古民家ギャラリーうした・ガレッジ古本カフェ便り

古民家ギャラリーうしたと隣のガレッジ古本カフェで催している作品展、日々の発見!、書評、詩などを紹介していきます。

月音      鶴岡卓哉

2018-08-31 04:30:26 | ポエム
月の音がたわいもなくボクの元に零れ落ちる



ボクを蹴り飛ばそうとする足



枕元では月音がボクを悩ましている



囁いているのは、きっと君の吐息の切れ端



ボクは相変わらず苦しい方を選ぶ



それでも、月の音は変わらず



ボクを静かに打擲し続ける



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となり町戦争     三崎亜記

2018-08-30 14:05:03 | 三崎亜紀
集英社  2004年 第十七回小説すばる新人賞受賞作


姿の見えない戦争、それはいかにも不気味だ。


紙の上でだけ死者数が表され、そこに実感はない。


戦争というものの恐ろしさは、それをしない者には実感が伴わ


ないことなのだ。



この作品でも、まわりの人は死んだと言われるが、そこに、



「リアル」はない。



すべてにおいて、ここでは「リアル」らしいことはない。



香西さんの肉体さえもが空虚だ。そして、香西さんさえ、手に



することは本当の意味では「ない」のだ。



すべてが手の指の間をすり抜けていくようだが、確実に、巻き込ま


れていっている恐ろしさ。


読後に、作者の描ききった感が如実に感じられる、快心のデビュー


作でしたね。


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食堂かたつむり     小川糸

2018-08-29 17:47:58 | 小川糸
ポプラ社     2008年


恋人のインド人が家財道具を全部持っていって姿をくらます、


という導入部分から、読ませるな、と思って、ニヤッとして


しまう。そして、実家に戻り、声を失っていることに気づき


、地元の親切な熊さんにてつだってもらって、食堂かたつむり


を開店させ、人と人をつなげる役目をする、とここまでは、ち


ょっと少女マンガっぽくもあり、女子っぽいな、と思うのだが、



油断していると、おかんの飼っていた豚のエルメスを食べると


言い出すし、おかんは癌で、若いときに生き別れたフィアンセ


と再会して、結婚すると、怒濤の展開をみせる。


ストーリーテリングは絶妙だし、文章も巧いし、とにかく、飽


きることなく、最後まで読み通すことができた。


最後はハラッと泣かす手紙もついてくる、まさに、ベストセラー


の本って感じだった。

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殺意      

2018-08-28 10:59:12 | ポエム
スベスベの肌の死体の上にかかる月光


ミルクシェーク状の僕の雄叫び


午睡の最中に叩き起される白日の夢の途上


夢中になって遊ぶ子供のようにまるで透明


孤独の波はいつも嵐のように君を襲い


透明な月光はまるで鏡面に映る大福


混乱と絶叫の最中に君は髪をとかす


洗面台の血の海には魚の群れ


ああ、とうとう僕らはここにやってきてしまった!
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コンビニ人間   村田沙耶香

