MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『素晴らしきかな、人生』

2017-03-03 00:23:01 | goo映画レビュー

原題:『Collateral Beauty』
監督:デイヴィッド・フランケル
脚本:アラン・ローブ
撮影:マリーズ・アルバルティ
出演:ウィル・スミス/エドワード・ノートン/キーラ・ナイトレイ/ケイト・ウィンスレット/ヘレン・ミレン
2016年/アメリカ

最初に「殻を破る」理由について

 本作はかなり誤解されているように思うので、ラストのネタバレを避けて最初にストーリーを整理しておきたい。
 主人公で広告代理店のCEОを務めるハワード・インレットは3年前は会社のトップとして輝いていたのだが、2年前に娘を病気で亡くして以来、魂の抜け殻のようになってしまい会社においてはドミノ倒しに熱中し、家ではオカルト関係の本を読み漁っている有様だった。同僚のホイット・ヤードショウ、クレア・ウィルソン、サイモン・スコットはハワードを元気つけようと頑張っていたのだが、会社の業績は悪化し身売りする事態にまで追い込まれていた。
 ある日、ホイットがコピーを考えていたところ会社にオーデションを受けにきていたエイミー・ムーアが、ホイットが呟いていた「Find your life, shed your skin(あなたの人生を見つけて殻を脱ぎ変えよう)」を「Shed your skin, find your life(あなたの殻を破って人生を見いだそう)」と変えた方が心に響くとアドバイスすることから、ホイットはエイミーがブリジットとラフィーが結成している「劇団」を見つけ、探偵のサリー・プライスと共に彼らを雇ってハワードを治そうと試みる。
 しかし何故かサリーが隠し撮りしたハワードの映像にはエイミーもブリジットもラフィーも映っておらず、ハワードが一人で公共の場で怒鳴り散らしており、自身の症状を悟ったハワードは弁護士の言う通りに書類にサインし、会社の経営から身を引くのである。ここのシーンをどのように捉えるかで本作の評価は大きく変わると思う。
 振り返ってみるならば、ハワードに限らず、例えば、ホイットは浮気が原因で妻と離婚してしまい、娘のアリソンにも嫌われている。クレアも40歳を超えて子供が欲しいと思って精子バンクなどを調べており、サイモンは末期の骨髄腫を患っている。つまりハワードだけではなく彼らもそれぞれ「愛」と「時間」と「死」に囚われており、彼らも「愛」のエイミー、「時間」のラフィー、「死」のブリジットの「亡霊」を見ていると捉えることが自然であろう。
 ラストでブリジットが口にする原題「Collateral Beauty」は日本語字幕で「幸せのおまけ」と訳されているが、そもそもこのタイトルは軍事行動によって民間人が受ける人的および物的被害を意味する「Collateral damage(付帯的損害)」をもじった言葉と捉えるべきで、「付帯的見もの」と解釈すれば分かりやすい。ホイット、クレア、サイモンはハワードを治そうとすることで自分たち自身の「治癒」もなされることになっており、本作は心が傷ついた者たちが見る「幻影(=beauty)」が描かれているのである。


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