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自縄自縛日記

山本義隆『原子・原子核・原子力』

2015-05-17 16:03:58 | 環境・自然

山本義隆『原子・原子核・原子力 わたしが講義で伝えたかったこと』(岩波書店、2015年)を読む。

現在の原子力発電は、主にウラン235の核分裂によって放出されるエネルギーによって動かされている。235とは質量数であり、原子の重さ、つまり、陽子と中性子の重さの合計である。天然のウランは大多数が質量数が少し異なるウラン238であり、ウラン235はごくわずか(0.7%)しか存在しない。したがって、原子力発電を行うには、ウラン235の割合を人為的に増やしてやらねばならない。原子力を論じる上での基礎知識である。

しかし、これがなぜなのかについて解き明かしてある本はきわめて少ないに違いない。その理屈には、質量数が偶数か奇数かの違いが関係している。それを理解するなら、放射線のうちα線がヘリウム原子核であることも関連していることがわかってくる。そしてα線、β線、γ線のもつエネルギーが極めて巨大であり、それゆえに危険であること、閾値の設定は便宜的なものに過ぎないことが理解できる。

同様に、なぜ、核分裂を促すための中性子を、(軽水炉では水によって)減速しなければならないのか。すでに天才ニールス・ボーアにより、20世紀前半には、感覚的にわかりやすいイラストが描かれていた。

本書は、物理学者であり、かつ科学史家でもある山本氏が、こういった物理学上の発見の歴史を紐解きながら、原子力発電の理屈にまで導いてくれる講義録である。そして、あくまで論理的な帰結として、原子力が危険な技術であり、倫理にも反していることを説く。反原発が技術を知らず感情的な運動だと決めつける言説は少なからず転がっているが、そうではないのだ。

ちなみに、わたしも高校生のときに駿台予備校の講習に出かけ、山本氏の説く物理に接し、感銘を受けたことがある。本書は、語りは平易であっても、山本氏にしかなしえない仕事である。

●参照
山本義隆『福島の原発事故をめぐって』
山本義隆『知性の叛乱』
山本義隆『熱学思想の史的展開 1』
山本義隆『熱学思想の史的展開 2』
山本義隆『熱学思想の史的展開 3』
東海第一原発の宣伝映画『原子力発電の夜明け』
福島原発の宣伝映画『黎明』、『福島の原子力』
福島原発の宣伝映画(2)『目でみる福島第一原子力発電所』
フランク・フォンヒッペル+IPFM『徹底検証・使用済み核燃料 再処理か乾式処理か』
『"核のゴミ"はどこへ~検証・使用済み核燃料~』
『活断層と原発、そして廃炉 アメリカ、ドイツ、日本の選択』
使用済み核燃料
『原発ゴミは「負の遺産」―最終処分場のゆくえ3』
『核分裂過程』、六ヶ所村関連の講演(菊川慶子、鎌田慧、鎌仲ひとみ)
『伊方原発 問われる“安全神話”』


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