものに、入力層全体にわたる選好刺激の拡散的性格を表すものとして、ホロンHolonという名称を与えました。


ホロンの六つの例。これらは顔認識ネットワークの第二層にある細胞の選好刺激の例です。各選好パターンが入力空間全体にわたっている点に注意。01

01認知哲学-脳科学から心の哲学へ/ポール・M・チャーチランド/信原幸弘・宮島昭二訳/産業図書 1997.09.04

02EMPATH: Face, Emotion, and Gender Recognition Using Holons. /Garrison W. Cottrell, Janet Metcalfe:/1990


 

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