北野進の活動日記

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「だから原発は止める」新鮮・簡潔・明瞭~樋口元裁判長記念講演~

2019-06-10 | 志賀原発廃炉訴訟


2019年度志賀原発を廃炉に!訴訟原告団総会(6月8日)の記念講演、今年の講師は樋口英明元福井地裁裁判長にお願いした。
樋口さんは昨年8月に定年退官後、自ら担当した大飯原発の差止め訴訟について積極的に発言している。
退官した裁判長が、自分のかかわった裁判、しかも高裁で覆された判決について語ることは異例である。

極めて異例と言ってもいいが、実はもう一例、このような元裁判官に以前記念講演をしてもらったことがある。
かつて金沢地裁にいた井戸謙一元裁判長(現弁護士)である(こちら参照)。

さて、話を戻して、樋口さんは講演冒頭、なぜ自分がこのような異例の行動をとっているかを説明した。
「原発の危険性を知ってしまった以上、伝える責任がある」

樋口さんは2012年4月に福井地裁に赴任し、同年11月に提起された大飯原発運転差止訴訟を担当するまで特段原発について学んだことはなかったという。
大飯訴訟を担当することになってからも、原告、被告双方から提出される訴状や準備書面、証拠説明書などにしっかり読みこなし、原告の意見陳述にもしっかり耳を傾けたとのことだが、特段それ以上原発関係の書籍や論文等を読みあさるようなこともなかったとのこと。脱原発の運動に少しは関わったことのある人なら知らない人はいないでだろう「小出裕章さん」の名前すら、大飯判決を出した後に知ったとのこと。

そんな樋口さんが下した大飯原発3・4号機の運転差止め判決、いわゆる樋口判決は、長年、反原発・脱原発の運動に関わってきた人からも自分たちの言いたかったこと、あるいは言い続けてきたことの核心はこういうことだったんだと、新鮮かつ感動をもって受け止められた。
判決要旨はこちら
判決の抜粋、要旨、主文等は「福井から原発を止める裁判の会」のHPこちらをどうぞ

今回の記念講演ではこの樋口判決の背景となった考え方、そして判決に込めた思いについて話していただいた。
約1時間30分の講演全体をここで紹介することはできないし、近日中には録画した講演の記録をご覧いただけるようにしたいと思っているので、ここでは「だから原発は止めなければいけない」という簡潔・明瞭かつ私も含め多くの人が「えっ?!」と驚く新鮮な理由について紹介したい。

裁判官というのは数多くの裁判を担当している。
原発訴訟ともなると原告、被告それぞれの主張だけでもかなりの量になる。
その中から両者の言い分のどこが食い違うのか、いわゆる争点を素早く的確に見極めるのが裁判官の最初の仕事だ。
大飯訴訟では、原告は「原発敷地に強い地震が来るかもしれない」、被告関西電力は「将来にわたって原発敷地には強い地震は来ない」主張していた。
強い地震に原発は耐えられないということについては両者争いはない。
樋口さんはここにまず驚いたという。
原発って頑丈にできていてかなり強い地震にも耐えられるというのが多くの人の認識だろう。

では、原発が耐えられない強い地震はどの程度の地震か。
そこで示されたのがこの表である。


※ガルは地震の揺れの強さを示す加速度の単位。マグニチュード(M)が大きくても距離があればガルは通常小さくなるし、直下の地震ならMがちいさくてもガルは大きくなる。

2000年以後の国内の地震で最大のガルを記録したのは岩手宮城内陸地震4022ガル。山が大きく崩れ、グランドキャニオンみたいになった映像に衝撃を受けた
1000ガル以上を記録した地震はここ数年だけでも数多くあることがわかる。
ということで、国内の住宅メーカーは近年、耐震性をアピールしてるのはご存じの通り。
写真一番上の5115ガルは実は三井ホームの住宅、これなら安心だ。
住友林業は3406ガル。これだけあればまあまあの安心度、合格だろう。

さて、大飯原発はというと・・・建設時はなんと405ガル。
東日本大震災を受けて引き上げました!といっても700ガル。
(ちなみに志賀原発2号機は建設時490ガル、東日本大震災で600ガルに引き上げ、その後の再稼働申請で1000ガルに引き上げると言っている。なんか数字遊びしているようだが、ここではこれ以上踏み込まない)

