治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

変人の母のつとめ

2014-11-13 10:50:50 | 日記
さて、自閉っ子シリーズと全く同じ面々で作っている木下音感協会さんの機関誌、「おんかん」。
画伯の連載マンガ「フミくん」がいよいよ来期号で最終回です。
重度の遅滞があるとされながら、見事に療育で発達し、今はロボットを作る会社に勤務されているフミくんの実話です。
そこに音感教育その他の意識的な教育方法が功を奏した様子がわかります。

もともと「おんかん」の制作のお仕事を我々がいただいたのは、このブログがきっかけかもしれません。
同じ「修行系」ということで、木下さんの方で親近感を感じてくださったようです。
「万人受けを狙わず、旗幟を鮮明にする」というのが私のやり方ですが
そのとおり、このブログがいやで遠ざかっている(というか遠巻きに見ている)人もいれば仕事をくださったり本を買ってくださったりする人もいるのです。
「花風社の愛読者はだまされている」と思い込んでいる猿烏賊さんたちはこの世で一番「みんなちがって みんないい」がわかっていない人種かもしれません。
残念なことにそういう人は、変人の母としては不利だと思います。

「おんかん」のお仕事のご縁で、最近指揮者の山田和樹氏の母上にお目にかかる機会がありました。
インタビューさせていただき、それを巻頭の記事に仕上げました。

そのとき印象に残った話を書きます。

山田氏は私と同じ神奈川県出身なので、通っていた高校のレベルはだいたいわかります。かつてうちの祖父が校長を務めた学校の一つで、元々神奈川一高だったところですから、名門の進学校です。東大を受験する人はたくさんいますが、藝大指揮科を受験する人はいません。元々山田氏はお勉強もよくできた方で、途中まではお医者さんになろうかと思っていたそうですが、木下音感協会さんで年一回行う演奏会で指揮をして、指揮者としての喜びを味わい、そちらに進もうと進路変更なさったそうです。

学校には東大受験や医学部受験のノウハウはあっても、藝大指揮科受験のノウハウなどありません。担任の先生は頭を抱えたそうです。それはお母様も同じ。
それでも山田氏は小さい頃から木下さんのところで研鑽を積んでいましたので、途中からの受験勉強でも基礎はできていたわけで、見事に合格され、卒業後独立した指揮者の道を歩むことになりました。
最初はアマチュアのオーケストラでボランティアで指揮するとか、そういう仕事です。
お母様は我が子の勇姿を見ようと駆けつけますが、当然客席はまばら。

「そういうときお母様として焦りや不安はありませんでしたか?」と私はききました。
山田さんのお母様はきょとんとした顔をされました。
「いいえ、ちっとも。無名の指揮者がアマチュアのオーケストラを指揮しているのですから、観客が少ないのは当たり前です。そういうものだと思っていました。必要な段階だと思っていました」

普通にいい大学に行くこともできた息子さん。そうしたらこういう下積み時代は味わわず、それなりの勤め先でお給料をもらいながら育ててもらえたかもしれません。けれども息子さんは音楽の道を選び、下積み時代があり、それを暖かく見守るお母様がいました。

私の周囲にはいわゆる変人枠の人がたくさんいますが、なかなかこれだけ腹をくくれるお母様って本当に珍しいのです。
たいていは親の方が不安になって、その不安を子どもにぶつけてしまうのですね。
それで親子疎遠になることも多いです。子どもの方は、確信があって道を歩んでいることが多いので。成功する人はね。
親の心配がうっとうしくなって、実家に近寄らなくなるんですよね。

でも今小澤征爾二世と呼ばれ、スイスの楽団の主席指揮者を務められ、ベルリンに在住している山田和樹さんの活躍の裏には
やっぱり下積み時代をにこにこと乗り切った肝っ玉母さんがいたのです。

変人枠で生きていくことは楽しいこと。
でも親は覚悟がいりますよ、というお話でした。

☆☆☆☆

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2 コメント

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Unknown (真鍋祐子)
2014-11-13 21:30:39
ご無沙汰してます。
変人の母はちょっと暢気なくらいがいいですね。変人枠を目指すとは、はたしてその道で食べていけるか、努力しただけの報いがくるかわからない、ギャンブルみたいなところがあるので、困ったとき苦しいときは全力で盾になるけど、あとはどーん !と構えていてくれる親がほどよいです。
私の下積み時代、論文書いても書いても芽が出なかったある時期、作業に行き詰まるたびにある歌を大声で歌い踊る、そうすれば気持ちが落ち着き作業がはかどるという奇癖があったんです。多分アパートの外を歩く人は相当に怪しんだでしょう。でも母はこの奇癖にとことん付き合って、一緒に歌い踊ってくれました。今も思い出すと涙出ます。私が32歳くらいの時。私の博士論文はそうやって書き上がったのでした。
親が子の将来を不安がって、それを表に出すんじゃなく(私の母は内心は相当に不安だったと思います)、大事なのはともに信じてあげること、共苦共感することだと思います。
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肝っ玉母さんの条件 (浅見淳子)
2014-11-14 08:40:43
真鍋さん、ようこそ。
真鍋さんのお父様お母様の肝っ玉父さん母さんぶりは「自閉っ子のための友だち入門」でも伺い知ることができますが、変人枠で居場所を得るには親も大事(おっとお札に触れてしまった)といういい例だと思いました。
歌い踊る、って酔狂に見えるかもしれませんが、身体アプローチクラスタとしては当然の自己治療に思えます。私の場合、自閉の神様を降ろすためにジムに行ったり泳ぎに行ったりしますが、基本は同じじゃないでしょうか。
一つ変人の母として有利だなあと思う条件は、ご自分もなんらかの仕事に真摯に取り組んでいることですね。そうすると生みの苦しみも知っている。自分の不安を我が子にぶつけてうざがられるのもわかる。本人が真面目に取り組んでいるのは応援しようと心から思う。これは職業人でないと一段階難しいかもしれません。
そう思うと特性の強いお子さんのお母様が外の世界を持つのは大事かもしれませんね。
またお越しくださいませ。
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