つきみそう

平成元年に出版した処女歌集の名

国葬を終えて 2

2022-10-06 | Weblog

前日の続きです。伊勢氏のメルマガから。

■4.「官房長官時代から構想してきたクアッド」

 この点を、もう少し深く考察しているのが、産経新聞の次の記事でした。

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 安倍氏の国葬をめぐっては、カナダのトルドー首相が災害対応で欠席したため、先進7カ国(G7)首脳の参列がないことを強調し、揶揄(やゆ)した報道もある。だが、安倍氏が注力したインド太平洋地域から多くの首脳や政権幹部が集まり、弔意を示したことにまず着目すべきだ。

 象徴的なのはオーストラリアとインドといえるだろう。豪州からはアルバニージー首相と元首相3人が来日した。アルバニージー氏は「私と3人がそろって日本に行くことは(安倍氏への)尊敬の念を表すものだ」と26日のインタビューで強調している。

 インドのモディ首相の来日は滞在24時間以下(印メディア)という強行日程だが、同国外務省は「日印関係強化の偉大な推進者である安倍氏」を悼むためだと指摘した。アルバニージー、モディ両氏はともに5月にクアッド首脳会合で日本を訪れているが、それでも出席を選択した。

 中国が覇権主義的な行動を繰り返す中、豪印は安倍氏の「自由で開かれたインド太平洋」構想やクアッドを対外戦略の中心的位置に据えている。「民主主義国家は将来にわたり、拡大する中国を意識せざるを得ない。安倍氏の遺産は民主主義の価値を重んじる国が協調する土台を作ったことだ」とは、産経新聞の取材に応じたインド外務省関係者の談だ。[産経R040927b]
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 5月にクアッドの首脳会合が東京で開かれた際には、安倍氏がツイッターで、「官房長官時代から構想してきたクアッドが、とうとう東京で開催され感無量[西村、p226]」と洩らしたそうです。

 安倍氏が官房長官になったのは、小泉内閣で平成17(2005)年のことですから、もう17年も前のことです。「自由で開かれたインド太平洋」と、それを実現する日米豪印による「クアッド」の構想は、こんなにも長い間、暖められてきたのです。


■5.インドの立場を国際的リーダーに押し上げた安倍氏

 インドは第二次大戦後の米ソ対立のもとで、非同盟路線を歩んできました。自由民主主義を採用し、共産主義陣営には与しませんでしたが、英国の植民地として苦しんできた経験から欧米諸国への警戒も忘れず、両陣営の狭間でアジア・アフリカ諸国のリーダー役を果たしてきました。

 しかし、近年は中国が覇権主義国として台頭し、インドに対しても国境紛争をたびたび引き起こして、国際政治における同国の立場は微妙になってきていました。ここで安倍氏が「世界最大の民主主義国」インドを、中国包囲網の一環に取り込む戦略で迫ったのです。

 安倍氏は平成18(2006)年に第一次内閣をスタートさせると、翌年にはインド国会で「二つの海の交わり」と題した演説をしています。

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 太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として一つのダイナミックな結合をもたらしています。従来の地理的境界を突き破る「拡大アジア」が明瞭な形を現しつつあります。これを広々と開き、どこまでも透明な海として豊かに育てていく力と、そして責任が私たち両国にはあるのです。・・・

 このパートナーシップは、自由と民主主義、基本的人権の尊重といった基本的価値と戦略的利益と共有する結合です。

 日本外交は今、ユーラシア大陸の外延に沿って「自由と繁栄の弧」と呼べる一円ができるよう、随所でいろいろな構想を進めています。日本とインドの戦略的グローバル・パートナーシップとは、まさしくそのような営みにおいて要(かなめ)をなすものです。

 日本とインドが結びつくことによって、「拡大アジア」は米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶ広大なネットワークへと成長するでしょう。開かれて透明な人とモノ、資本と知恵が自在に行きするネットワークです。

 ここに自由を、繁栄を追い求めていくことこそは、我々両民主主義国家が担うべき大切な役割だとはいえないでしょうか。[西村、p106]
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「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンをインドに説いた演説でしたが、このビジョンは今まで曖昧な立場にいたインドを、一気に国際政治の主役に押し上げるものでした。それもアメリカや欧州諸国も含めた自由民主主義国の連帯の中で、です。

