大河内直彦『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』(岩波現代文庫、原著2008年)を読む。前々から、そのうちにと思っていた本であり、文庫化大歓迎。
言うまでもなく地球は生き物であり、大気を通じて宇宙とつながっている。また、地球の側でも、多くの物質や相が相互に作用している。それらの複雑な相互作用の結果としてあらわれる現象を、メカニズムという形で読み解くためには、海底の堆積物や分厚い氷床といった、地球上に残されたものを「記録」として扱い、分析していくほかはない。
その鍵として本書において大きくフィーチャーされるものは、「同位体」である。同じ炭素や酸素であっても、自然界にはごくわずか、質量が微妙に異なる「同位体」が存在する。質量が違うということは物理的な挙動が異なるということであり(時間が経てば姿を変えていく「放射性同位体」もある)、その結果、大昔の堆積物や氷床をトレースすれば、それがいつどのような環境にあり、どのような道をたどってきたのかということが解きほぐされていく。こういったからくりを、科学史とともに解説するあたりは見事である。
科学を丁寧に書くと厚くなってしまうという難点はあるが、じっくりと付き合う価値がある本だ(もちろん、くだらぬ環境陰謀論を、ではなく)。それは現在の環境政策の重要さを認識することにもつながっている。
「・・・少々二酸化炭素濃度が上昇しても、氷期から間氷期に移ったような大規模な気候の再編は起きない。しかし、この「ひと押し」がどんどん大きくなっていったら、どうなるだろう? 気候システムが異常をきたしたとしても、それは決して不思議なことではない。いずれ「障壁」を乗り越え、別の安定解へとまっしぐらに突き進む非線形性が現れるかもしれない。気候の暴走である。それが、気候学者が現在もっとも恐れていることなのである。」
「人類が危険な火遊びをしていることは間違いないのである。」
●参照
多田隆治『気候変動を理学する』
米本昌平『地球変動のポリティクス 温暖化という脅威』
小嶋稔+是永淳+チン-ズウ・イン『地球進化概論』
ジェームズ・ラブロック『A Rough Ride to the Future』
ナオミ・クライン『This Changes Everything』
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『The Collapse of Western Civilization』
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『世界を騙しつづける科学者たち』
ノーム・チョムスキー+ラリー・ポーク『複雑化する世界、単純化する欲望 核戦争と破滅に向かう環境世界』
ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』
ノーム・チョムスキー講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」
『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』
吉田文和『グリーン・エコノミー』
ダニエル・ヤーギン『探求』
『カーボン・ラッシュ』
『カーター大統領の“ソーラーパネル”を追って』 30年以上前の「選ばれなかった道」