タバコを潰されたジョン・ソラから、黒いオーラが立ち上った。
低音ボイスがミエの目前に迫る。
「この・・・クソが・・・・・」
「いやいやいやいやいやいやっ!」
顔面蒼白のミエ。
そして次の瞬間、目の前に手が飛んで来た————・・!
バシッ!
しかしその手はソラの手ではなく、チャ・ヨンヒの手だったのである。
「おっとそこまで。子供相手に何してんの?情けねーなぁ」
「へぇははへよ(手ェ離せよ)」
突然始まった喧嘩に、ミエは「え?なに?いきなりなに?この人たち・・?」とパニックだ。
その間に、ソラがヨンヒに向かって攻撃した。かわすヨンヒ。
二人は互いの襟元を掴み、
そのままボカボカと殴り合いを始めたのだった!
ミエは衝撃のあまり固まっている。
「あーーーっ!このクソがっ!!」
「死ねっ!!」
二人は揉み合いながら罵詈雑言のオンパレード。
ミエはオロオロとその周りをぐるぐる回る。
「ちょ、ちょい待ち!ねぇっ!」
ちょ・・突然なんなの?!
ミエはもう訳がわからなくなり、とにかくこの喧嘩を止めなきゃと一歩踏み出した。
「だめっ!私のために喧嘩しないで!」
しがみついたのは、ジョン・ソラの腕であった。
バッ!
「わっ!」
ソラが思い切り腕を振り払ったので、ミエは後方によろめいた。
ソラは肩で息をしながら、信じられないものを見るような目つきでミエを見下ろす。
ソラが口を開いた瞬間、ヨンヒの手がにゅっと伸びた。
「何言・・」「どこ見てんだよ。こっちだよこの野郎」
そして再び始まった殴り合いを呆然と見つめるミエの後ろに、笑顔の塾長先生がやってきたのだった・・。
「おっ!人目を気にしない感じがいいね!」
「このクソが!」「このっ!」「なんだよその目は!」「殺す!殺す!」
<鯨の戦いにエビの背中が破ける>
これは韓国の諺で、意味は「とばっちりを受ける」というもの。
まさに、今のミエの置かれた状況にピッタリである。
先生、なんで私も一緒に・・
文字通りとばっちりを受けたミエは、ぼんやりとそんなことを思いながら両手を上げていた。
チラリ、と隣の二人の方を見る。
ヨンヒはあくびをしていたが、ソラは無表情でただ両手を上げていた。
その横顔からは、なんの感情も読み取れない。
ミエはビクビクしながら、ソラのことをじっと見ていた。
タバコを隠し持ったり、ヨンヒと喧嘩したり、未だこの子のことはよくわからない・・。
するとそこに、Sクラスの面々が通り掛かった。
「おっ!レディースじゃん!お前らいつも喧嘩してんな〜。
クラスに三人しかいねー女子同士、仲良くしろよな〜」
「怖くて塾に通えませ〜ん」「止めろよ」
そんなホンギュにヨンヒは「黙れ」と返していたが、ミエはキムチョルしか目に入らなかった。
そしてキム・チョル→「愛するミエ」をからかう、という方程式をすぐに思い出し、意気揚々と声を上げた。
「今だっ!ねえっ!」
「あんたさっき・・」
しかしハッと気がついた。ここにはヨンヒとソラがいる。
ほどなく口を噤んだミエ。ホンギュはまだ言ってくる。
「Sクラスが変な噂されてんの、お前らのせいだかんな?」
返すヨンヒ。
「は?うるせーお猿さんだな」 「なにっ?!」
そして今度は、ミエの隣でベ・ホンギュVSチャ・ヨンヒが始まってしまった。
「なんつった?!このヤンキーが!」
「猿がキーキー発狂してんな。これでも喰らえ」
「女だからって容赦しねーぞ!」「動物だからって容赦しねーぞ」
「てめー!!」
「いや・・ちょ・・待っ・・」
するとそこに、大きな手が伸びた。
「もう止めろ。行くぞ」
ハッ
顔を上げたミエのことを、チョルは深いため息をつきながら一瞥し、
そのまま行ってしまった。
第六十九話①でした。
身長170センチ越えの二人の喧嘩は、迫力ありそうですね!
ミエちゃんの非力感w そして本当にとばっちりw 先生、ミエちゃんは見逃してあげてー!!
第六十九話②に続きます