 インドのモディ首相が「最も親しい友人の一人である安倍晋三氏の悲劇的な死に言葉にできないほどの衝撃と悲しみを受けている」と悲痛なメッセージを出し、インド全土で喪に服し、今回の国葬儀にも滞在24時間以下という強行日程にもかかわらず駆けつけたのは、安倍氏のビジョンへの深い感謝があったからです。


■6.アメリカも国際政治で目指すべき道を見つけた

 アメリカの国際政治における立位置も「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンで、大きく変わりました。そのインパクトの大きさは、今回のアメリカの反応に現れています

 7月8日、安倍氏暗殺の情報が伝わるや、アメリカ全土の公共の建物で3日間の半旗掲揚が指示されました。政府の建物だけでなく、警察署、郵便局、図書館、高校に到るまで、すべてで半旗掲揚となったのです。日本政府が半旗としたのは、11日からの2日間、それも政府省庁のみですから、アメリカの素早さと徹底ぶりには驚かされました。

 アメリカで外国要人の逝去に半旗とするのは、今まで4、5人あっただけと言いますし、また共和党と民主党で意見が割れたりすることがありますが、今回は超党派で喪に服す声明が出されました。また上院では安倍氏の功績をたたえる決議を全会一致で決議しています。我が国で今回の国葬儀を国会に諮ったとしたら、全会一致などはあり得なかったでしょう。

 なぜ、アメリカがこれほど安倍氏の功績を評価するのでしょうか? 西村幸祐氏は最新著『日本人だけが知らなかった「安倍晋三」の真実』の中で、「安倍氏がアメリカを動かし、日本の国益に沿うように領導した」から、と述べています。

 それを明瞭に示しているのが、トランプ政権時の2018年、ホワイトハウスがまとめたインド太平洋に関する初の戦略文書「インド太平洋における戦略的枠組みに関する覚書」です。この文書はバイデン政権になってから公開され、民主党もこの覚書に沿った外交方針を採っていることが窺われます。

 そこではアメリカの卓越した国際的優越性を維持するには、同盟国友好国との協力が鍵であり、特に日本やオーストラリア、インドとの連携、これらの国々の能力強化、より大きな責任分担の必要性を強調しています。特にインドの役割の拡大を図ることを重点目標として掲げている点など、安倍氏のクアッドの構想そのものです。

 さらに、今まで「米国太平洋軍」と名乗っていた米国最大の軍隊の名称を「米国インド太平洋軍」と変更までしています。

 内政においては、難民や人工妊娠中絶を巡ってほとんど国家分裂状態にあるアメリカですが、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンにおいては、超党派で一致しています。アメリカの国際政治における立場は「世界の警察官」となったり、孤立主義をとったりと、ふらついていましたが、安倍氏のビジョンによって、アメリカは自分たちの目指すべき道を見定めたのです。


■7.「日本よ、日本人よ、世界の真ん中で咲き誇れ」

 こうして安倍氏のビジョンは、インド、アメリカ、さらにはオーストラリアや東南アジア諸国も含めて、自由民主主義の価値観での連帯を着々と築きました。中国から見れば、気がついたら、周囲はすべて中国の覇権主義に異を唱える国々に包囲されていたわけです。

 その包囲網の中心にいるのが我が国です。第一次安倍政権では、安倍氏は「戦後レジームからの脱却」というスローガンを掲げて、アメリカからも危険なナショナリストと見なされていました。それが現時点で見ると、今や日本は「自由で開かれたインド太平洋」のリーダー国の一つになっています。

 すなわち、安倍氏はより高次のビジョンを示すことで、国際社会における「戦後レジームからの脱却」を達成したのです。しかし、今回の国葬儀でも見られたように、国内の「戦後にしがみつく左翼老人」たちが、「戦後レジームからの脱却」を妨害しています。

 我が国が真に「自由で開かれたインド太平洋」のリーダー国になるには、安倍内閣で進めた集団的自衛権、機密情報管理などをさらに仕上げる必要があります。それを知っているからこそ、「戦後を引きずる左翼老人」たちが最後の抵抗をしているのでしょう

「次の時代を担う人々が未来を明るく思い描いて初めて経済も成長する」、そういう未来をもたらすには、中国の覇権主義から世界の自由民主主義を守り、「自由で開かれたインド太平洋」を実現する必要があります。そして、そのためにこそリーダー国として「日本よ、日本人よ、世界の真ん中で咲き誇れ」という安倍氏の祈りを現実化することが、我々の責務なのです。
                                        



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コメント (2)
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