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今日の筆洗

2023年12月09日 | Weblog
江戸時代の俳人・松尾芭蕉は『おくのほそ道』の旅でカキを食したのではないか。そんな説を、宮城の気仙沼でカキ養殖業を営み「森は海の恋人」を合言葉に海に栄養をもたらす森づくりにも取り組む畠山重篤さんが著書『牡蠣(かき)礼讃』(文芸春秋)で唱えている▼おくのほそ道の行程は特に日本海側で、川が海に注ぎ天然のイワガキが育つ汽水域沿いの道が続くという。秋田・象潟(きさかた)もカキで知られた。土地の珍味を、滞在した俳聖ご一行に供さぬわけがないと書いている。グリコーゲンなど豊富な栄養分が健脚を支えていたのだろうか▼養殖ガキの成育が近年、不調らしい。2022年の全国の生産量(速報値)は03年から2割超減少。三重ではピークの1980年代の4分の1以下になった。海水温上昇などが要因らしい。新たな養殖場や高温に耐えられる種ガキを探しているという▼ブリが、従来はあまりとれなかった北海道で大漁になるなど海の異変は近年よく聞かれるが、カキも無縁でないようだ。気候変動対策にもっと真剣に取り組まないと、食卓の風景は変わり続けるのかもしれない▼旅に生きた芭蕉はおくのほそ道を「月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行かふ年も又旅人也」と書き始めた。「月日は永遠にとどまることのない旅人で、やって来ては過ぎ去る年もまた旅人である」▼今ある人類の月日が永遠かは定かでなかろう。