よしだルーム

吉田政勝の文学的な日々

よし、小説家になる!

2016-04-13 08:59:36 | 日記
「娘が今の職業が合わないので、小説家になりたいと言いだした」と知り合いの女性のことば。
当たり障りなくきびしさを婉曲に伝えるが・・・。そもそも文章がまともに書けるようになるまでの道のりは短兵急ではない。たとえば私は何をしてきたか~

文学ノート、手帳。




本を読み「名文を書きうつす」

辞書は彼女のように仲良くする。必要なときに触る、開く。

カウリスマキの映画で、文学に縁がない与太者が
結婚を機に「よし、小説家になる!」と言ったセリフには笑った。
そんなタイプでない男がいきなりだ。でも、希望がゼロではない。
己の努力に見合わない夢は実現性が低いだろう。

 20歳に買った辞典はボロボロになった。

エッセー教室の講師が藤原てい氏。私の私淑する作家のひとりだ。
この言葉にささえられて「流転」が書けた。


小説新人賞応募は一次、二次審査は通過するが最終作に残らない。
小説家にはなれなかったが、エッセー集とノンフィクションの本は出版できた。
今は地域の新聞記事を書いている。報酬があるのでプロといえるかもしれない。

泣ける話

2016-04-10 09:53:53 | 日記
本州では桜の花が咲くころに、卒業や入学式がある。
北国では、卒業式シーズンは、まだ雪が残っている。入学式の記事を新聞が伝えているが、まだ雪は日陰の北側に残っている。
この時期になる記憶の底から「卒業式」のことが浮かんでくる。



中学の卒業式だった。

卒業証書を持って、校門を出たとき、友だちと別れるんだ、と感傷がこみあげてきた。5人で校門を出て歩きだした。
「おやき食べにゆかないか」とK君が提案した。みんなが同意した。ためらいがちにぼくはポケットの小銭を数えた。1つくらいは食えそうだったと思った。
おやき屋ののれんをくぐると、1人2個頼んだが、私は「1個でいいから」と店主に言った。するとK君は店主に顔を向けて
「じゃ、おれ3個食うから」と言いなおした。彼は野球部の運動選手だったから食欲は旺盛だ。
ぼくは1個のおやきを、味わいながらゆっくり食べた。
するとK君が、ぼくの目の前に皿を差し出してきた。1個のおやつが乗っている。
「食え、おれ2個食べて腹いっぱいだから」と言った。彼は自分のために3個頼んだわけでなかった。躊躇しながらおやきと彼の顔を見た。
「おれの好意をむげにするのか」と彼は言った。
ぼくは彼の強引さがうれしくて照れ笑いをしながら、おやきをとって軽く頭を下げた。
何か言うと泣きそうになる。ぼくは食べながら窓の方に視線を向けて黙って食べた。




この短い短文は地元誌に載り、はがきが届いたと編集者から電話を受けた。
読んで泣いた、と記してあったそうだ。たぶん、他の読者も泣いたのかもしれない。
おやき屋さんの前を通ると、卒業式のあとで「おやきを食った」ことを思い出す。



中学のアルバムから
川でのキャンプ(女子)
川でのキャンプ(男子)

球技大会

クロッカスが咲く季節に

2016-04-09 12:08:53 | 日記
4月5日、帯広の某病院へ手土産を手に友だちを見舞いに行ったら、
ナースステーションで「Tさんは退院されました」と言われた。
3月初めに私は風邪をひいて熱を出して寝込んだ。彼を見舞いにゆきたいが、
風邪をうつしてはいけないと自制した。その後、私はじんましんで病院に通い
薬を飲み続けた・・・。



私は彼は治って退院ではないと想像した。彼は白血病なので専門医と
最新の治療方法を求めて転院したと思った。

Tさんと私は、若いころ帯広の夜の街で5~6人で徘徊し遊んでいるうちに
親しくなった。夏の野外コンサートにも行った。
彼はやがて、脱サラしてレストラン&宿泊の経営に乗り出した。
彼からデザインの仕事をもらい、彼のイベントも手伝った。
仕事をしているとクライアントからイヤな思いをすることがあるが、
彼の言動で傷ついたことがない。京都の大学を出てきているから
彼には知性がある。私はそういうインテリが好きだし話ができる。
知的レベルが低く、独りよがりな人はバカなことを口走るから幻滅する。

すると8日、Tさんからメールがきた。「東京にいます」と。

9日私は彼あてにためらいながらメールを送った。
「俳優の渡辺謙も白血病で治療し復帰した。東京で良い治療方法あるはず。
芽室のKさんも肺ガンといわれたが、治療薬効いて職場復帰している」

すると、ただちに彼からメールが届いた。
「ありがとう」

たった5文字、それを見つめていると涙が流れた・・・。


彼の無事の帰還を念じ、これを書いた。
(2016年4月9日)

打算のない心・・・

2016-04-06 08:21:08 | 日記


帰還・作者プラトーノフ~短編小説


夫は久しぶりで帰還した。(戦時中か。留守中にセミョーンという男が親切に子どもたちにプレゼントしている、と夫は小耳にはさんだ。それは下心があるからだと思う夫)

「あの人、立派な心なのかもしれない。だから、ああなんだわ」と妻。

「ばかだな、おまえは。わるいけどな。打算なしには何事もありゃしないよ」

「でも、セミョーンは、しじゅう子どもたちに何かしら持ってきてくれたのよ。でも、当人はあたしたちに何も求めないのよ」

「・・・・・・・」夫は、疑いの目を向ける。

「でも、あの人に言わせると、他人のことを心配していると、気持ちが楽になるし、そうすれば死んだ家族のことを、ひどく悲しまなくていいんだって。会ってみれば、あなたが思っているのと違うわ」

「くだらんたわごとだ。おれをごまかそうとするな」と夫は言った。

「あの人はもう2度と家に来ない。これ以上来ないように、あたし言うから・・・」



↑この小説を読んで感動した私は備忘録に記した。
人の親切には「下心や見返りを期待する偽善が隠されている」
だが、人に親切にするだけで下心のない人も稀にいる。
それこそピュアな愛なのだろうと思う・・・


2016年の春に~
M,Y