イズミは一人で暮らしていた。広い屋敷で、人形を一つ持って。食事は誰かが用意してくれたが、時々人形を隠されたりもした。「今日も私の勝ち」イズミは面白がってそれを見付けた。
屋敷はいつも夜だった。もうずっと夜だった。夜空には奇妙な穴があり、星が瞬いていた。何かを忘れているようだった。
ミズホはまた人形を隠してイズミと遊んでいるなどと言って、父に怒られた。父はイズミは拐われた、古井戸の底にもいないという。実際、幾年か前にイズミが古井戸に落ちた日、井戸を浚っても一緒に落ちた人形しか見付からなかった。朝からとんだことになったとミズホが父から退散すると、何も無い廊下から煙のようにギンコが現れ、驚かされた。
イズミが屋敷で目覚めた。また人形が無い。探してみると、いつになく簡単に人形が隠してあった。人形を取ろうとするとギンコが側で待ち構えていた。「見付けた」見付けられたイズミは息を飲んでギンコから逃げ出した。「あ、待て。話を聞け」追いながらギンコはこれが『井星』という蟲の仕業でお前は長くこれに触れた為に記憶を失っていると説いたが、イズミは従わない。
「勝手にさせてもらう」ギンコは庭に組んだ薪に蟲煙草で火を点け、煙を上げさせた。煙は夜空の穴を通して外へと昇っていった。「イズミ、イズミ!」空の穴の向こうに人影が二つ現れ何度も名を呼び始める。「ミズホちゃん。お母さん」ようやく思い出した。イズミは両手を広げた。「ここよ!」イズミの声と共に、空の穴は広がり、気が付くとギンコと二人で元の世界の本当の庭にいた。
古井戸は埋めることになったが、中を貫いた竹が底に向けて差された。夜、イズミがこっそり見に行くと、竹から夜空に『井星』が逃れてゆく。思わず触れそうになるが、思い止め、光りながら昇ってゆく蟲をイズミは見つめていた・・・
屋敷はいつも夜だった。もうずっと夜だった。夜空には奇妙な穴があり、星が瞬いていた。何かを忘れているようだった。
ミズホはまた人形を隠してイズミと遊んでいるなどと言って、父に怒られた。父はイズミは拐われた、古井戸の底にもいないという。実際、幾年か前にイズミが古井戸に落ちた日、井戸を浚っても一緒に落ちた人形しか見付からなかった。朝からとんだことになったとミズホが父から退散すると、何も無い廊下から煙のようにギンコが現れ、驚かされた。
イズミが屋敷で目覚めた。また人形が無い。探してみると、いつになく簡単に人形が隠してあった。人形を取ろうとするとギンコが側で待ち構えていた。「見付けた」見付けられたイズミは息を飲んでギンコから逃げ出した。「あ、待て。話を聞け」追いながらギンコはこれが『井星』という蟲の仕業でお前は長くこれに触れた為に記憶を失っていると説いたが、イズミは従わない。
「勝手にさせてもらう」ギンコは庭に組んだ薪に蟲煙草で火を点け、煙を上げさせた。煙は夜空の穴を通して外へと昇っていった。「イズミ、イズミ!」空の穴の向こうに人影が二つ現れ何度も名を呼び始める。「ミズホちゃん。お母さん」ようやく思い出した。イズミは両手を広げた。「ここよ!」イズミの声と共に、空の穴は広がり、気が付くとギンコと二人で元の世界の本当の庭にいた。
古井戸は埋めることになったが、中を貫いた竹が底に向けて差された。夜、イズミがこっそり見に行くと、竹から夜空に『井星』が逃れてゆく。思わず触れそうになるが、思い止め、光りながら昇ってゆく蟲をイズミは見つめていた・・・