花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

2・26事件

2020-02-26 23:37:23 | Book
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

「青年将校たち自身は政治的に敗北したが、長期的に見ると、彼らの主張は戦時中に部分的に実現され、戦後にさらに実質化していったと見ることもできるのである」

 2・26事件は陸軍内の権力争いにおいて統制派に対して劣勢であった皇道派が巻き返しを図ったものでしたが、行動を起こした青年将校の思想的な支えには平等主義がありました。貧困にあえぐ農民や労働者を救うために自作農の創設や労働者の待遇改善など、日本国内で平等主義的な改革を行うことを考えていました。さらに国際的には米英の支配を受けているアジアの諸国を解放し、平等主義を世界に広げる理想も持っていました。
 失敗に終わったクーデターは逆に統制派の権力強化に利用されたものの、昭和10年代には農民の地位向上、厚生省や社会保険制度の設立など、平等主義的な政策が実施され、それは戦後の財閥解体や農地解放につながり、歴史が青年将校の志を引き継いだと言うことが出来るかもしれません。
 けれども、列強による植民地支配からアジア諸国を解放する方はどうだったでしょうか。アジアと連携して米英の勢力を駆逐するのではなく、中国との戦いが泥沼化するうちにアメリカとも戦うことになり、その後の日本は解放とは反対に侵略への道をたどることになりました。
 2・26事件を想うとき、時代の転轍手として振る舞おうとしながら、意図せざる役回りを演ずることになってしまった、歴史の悲劇を感じざるをえません。

 ちくま新書「昭和史講義」所収 筒井清忠論文「二・二六事件と昭和超国家主義運動」から

Conversations With Myself

2020-02-20 22:53:25 | Weblog
 昼休み、たまたま通りかかったお酒屋さんに入ると、なかなかの、いや相当な品揃えで、蔵元がある県内でしか買えないだろうと思っていたお酒がたくさん並んでいました。東京ではあまり見かけない東北、北関東、甲信越などのお酒を眺めながら店内を回っていると、石川県小松市にある農口(のぐち)尚彦研究所の山廃純米がありました。

 農口尚彦さんと言えば、能登杜氏四天王のひとりにして「現代の名工」にも選ばれ、また黄綬褒章を受章した、知る人ぞ知る伝説の杜氏です。何たる僥倖と瓶を手にして躊躇なくレジに運びました。

 帰宅してから早速口を切りました。山廃なので濃厚で酸味のある味を予想していましたが、口にふくんでみると、濃厚と言うよりは重厚、酸味は控えめ。口の中で酸味がフアーっと開いていくのではなく、ふくんだ時のそのままの味が口、のど、胃の腑へストンと落ちていく感じでした。口全体に味が広がるのとは反対に、スーッと駆け抜けていき、静かな余韻だけが残る感覚。自分ひとりの勝手な表現を許してもらえるならば、「リニア(linear:直線的な)」な味わいと呼びたくなるものでした。これまでの山廃に対する先入観とは全く違った、「新しい天体」との出会いでした。

 杯を重ねると味に慣れてきて飽きが来ることがままありますが、そういったことは全くなく、最初の美味しさが当たり前のように続きます。「キレがある」とはこのようなことを指すのでしょうか。また、飲むにつれ何だか寡黙にさせられるお酒のようです。子どもの頃、線香花火の繊細な火花の明滅にじっと見入っていたさなか、ふと自分と花火だけとの世界に包まれたような気持ちになることがありました。それと同種の静寂が、にわかに現れたかのように覚えました。

 遠心力よりも求心力があるお酒。宴会よりも独酌にふさわしいお酒。「酔」よりも「冴」のイメージのお酒。放歌高吟よりも自己内対話へといざなうお酒。稀代の名杜氏が醸したお酒は、そんなお酒でした。

シモバシラ2020

2020-02-09 19:13:16 | 季節/自然
 土曜日、いつもより少し早起きをしてシモバシラを見に行きました。土を持ち上げる氷の柱の霜柱ではなく植物のシモバシラです。茎は枯れても根っこは生きていて地中の水分を吸い上げ、それが冬の冷え込みで氷の花を咲かせるシモバシラです。今年は暖冬でどうかなと思っていましたが、木曜、金曜の冷え込みで成長したのか、小さいながらシモバシラの花を見ることが出来ました。地面の下の水分を地上の花に変えるシモバシラの働きは、子どもたちの成長を促し世に出している教育に携わる方々に通ずるものがありそうです。そんなことを思いながらひとつひとつのシモバシラを眺めました。いろいろな力の助けを借り、シモバシラは花を咲かせているのです。