老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「介護現場はなぜ辛いのか」(本岡類著・新潮社)

2010-03-10 20:00:42 | 医療・介護
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090616/bks0906160838000-n1.htm

齢50歳を過ぎた著者がいきなり飛び込んだ介護の世界。そこは常識が通用しないワンダーランド。しかしその世界で世話をする人もされる人も生きている生身の人間である。激務が続けば疲れも溜まるし感情もささくれ立つ。

この本は作家である本岡類氏が介護現場で職員として働いた5ヵ月間を描いている。本岡氏によれば、この「松の木苑(仮名)」は特別養護老人ホーム略して特老。おむつ交換をする時はカーテンの開閉を厳しく指導し、身体拘束も本人か家族の同意を得なければ行なわないという、利用者にとっては行き届いた配慮がなされている施設である。

しかし次第に著者は、マニュアルのなさ、正規職員の指示伝達事項の曖昧さ、忘れ、などに直面する。そして何よりも深刻な事は、介護従事者の激務と待遇の悪さが将来に向けても改善される見込みがないこと。介護士の意識や教育の為の研修も夜勤明けや休日に呼び出して行われる為、職員の疲労を蓄積させ不満を鬱積させている、と著者は述べている。

夜勤明けで帰り支度をしている若い介護士は、疲れを通り越して躁状態のまま「俺、何時間ここにいるかわかりますか。夜勤に続いて会議やら雑用が入って、24時間松の木苑にいるんですよ」と明るく怒る。

またキャリア豊富な介護士は仕事としては著者など真似もできない見事な動きをするが、それが逆にプロの介護士として固定観念の縛りをかけている。それらも含めて、この介護の現場を開かれた閉所空間にしている。

そんな中で著者が訴える有償ボランティアの「老々有償支援」の活用。リタイアした高齢者も社会参加の喜びを味わえ、早起きが得意な高齢者なら早朝の短時間だけ関わればいい。それだって夜勤の若い職員は助かると著者は述べる。

介護現場に慣れないボランティアが入ると足手まといになるという意見もあるが、そのリスクを補う価値はあると思うし、それこそボランティアの人達の意識を高める研修や教育も必要だと思う。

「びっくりするようなハードワークを低賃金でやらせて人が集まるわけがない。将来が見えない職場に若い人が定着するわけがない。長期休暇が取れないのか普通なんてあって良いはずがない」という著者の言葉は頷ける。

この本のリアルな場面には、まるで自分が介護現場に立ち合って日々過ごしているような気分になる。本岡氏は時給850円で働いているのだが、ここでは布オムツを使用している。下痢や軟便の時も大変だが、一度は排泄物を腕に擦り付けられ、また排尿が口にかかってしまった事もある。

将来自分がされるかも知れない介護。その世界と、今私がいるこの場所は確かにつながっている。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽」より
パンドラ

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