老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

国民国家の自明性を問う

2010-10-06 09:36:31 | 憲法
日本社会が西欧国家の国法、その象徴としての憲法を受容するようになってから100年以上を経過したが、日本社会に西欧型の憲法が定着したかは未だ議論があると思われる。

特に、問題となるのは国民国家という憲法上の構成概念である。日本での憲法学上での議論を概観するに、国民という概念は自明視されていよう。日本国籍を持つ者という国民概念に疑いを持つ立場(つまり学説)は極めて少数であろう。まして国民の中では自らの出自に疑問を持つ者は絶対少数であると思われる。

しかし、こういう当然視は歴史学の上では最近に至って疑問の声が上がってきた。なぜなら国民国家の重要な転機となったフランス大革命と、その成果である「人及び市民の権利宣言」において「人とは何か」「市民とは誰か」という問題がけして自明の問題などではなく、これまで自明視されてきた国家(ステイト・状態を表す言葉はマキャベリによって「支配機構」という意味になったとされる)や国民という概念に反省をもたらすきっかけになっているからである。

この歴史学の代表的な書物として2009年に刊行された「国民国家と市民」(山川出版)がある。この本は共著の形になっているが、私が一番注目した論文は第5章の『市民社会と「暴力的」農民-19世紀フランスにおける「農民市民」の誕生』(工藤光一著)という論文である。工藤氏は、フランス革命において農民は市民権の対象ではないばかりか革命以後100年も排除の対象にされてきた、として次のように述べる。

『19世紀フランスにあっては、全人口の70~75パーセントが農村住民であり、そのまた大多数が農民であった。市民社会への農民の統合は、国民国家の形成においても重大な問題であったことはいうまでもない。だが、この場合には、表象上から見れば、市民社会を誕生させたフランス革命からはほぼ1世紀の時間を費やした。』そしてその理由として『統合を長らく阻んだのは、いまだ文明化されざる「暴力的」存在としての「農民」の形象である。「暴力」という実力行動に「農民」は、市民社会を構成するエリート層から、自分たちとは根本的に異質な存在として認識され、ときに強度の社会的恐怖をエリート層にもたらした』としている。

この工藤論文はもちろん衝撃的でさえあるが、私はその「農民市民」の誕生(19世紀。工藤氏によれば1870年代半ばから80年代半ばとされる)に先立つフランス革命のプロセスにおいて、革命に果敢に参加した「市民」(例の第三身分)とは異質な、都市の下層民であったサンキュロット層を思い出していた。(このサンキュロットという革命の担い手をフランス革命の主要な身分:第四民分として描き出したのは、アルベール・ソブール氏に他ならない。)

サンキュロットとは、貴族やブルジョアが身に着けていたキュロットを買うことができずパンタロンをはいていたからこう呼ばれた。この第四身分のサンキュロット層こそフランス革命の後期で革命の主要な担い手になっていくが、革命の思わぬ進展を恐れた市民層によって巧妙に排除されてゆくのである。(詳細はソブール氏の論文を参照。)

この革命の経過を憲法論として議論したのが杉原泰雄氏であり、憲法に言う「国民主権」の意味がナシオン主権なのかピューピル主権なのかを日本国憲法の解釈においても問題にしたのである。(こうした議論はフランス憲法の研究をしてきた杉原氏と樋口陽一氏によって長い間議論されたというが、残念ながら私にはその議論の経過は不明である。)サンキュロット層が革命とその成果である権利宣言に是非とも盛り込もうとした問題は、所有権の制限とか社会権の創設であったろうと思われる。

こうした議論はさておいてもフランス革命においての「市民」が単なる「人」ではなく(憲法上では明記されているのに)市民権を得たフランス国民であり、れっきとした市民であることは疑いの余地はない。

ここまでの記述から明らかのように、アメリカ憲法とは異なり市民というフランス「国民」は移民などではなく、また農民とか下層民の一部を排除した高等市民を表していたと思われるのである。

かくして国民国家の形成当初から、国民概念は自明の事柄などではなく最初から矛盾を含んだ問題概念だったのである。さらに言えば「人及び市民の権利宣言」自体が未完の革命であったのではないだろうか。

「護憲+コラム」より
名無しの探偵

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