Sightsong

自縄自縛日記

福島原発の宣伝映画『黎明』、『福島の原子力』

2011-09-19 09:05:08 | 環境・自然

昨夜(2011/9/18)、NHKでETV特集として放送された『シリーズ原発事故への道程 前編 置き去りにされた慎重論』(>> リンク)を観た。もともと期待などしていなかったのではあるが、発見はいくつかあった。しかし、やはり、原子力の安全対策が置き去りにされて事業化ばかりが進んだ原因を「過去の国策」と「雰囲気」に押し込めてしまっている印象が強い。まるで「仕方がなかったのだ」と言わんばかりであり、ましてや、その一端を担ったメディア自身としての反省など欠片も見られない。所詮はこんなものである。

この番組の中で紹介された福島原発の宣伝映画が、科学映像館により配信されている。現在のオブラート(免罪符的なNHKの番組)はタチが悪く、当時のオブラート(これらの宣伝映画)は今となっては製作企図が見えてくるという大きな違いがある。とても貴重な映像記録であり、現在の批判的な視線で観られるべき作品である。

■ 『黎明』(企画:東京電力、1967年) >> リンク

1971年3月に運転開始した(私と同じ!)福島第一原子力発電所の建設準備について描いている。

ここで注目すべきは、確かに、30m超の断崖が紹介され、さらに、そこから10m以上も掘り下げられて原発建設の地盤となされたことも紹介されている点である。これを当時不可解に感じた者がどれだけいたのだろう。上記NHKのドキュが、その解を示していた。

軽水炉建設にあたって国からの補助が軽減され、経済性を追求せんがため、電力会社は「ターン・キー方式」に注目した。メーカーが運転開始(ターン・キー)まで全てのリスクとコストを追う方式であり、このパッケージであれば安価となった。福島原発の設備を製造したGE社もその方式を提示し、契約した。しかしその設計では、30mの高台まで冷却水を持ちあげることができない。ポンプを取り変えることはパッケージでなくなることを意味し、非常に多額の追加額を必要としたのだ、という。

この映画では、地盤や潮流などについて「徹底的」「丹念」な調査が四季を通じて行われたことがアピールされ、地震や津波は過去に見られないことはさらりとしか触れられていない。東海の原発が通常運転に苦労しただけに、「いつもの自然条件」への対応が最大のポイントであったのだろう。しかし、原子力技術と自然の怖さを軽視し過ぎていたのである。

また、農業や漁業の盛んな土地であることにも触れられている。長いホースの両端を持って農薬を散布する光景(イヤな記憶!)が農業を紹介する映像になっているのは現在との大きな違いだ。それはともかく、原発導入の結果、農業・漁業をはじめとする地域社会が無残にも破壊されたことは、意図せずして映画の皮肉的な側面になっている。(たとえば、黒木和雄『原子力戦争』を観るとよい。)

■ 『福島の原子力』(企画:東京電力、1985年) >> リンク

すでに福島第二原子力発電所の運転が開始した後(一号機:1982年)の記録である。ここでは、如何に安全な設計がなされ、また安全な従業員の労務管理がなされているかを示すことに重点が置かれている。

今となっては、核燃料のエネルギーの大きさを示す一方で、圧力容器や格納容器、その周りのコンクリートの厚さを子どもの手を使ってアピールすることは矛盾に他ならないことが見えてくる。

高レベル核廃棄物が処理によって減容され、中間貯蔵されることが示されるが、その後の処理(核サイクル、最終処分)については触れられることはない。また、労務者の衣服など低レベル核廃棄物が如何に除染され、その排水などの出口対策がしっかりなされているかについても示されるが、労務者の格差構造については、当然ながら、示されることはない。

●参照(原子力)
山本義隆『福島の原発事故をめぐって』
『これでいいのか福島原発事故報道』
開沼博『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』
黒木和雄『原子力戦争』
有馬哲夫『原発・正力・CIA』
原科幸彦『環境アセスメントとは何か』
『科学』と『現代思想』の原発特集
『核分裂過程』、六ヶ所村関連の講演(菊川慶子、鎌田慧、鎌仲ひとみ)
『原発ゴミは「負の遺産」―最終処分場のゆくえ3』
使用済み核燃料
石橋克彦『原発震災―破滅を避けるために』
今井一『「原発」国民投票』

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』
『かえるの話』(ヒキガエル、アカガエル、モリアオガエル)
『アリの世界』と『地蜂』
『潮だまりの生物』(岩礁の観察)
『上海の雲の上へ』(上海環球金融中心のエレベーター)
川本博康『今こそ自由を!金大中氏らを救おう』(金大中事件、光州事件)
『与論島の十五夜祭』(南九州に伝わる祭のひとつ)
『チャトハンとハイ』(ハカス共和国の喉歌と箏)
『雪舟』
『廣重』
『小島駅』(徳島本線の駅、8ミリ)


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