花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

page-turner

2018-05-26 20:32:06 | Book
 日曜日の朝日新聞には各界の方が仕事について語るコーナーがあります。5月20日は作家の辻村深月さんでした。「かがみの孤城」で本屋大賞を獲った人気作家が、どのような話をされるのかと読んでみました。このインタビューは4回シリーズらしく、先ずは子ども時代の話から始まりました。その中で、小学6年生の時、綾辻行人さんの「十角館の殺人」に衝撃を受けたとありました。「十角館の殺人」は確か自分の子どもが持っていたなと思い、本棚から取り出して読んでみました。
 4人が惨殺され、1人が行方不明となった事件の舞台のなった離れ小島を、大学のミステリー研究会のメンバーが訪れます。すると、5人が殺され、1人は探偵、1人が犯人になると何者かが予告します。ミステリー研究会の面々らしく、その予告が意図するところについてそれぞれが推理をめぐらします。読み始めたら止められなくなる本のことを英語では‘page-turner’と言いますが、まさしくページを繰る手が止まりません。ただ、止まらない理由は途中で変わってきました。
 最初の殺人が行われるまでは、展開の面白さに引き込まれてのものでした。おとなしく地味な女性メンバーが1人目の犠牲者になったのは、全部で450ページの本のうち180~190ページも進んだところでした。260~270ページで残りの殺人が行われ、最後の謎解きがあるとすれば、ここから先はかなり直線的かつ駆け足になるなと思いました。少々、悪い言い方をすれば、書き方が雑になるのではないかという懸念が起こりました。そんなことを思ったせいで、そこから先は自分の見立てが当たっているかどうかを知りたくて、次々とページをめくっていきました。はたして、私の読み通りだったか。それはさておき、私が「十角館の殺人」を読んだと知った子どもは、「もう一度読んでみようかな」と言っていました。「十角館の殺人」自体を楽しんだ次は、子どもと感想を述べ合う楽しさが待っているかもしれません。また、子どもに辻村さんのインタビューを薦めて、感想を聞いてみたいとも思いました。

口実はシンプルに

2018-05-21 21:28:40 | Weblog
 某日のことです。2日間のうちどちらかは禁酒することになっていて、前日にワインを飲んだので、「今日は禁酒だ」と思いながら家路につきました。ところが、家が近づくにつれちょっと飲みたくなり、何か良い口実はないかと考え始めました。昨夜はワインをボトルで4分の3ほど飲んでいました。そこで次のような理屈をひねってみました。「昨日は4分の1禁酒したから、今日残りのワインを飲んだとしても、4分の3禁酒したことになる。2日間で1本を超えて飲んではならないが、4分の1足す4分の3は1、2日間で2本飲むことと比較すれば1本分は禁酒したことになる。禁酒の分割はアリではないか。」こんな屁理屈を家人にぶつけてみようかと思いました。けれども、最近批判されている、会った(らしい)のに会ってない、○○案件と言った(らしい)のに言ってない、と強弁している高級官僚と同じようで嫌な感じがしました。納得が全く得られないうえ、面の皮が厚いとかえってうさんくさく思われてしまっては逆効果です。どうしたものかと思案しているうちに家へ着きました。夕餉を囲んだ時、「明日のゴミ出しは瓶・缶だったな。少し残ったワインを片付ければ出せるね」と平静を取り繕ってワインの瓶を持ち出したところ、幸いなことにとがめだての気配はありませんでした。しかも、「さてさて」などと独り言を言いつつ新しい日本酒の口を切っても、さざ波ひとつ立ちませんでした。変な小細工をしてはいかんな、人間は正々堂々としてなきゃ、とにわかにわけ知り顔をしても、うそをついたことに変わりはありません。調子づかずに数杯でとどめました。

十五の夏

2018-05-09 22:02:40 | Book
 G.Wに佐藤優さんの「十五の夏」(幻冬舎刊)上下巻を読みました。高校1年生の夏休みをすべて使って東欧、ソ連を旅行した時の記録です。冷戦下、一般的には観光旅行の対象と考えられなかった社会主義圏の旅はどのようなものだったのか、また高校生の目に日本とは異なる体制の国がどう映ったのか、そういったことに興味を持って読み進めました。読み終わって、「思ったよりふつうの旅じゃないか」と感じました。沢木耕太郎さんの「深夜特急」(新潮社刊)のような異文化とのカルチャーギャップがないのは、政治体制こそ違えど組織的に運営されている国家だからでしょう。それともうひとつは、のちに外務省の分析官としてソ連通になった大人の佐藤さんの言葉がそこここに盛り込まれていることで、佐藤青年の若々しさやみずみずしい感性が薄められた結果、彼の体験した内容が実際よりも平板な印象を与えることになったのかもしれません。それでもなお、読ませる内容は豊富でした。たとえば、ポーランドの食堂で知り合った人の自宅へ招かれ、その人のベビー誕生を祝ったり、ハンガリーでの文通友だちおよびその家族との心の通った交流、現地コーディネータの控え目ながらも佐藤さんへの優しい気遣い、あるいは同じく東欧やソ連を旅する日本人に対する観察などなど。さらには、各国の料理への描写が実に細かく、このことからも旅の楽しさが充分に伝わります。教養(今日、用)のないG.Wの私を楽しませてくれました。