「U理論」
MITのC・オットー・シャーマー博士が打ち出したイノベーションを個人、チーム、組織で起こすためのテクノロジー。
イメージとしては、何となく分かるのですが、同理論への実践への展開となると???の世界。
2007年に出されたC・オットー・シャーマー著「U理論-過去や偏見にとらわれず、本当に必要な変化を生み出す技術/英治出版」。
実は、最後まで読み切ることが出来ず積読になっていました。
その分厚さとともに、学者の文書に途中であきらめた次第です。
今回の入門本は、同書の訳者である中土井僚さんが著した一冊。
原典本と異なり、かなり噛み砕いた、例示を多用した分かりやすい一冊になっています。
「U理論 人と組織の問題を劇的に解決する」
中土井僚著 PHP刊 1800円+税
帯には、「マッキンゼー&MITの知恵と世界トップクラスのリーダー130名の実体験から生まれた画期的アプローチ」とあります。
U理論は、自分なりの言葉でいうと、まずは組織や個人の現状を客観的、主観的にとらえなおし、「気づき」を獲得し、すばやく行動、実践レベルに展開するというイメージ。
現状把握から、すぐさまビジョン系に行くのではなく、まずリフレクション(内省)に落とし込み、そこから何かに気づき行動レベルに移行しようという展開だと理解しました。
U理論は、大きく3つのプロセスで構成されています。
1.センシング ただ、ひたすら観察する
2.プレゼンシング 一歩下がって内省する 内なる知が現れるに任せる
3.クリエイティング 素早く、即興的に行動に移す
つまり、最近流行のリフレクションやダイアローグ、インプロなどの技法、手法が盛り込まれており、新し物好きにとっては堪えられないコンテンツになっているのです。
実際の事例をもとにしたコスモビューティー社のケース、とび職の父を持つ高校生の話など、
身近なパターンにより解説が進んでいく同書は、ふたたび原典にアプローチする際に役立つと思います。
目次
1.人と組織がアタマを抱える問題を解決する
2.U字理論が起こすパラダイムシフト
3.本質的な変容を起こすU理論の7つのステップ
4.U字理論の実践 個人編
5.U字理論の実践 ペア・チーム編
6.U字理論の実践 組織・コミュニティ編
同書の中で、もっとも大きく頷いたのが、キング牧師が言ったとされる「愛なき力」と「力なき愛」。
U字の左側を下に下る部分は「愛」、プレゼンシングを経て上に挙がっていく部分は「パワー」・・・。
なるほどです。
強い想いを、行動に転化していくフローなのです。
最近、モチベーション理論やワークショップ論、ファシリテーションやインプロなどなど新しいムーブメント、イノベーションを起こすための手法、技法が花盛りです。
へたに研修やワークショップに参加すると、とんでもないことをやらされるハメになります(笑)。
即興演劇をしたり、心にもないことを言わされたり、握手をしたり、踊ったり・・・園児の学芸会さながら、宗教さながらの展開になります。
いい年をしたお父さんお母さんたちが踊り舞う姿は、笑いどころか涙を誘います。
それだったら、昭和の時代の社歌を歌ったり朝礼をしたり社員旅行、社員運動会をした方がよかったような気もします。
そこまでして変わりたくないよ・・・というのが多くの人の本音だと思います。
でも、会社や学校や社会は、変わらないと生きていけないと言う。
どこまで教育で人を変えていくことが出来るのか?
技術的にも、倫理的にも、社会的にも本当に難しい問題だと思います。
半世紀前、ST(センシティブ・トレーニング)という、今でいうリフレクションの土台から従業員の意識変革、行動変革に結び付けようという米国伝来の教育技法がありました。
今でいう圧迫面接的なやり方・・・受講者が教室から逃げ出すといったこともあったとか。
STは、短い期間で消え去っていきました。
まるで、流行歌のように。
意識改革や行動変革につながらなかったようです。
今回のU理論は、スタンダードになるとは思いませんが、職場の過度のIT化、社会のデジタル化で疲弊した元来のコミュニケーションを復活させる鍵になると思っています。
時間のある勉強好き、自己啓発好きの若い人たちが集まり、勉強会やワークショップを開くことは、とても良いことだと思います。
大切なのは「社会化」。
いかに噛み砕いて勤め人や会社、そして、学校や学生までに浸透させていくことが出来るのか?ということだと思います。
横文字や突拍子もない技法は出来るだけ排除しながら、
熱意と信念をもって働きかけを行っていくことだと考えています。
そのためには、まずは自己の確立。
同書の「U字理論の実践 個人編」(282ページ~)から読み始めることが良いと思います。