話を裁判に戻すが「原発は強い地震に耐えられない」ことは原告・被告双方に争いはない。
その強い地震とはハウスメーカーが想定している揺れと比較するとはるかに小さいのである。

なぜこんな低いガル数でも大丈夫!と関西電力は主張しているのか。
要するに大飯原発の敷地に700ガル以上の強い揺れをもたらす地震は来ないというのである。

ここで上の表のカッコの中のマグニチュード(M)の値を見ていただきたい。
一番下の2009年の伊豆半島の地震は703ガル。
私は報道されたことすら知らないし、おそらく被害も大したことはなかったのではないか。
M5クラスの地震なら国内で頻繁に起きている。
ほとんどニュースにすらならない。
そして700ガル以上を記録する地震も年に数回は起きている。
悲しいことに地震大国日本では全然驚くような規模の地震ではない。
大飯原発はそんな地震にも耐えられないが、とにかくそんな地震が大飯原発を襲うことは将来にわたってないというのが関電の主張である。

ここでもう一つ上の表で注目していただきたいのは一番上の表題である。
46億年という地球誕生からの歴史どころか、たかだかこの19年間のデータである。
20世紀は、実はガルを図る計測器の設置箇所が少なかったため、正確な記録は残っていないのである。
(阪神淡路大震災の最大ガルもわかっていない)
強い地震が来ないという関電の主張は、地震の予知ができると言っているに等しいが、地震学が地震の場所、時期、規模の予知に成功したことは一度もないし、予知できないと認めている。余地を可能にするだけの資料など地震学にはないのだから。

さて、結論を急ぐと、この程度の耐震基準、そしてそれを上回る強い地震がこれだけ頻繁に発生している中で、皆さんは原発の安全性について納得するんですか?という話だ。
「がんは万が一ではなく2分の1」というCMがあるが、原発事故も万が一どころかかなりの高い確率だと覚悟しておいた方がいい。
万が一の事故を許容するかどうかという議論ではないのだ。

樋口さんの指摘する原発の危険性は、原発容認派に向けられるだけではない。脱原発派の認識の甘さすら厳しく指摘している。

樋口さんは講演の最後にこんな話もされた。
大飯判決後、原発容認派からは「あの裁判官は左翼だ」と批判された。
脱原発派からは、「圧力に屈せず、信念を貫く裁判官だ」と讃えられた。
しかし、いずれの評価も当たらないことは以上の講演内容からお分かりいただけるかと思う。
極めて理性的に、かつ国民の常識(社会通念)に沿って判決を下しただけだ。

いま、志賀原発を廃炉に!訴訟は敷地内断層問題を原子力規制委員会に丸投げする加島裁判長の訴訟指揮で、結審の見通しが見えなくなっている。
樋口さんは、原発の安全性は高度に専門的な問題だからと判断を規制に丸投げし思考停止に陥っている多くの原発訴訟を担当する裁判官、あるいは司法の現状に対し、独立の気概を持てという。
表現を変えれば自らの頭でちゃんと考えろということだ。

悲しいかな、難関の司法試験に合格したエリートのはずの裁判官だが、先例主義や権威主義を隠れ蓑して自らは考えない人が多いようだ。つじつまが合わなくなると偏狭な自分の価値観を「社会通念」の名のもとに持ち出して結論を覆してしまう。

だからと言って悲観していても始まらない。
自ら考えない裁判官に対しては、こちらから丁寧に考え方を提示してあげるしかない。
樋口判決や樋口講演録はまさにお手本だ。
樋口さんは自らの判決こそ社会通念に沿ったものと自信を持って語る。
ハウスメーカーの耐震基準すら大きく下回る原発の耐震基準。
この一事をもってしても「再稼働を認めることなど論外」が社会通念だ。
樋口さんはいま「原発の危険性を知ってしまった以上、伝える責任がある」と全国を駆け回っている。
社会通念が捻じ曲げられることなどあってはならない。
私たち講演会参加者も「樋口さんの講演を聞いてしまった以上、伝える責任がある」。

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原告団総会の報告はこちらを参照してください。




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