土手を転がるように駆け降り、シズカは高架下に走り込むと高校指定のスクールバッグを投げ出して倒れ込んだ。拍子に中身がぶちまけられ、護身用に持っていた大振りのカッターナイフも土の上に滑り出た。シズカはむしゃぶりつくようにカッターナイフに飛び付き、刃を出し、それを構えて振り返った。誰も追ってきてはいない。ヒロコ達を上手くまけたのか? 明るく人気者だった小学生時代に習っていたソフトボールクラブ時代の脚力がまだ自分に残っていたのか? 或いは単にヒロコ達が『自分達がイジメ対象に過ぎないクラスの底辺女子を街中で本気で追い回す』という状況をダサく、割りに合わないと判断したのか? シズカには判断がつかなかった。だが、一先ず逃げ延びる事はできた、とシズカは思った。
シズカはカッターナイフを下ろし、その場にへたり込み、乱れた呼吸を整えようとした。ズレた眼鏡を押し上げる。喉が猛烈に渇いていた。スポーツ飲料が飲みたかった。高架下の隅で、それを見ているモノもいた。そのモノは隅にあった半ば崩れ掛けた祠の中にいた。本当は祠に封じられていたモノだが、人間達が自分を忘れ、祠も朽ちたので、今は気分次第で祠から出入りすることができた。遥か昔、自分が偉大だった頃、自分には何か重大な役割があった気がしたが、そのモノはそれが何だったか? もうとっくに忘れてしまっていた。そのモノはジッと、シズカを『見て』いた。既に衰えたそのモノが人間に関わるにはそれなりの適性と手順が必要だった。久し振りだ、とも思っていた。
と、シズカのスマートフォンが振動した。滑稽な程、ビクリと体を震わせ、恐る恐る制服のポケットからスマートフォンを取り出し確認するシズカ。
シズカはカッターナイフを下ろし、その場にへたり込み、乱れた呼吸を整えようとした。ズレた眼鏡を押し上げる。喉が猛烈に渇いていた。スポーツ飲料が飲みたかった。高架下の隅で、それを見ているモノもいた。そのモノは隅にあった半ば崩れ掛けた祠の中にいた。本当は祠に封じられていたモノだが、人間達が自分を忘れ、祠も朽ちたので、今は気分次第で祠から出入りすることができた。遥か昔、自分が偉大だった頃、自分には何か重大な役割があった気がしたが、そのモノはそれが何だったか? もうとっくに忘れてしまっていた。そのモノはジッと、シズカを『見て』いた。既に衰えたそのモノが人間に関わるにはそれなりの適性と手順が必要だった。久し振りだ、とも思っていた。
と、シズカのスマートフォンが振動した。滑稽な程、ビクリと体を震わせ、恐る恐る制服のポケットからスマートフォンを取り出し確認するシズカ。