「山笑う」は春の季語です。暖かくなり生命の躍動が感じられだした山の姿を「笑う」と表現しているのでしょう。その山が笑う春の一日、山梨県に東のはずれ、神奈川県との県境に位置する道志山塊へ出掛けました。歩く目線の先には山桜の薄いピンクや桃の濃いピンク、足下に目をやればスミレの薄紫に名前の通り破れた傘さながらのヤブレガサの緑の葉っぱ、陽光が差し込む方向を見上げればブナの新緑が風にそよいでいます。また、鳥のさえずりは遠くなったり近くなったりしながら耳を愉しませてくれます。まさしく、山が笑っているのを感じることが出来ました。そして、山全体がひとつの小宇宙をなしているかのような、いわば自己完結した世界としての印象を受けるほころびのない雰囲気、命ある全てのものが、あるべきところにあるべくしてあるといった、予定調和に満ちていました。そんな中をゆったりとリラックスした気持ちで歩くことが出来ました。最近、ビオトープが置いてある観賞魚のお店が増えているように思いますが、そのビオトープを見た時、同じように心和むものを感じることがあります。おそらく、両者に共通するのは調和であり、その調和が私のこころに安らぎを与えてくれるのでしょう。さて、「故郷やどちらを見ても山笑う」は子規の句です。「どちらを見ても」と言うあたりに、子規が笑っている山に調和を感じていたことが現われているように思えてなりません。
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