よしだルーム

吉田政勝の文学的な日々

泣ける話

2016-04-10 09:53:53 | 日記
本州では桜の花が咲くころに、卒業や入学式がある。
北国では、卒業式シーズンは、まだ雪が残っている。入学式の記事を新聞が伝えているが、まだ雪は日陰の北側に残っている。
この時期になる記憶の底から「卒業式」のことが浮かんでくる。



中学の卒業式だった。

卒業証書を持って、校門を出たとき、友だちと別れるんだ、と感傷がこみあげてきた。5人で校門を出て歩きだした。
「おやき食べにゆかないか」とK君が提案した。みんなが同意した。ためらいがちにぼくはポケットの小銭を数えた。1つくらいは食えそうだったと思った。
おやき屋ののれんをくぐると、1人2個頼んだが、私は「1個でいいから」と店主に言った。するとK君は店主に顔を向けて
「じゃ、おれ3個食うから」と言いなおした。彼は野球部の運動選手だったから食欲は旺盛だ。
ぼくは1個のおやきを、味わいながらゆっくり食べた。
するとK君が、ぼくの目の前に皿を差し出してきた。1個のおやつが乗っている。
「食え、おれ2個食べて腹いっぱいだから」と言った。彼は自分のために3個頼んだわけでなかった。躊躇しながらおやきと彼の顔を見た。
「おれの好意をむげにするのか」と彼は言った。
ぼくは彼の強引さがうれしくて照れ笑いをしながら、おやきをとって軽く頭を下げた。
何か言うと泣きそうになる。ぼくは食べながら窓の方に視線を向けて黙って食べた。




この短い短文は地元誌に載り、はがきが届いたと編集者から電話を受けた。
読んで泣いた、と記してあったそうだ。たぶん、他の読者も泣いたのかもしれない。
おやき屋さんの前を通ると、卒業式のあとで「おやきを食った」ことを思い出す。



中学のアルバムから
川でのキャンプ(女子)
川でのキャンプ(男子)

球技大会