スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

先生との同居&松田の結論

2014-05-20 19:11:55 | 歌・小説
 お嬢さんの美貌のゆえにKを同居させれば,Kがお嬢さんに好意を寄せるであろうということが,Kの同居に対する奥さんの拒絶の理由のひとつであったと前提してみましょう。するとひとつ,疑問に感じられることが浮上します。美貌のゆえに好意を寄せると推定するなら,それはKにだけ特別に該当するとは考えられないからです。もしも男が娘に好意をもつことを回避したいのであれば,奥さんは本当はだれも下宿させることはできなかった筈なのです。ところが先生を下宿させるとき,奥さんは簡単な面接をしただけで,同居に合意しているのです。
                         
 なぜ奥さんは先生との同居については拒絶しなかったのか。奥さんが合理的に行動していると考える限り,答えは簡単です。奥さんは,Kが娘に好意を寄せてもらっては困ると思ったのに対し,先生が娘に好意を寄せる分には一向に構わないと思っていたのです。
 Kを同居させることを奥さんが拒んだ理由のひとつに,それが先生のためにならないというのがありました。これはわざわざ恋敵となるであろう人物を同居させる必要はないという意味であったと解釈できることになります。ということは,ゆくゆくは娘を先生と結婚させることは,奥さんにとっての既定路線であったと考えられます。ですからそれは先生のためにならないというのは,半分だけの事実であったともいえます。それは確かに先生のためにはならなかったでしょうが,それと同時に,奥さんのためにもお嬢さんのためにもならないような行為であると奥さんは考えたと理解しておく方が,より正確であるように僕は思います。
 おそらくこの既定路線は,単に奥さんにとってそうであっただけでなく,お嬢さんも同意していたものと思われます。Kの自殺の直前に,先生が急にお嬢さんとの結婚を奥さんに申し込んだとき,奥さんはあっさりと受諾し,それはお嬢さんも同意済みであるという主旨のことを言いました。それは,Kとの同居を拒絶した時点で決まっていたことだし,そもそも先生を下宿させた時点で決定していたのだと僕は読解しています。

 持続duratioないしは時間tempusという観点は,『エチカ』では第二部定理八において導入されるというのが松田の観点です。これは『スピノザの形而上学』のうち,「二重因果性の問題」のひとつ前に収録されている「スピノザ形而上学の解釈仮説の構築」という論文で詳しく説明されています。ここではそちらについては詳しく取り上げませんので,興味があるならお読みになってください。現状の考察との関連で重要な点だけごく簡単に指摘しておけば,第二部定理八でスピノザが示そうとした意図には,属性attributumの内部,とりわけ思惟の属性Cogitationis attributumの内部に,時間の観点を導入することにあったというのが松田の見解です。すなわちそこでいわれている存在しない様態modiとは,現在は存在していないが過去には存在したか,過去にも現在にも存在していないが未来には存在することになる様態であり,そこに現在,過去,未来という時間が導入されていることになります。
                         
 たぶんこの見解自体に異論が生じることが予想されます。確かにこの定理Propositio自体の解釈については松田がいう通りであったとしても,それが時間性を導入する意図のもとになされていると断言できるとは限らないからです。しかしそのことはここでは目を瞑っておきましょう。松田の見解のうちで現在の考察との関連で重要なのは,この定理がどのような意図のもとに示されることになったのかということではなくて,時間つまりは持続という観点が,属性の内部に導入されていると松田が解している点にあるからです。そしてこのことが,永遠の相と持続の相を松田が数的に区別する根拠となっているのです。
 因果性Zと因果性Aは,属性の内部に導入されているような因果性ではないと松田は主張します。因果性Zは属性によって本性essentiaを構成される実体substantiaの産出producereを意味する因果性で,因果性Aというのは属性自体が産出されることを示す因果性ですから,少なくとも本性の上で,それらが属性の内部に「先立つ」ようにあることはできないと僕は思いますから,この意味において僕も松田に同意します。その上で松田は,属性の外部にある因果性が永遠の相の因果性であり,属性の内部にある因果性が持続の相の因果性であると理解し,そのゆえにこれらは数的に区別されなければならないと結論することになるのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする