
ぜひ一度「富士山」を飲みたい。
知人にお願いしてたお酒が手に入った。
名前から推察できる通り、醸造元は牧野酒造という静岡県にある酒造会社。
富士山の伏流水からつくっているというお酒だが、概してこういうネーミングのお酒は観光客のお土産用であり、うまい!というお酒であることは稀だ。
私はまだ口にしていないので、出来具合について語れる言葉はない。
入手した理由はただ一つ。
能登町の宮脇定雄さんが杜氏だからだ。

宮脇さんとはむかしむか~し、一緒に出稼ぎにいったのが最初の縁だ。
15年前、初めて杜氏として牧野酒造で働く前にお酒を飲む機会があった。
「経験のない自分をよく杜氏として迎え入れてくれたもんだ、ちゃんと酒になるかどうか心配や」
普通、杜氏の皆さんはこんな香り、こんな風味、こんな切れ味のお酒を造りたいと理想を語る。
宮脇さんは味どころが、お酒を造れるかどうか心配していた。
とにかく聞いてる周りの方が心配になるような会話ばかりしたことを覚えている。
牧野酒造は創業こそ270年前に遡るが、規模はそんなに大きくはないとのこと。
宮脇さんが入る前、経営は決して楽ではなかったとも聞く。
そこに飛び込んだ宮脇さん、努力の積み重ね、研究の積み重ねで「富士山」の評判もあがり、ファンも徐々に増えていったそうだ。
売上も着実に伸び、牧野酒造の経営も上向き、社長さんからは牧野酒造の大黒柱として厚い信頼を得るに至ったという。
もっとも私は最初の自信のない言葉が耳にこびりついていて、一度も宮脇さんのお酒を飲んだことはなかったが・・・
こちらは今年の1月、地元のメディアが宮脇定雄さんと牧野酒造を紹介したレポート。
宮脇さんの仕事ぶりや人柄が伝わってくる。
この中で宮脇さんは元気いっぱい、いつもの満願の笑顔で登場している。
が、この後、非情にも宮脇さんは病に倒れ、先月末、ついに帰らぬ人となってしまった。
宮脇さんがつくった「富士山」、私にとってこれが最初で最後の一本だ。

あまり広まっている話ではないようだが、今春、オバマ大統領が来日した折、日本のお土産としてこの「富士山」を60本買っていったそうな。
銘柄が一番の決め手だったかもしれないが、しかし、どれを土産にするかで関係者は試飲を重ねたとのこと。
アメリカでも宮脇ファンが誕生したこと間違いないと思う。
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