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今日の筆洗

2016年03月12日 | Weblog

 トールキンが生んだ児童文学の名作『ホビットの冒険』に、こんな場面がある。暗い洞穴に入り込んだ小人のビルボは、黒くぬるぬるした化け物ゴクリと出くわす。ゴクリは言う。なぞなぞ合戦をしよう。おまえが勝てば洞穴からの抜け道を教えるが、負ければ食ってしまうぞ▼そうして始まった運命を懸けたなぞなぞ合戦でゴクリが出したのは…「どんなものでも 食べつくす、鳥も、獣(けもの)も、木も草も。鉄も、巌(いわお)も かみくだき、勇士を殺し、町をほろぼし、高い山さえ、ちりとなす」…さてこれは何か?▼児童文学者の斎藤惇夫さんは子どもたちとなぞなぞ遊びをするとき、この難問を出すという。よく返ってくる答えは、「人間」「心」に「宇宙」や「夢」。なるほど、という答えばかりだ▼しかし、斎藤さんが震災後に福島で聞いたら、子どもたちは一斉に、こう答えたそうだ。「地震」「放射能」。(『3・11を心に刻んで2016』岩波書店)▼震災と原発事故が子どもたちの生活を、いかに揺るがしたのか。心にどんなひだをつくったのか。二万を超す福島の子どもたちがいまだ避難生活を送っていることを思えば、五年という歳月の重さが、いっそう重くなる▼ゴクリが出したなぞなぞの答えは、「時間」である。だが五年前に途方もない代償を払って手にした教訓を、時間に食べつくさせるわけには、いかない。