2018-08-25 12:52:34 | 村田沙耶香
文藝春秋   2016年6月



この世界のルールに馴染めない、なんか異な感がある、フツー


にして暮らせない、そもそもフツーってなんですか? と。


コンビニバイト歴18年36才処女未婚、古倉恵子の苦悩を描く。


クズの白羽はホントにクズとして描かれている。けど、こんなク


ズは現実にはちょっといない。といえば、古倉さんもいないのでは、


でも、このコンビニ人間という小説は完結している。ひとつのコン


ビニという題材によって、世界として成り立っている。


これが、文学というものの、おもしろさではないか……。


もしかして、村田女史が根底として、古倉さんと繋がっているから


こそ、こんなリアルさの伴った作品ができあがったのでは。


村田女史という人間の奥深さ、不思議さ、ますます、他の作品も


読んでみたくなってきた。
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雨の唄

2018-08-24 00:49:49 | ポエム
寝苦しい暑い夜には、詩でも読んでやろう、という人に


詩をご紹介しましょう。


台風も気になりますが……ここで、ちょっと休憩。


鶴岡卓哉で、雨の唄、です。


\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \



見える、僕には見える


あなたは繊細なメロディーの唄を歌っている


月に向かって話しながら


時間など気にすることもなく草原へと



駆ける、あなたの元へと



あなたと見える景色が同じならいいのに



それだったら音と映像との間にあなたはいると



うん、あなたは僕と同じ色が好きだから


あの景色の中の馬が紫色に見えても……


雨が降る、僕とあなたの隙間に降る、とても大きな雨粒


僕は泣く、泣いてあなたを攫ってゆこう


あなたとあの街に行こう、赤い蛇に乗っていこう


とうとう僕はあなたの苦悩を知った


あなたの歌が悲しすぎるということも、見える、ということも


月はまた雲に隠れた


あなたはもう、どこにも姿を現さない
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電化文学列伝     長嶋有

2018-08-23 12:49:27 | 長嶋有
講談社文庫    2005年


文学を電気製品の側面から考察する。かつて、こんな試み


があっただろうか?


ついみ逃してしまいがちな電化のことを、その作品世界につ


いて、説明してくれています。


川上弘美女史のセンセイの鞄はボクも読んだが、あれに出てき


た電池は印象深かった。


Aーウェルシュのトレインスポッティングの電気毛布も秀逸だっ



た。まさかそんな見方があるなんて、気配を消す電化製品とはね。



いちいち、ボクなんて、その解釈の奥深さに驚愕しちゃうけどね。



文学の新たな可能性を見つめた、恰好のテクストだと思います。
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ミュージック・ブレス・ユー!! 津村記久子

2018-08-22 13:47:26 | 津村記久子
角川文庫    2008年6月


大阪を舞台に18才のアザミが息をするように洋楽を聴いてる


生活をしつつ、受験や困難に立ち向かう。


スゴく勉強ができないコに書かれているし、解説では津村女史


自身の分身みたいに書いてあるが、ボクはアザミっていうのは


創作した女子だと思う。


まあ、バカに書かれてはいるが、思いやりはあるし、苦悩してる


が。


ラストの方で、コミュニケーションに悩むところがあるんだけど、



伝達についての悩みは、18才だったら、必至で悩むなあ、そう


いう、勉学以外のところでは、スゴくクレバーって感じである。


勉強できない人ほど、他の面で、鋭いって言うのはあると思うし



核心ついてると思う。やっぱり、津村女史は女子を書かせると


うまいねえ。


自分のことをよくわかっているからこそ、こういう文学も描け



るんだと思う。
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泳いで帰れ    奥田英朗

2018-08-21 13:50:31 | 奥田英朗
光文社文庫   2004年


2004年のアテネオリンピックに行って、長嶋ジャパンを


応援しにいった紀行文。


その際、日本のバントばかりの野球に激怒し、おまえらは泳いで


帰れ、というところからのタイトルです。


でも、それは、きっと奥田氏が日本野球を誰よりも愛しているか


らだと思います。



ボクなんて、どうも思いませんから。


野球というものを愛している、だからこそ、決勝戦でキューバVS


オーストラリアの試合を見て、野球をこの上なくたのしむことがで


きたのだ。


毎日、ホテルでトイレでうんこをして、掃除するところは、芳香が


漂っていました。アテネの日差しは、日本と比べるべくもないくらい


、激しいのだろうなあ、火傷みたいによくならなかったなあ、と心配



してしまいます。


オリンピックに対して、開催に関して賛成、否定などの意見もありま


すが、二年後の東京オリンピックではそんなことを吹き飛ばしてしま



うようなドラマをアスリートたちは見せてくれることでしょう。
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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ  本谷有希子

2018-08-20 19:33:29 | 本谷有希子
講談社文庫  2003年


非常に演劇的というか、少女マンガ的とでも言えそうである。


激情に次ぐ、激情なのだが、そこには、それをちょっと俯瞰


してみてる他者がいるのだ。


それを介しているために、ポップ文学となり得ているのだ。


本谷文学というのは、不思議な作風、不条理劇であると同時に


ポップ文学としての側面も併せ持っているのだ。


この作品に出てくる、澄伽という冗談のような女に振り回される


まわりの家族、そして、クールな目で観察する妹の清深、ボクは


少女マンガは読まないが、いかにもありそうなはなしではないか。



それを文学的処理をして、昇華させると、本谷女史の見てる景色


も見えてくる。



そこには新しい地平が拓けているだろう。
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