伊集院静の「なぎさホテル」にそれが書いてある。
離婚し、心が荒んでいた彼は、故郷に帰るつもりが、ふと海がみたくなり途中下車した。逗子の浜辺でビールを
飲んでいた。声をかけてきた紳士がいた。
「どこかに泊まるのですか?」
「金がないから、この辺のホテルには泊まれないよね」
「金?。そこのホテル、部屋が空いている使いなさい」
なぎさホテル・・・。そこの支配人だった。
そこの部屋で彼は、文学全集をとりよせ、小説を書き始めた。時々、彼女が来ていた。女優、夏目雅子だった。
ある日、従業員が前川清コンサートの抽選に外れた、と嘆いた。それを聞いた伊集院さんは「おれが聞いてみる」とコンサート会場に向かった。偶然、前川清が会場に到着した。目と目が合った。「あれ、伊達先生ではないですか?」と前川。伊集院は彼の歌を作詞していた。従業員は前川のコンサート会場に招待された。支配人とホテル従業員は「あの人、単なる流浪人でない!」と気づいた。
ホテルで小説を書いた彼は、1作は一次予選も通らなかった。だが、もう1作は最終に落ちたが「何か書いてみないか」と編集から声がかかった。彼の小説家としての人生がスタートした。
彼と夏目雅子の結婚に、周りの者の多くは反対した。だが、篠田正浩監督と高倉健は「彼には才能がある」と評価していた。「なぎさホテル」忘れられない本になった。