目に留まったのは実は相当以前の話で、確かトム・ロブ・スミスの3部作を見かけたときぐらいの時期だったと思う。ず――っと読みたいリストに入っていたのだが、何故か延び延びになって今に至った。
2007年アラスカ、ユダヤ人たちの町・シトカ特別区。そこはまもなくアメリカに返還される土地でもある――といういわゆる歴史改変SFの中で、ハードボイルド・ミステリが展開する。でも、そもそもアメリカのこともユダヤ人の歴史のことも無知すぎるほどに無知な読者であるので、歴史改変という点がまるでなかったことのように(笑)作品世界に入り込める。っていうか、SFなのか、これ(笑)。いや単に歴史改変ものがSFに内包されるというだけの話だが。
というわけで読み始めてみると、まず、なんとなくレトリックが普通のミステリ作品ぽくないなぁと感じる。訳者あとがきによると「ピュリッツアー賞を受けている純文学作家」とのことで、納得。冒頭の「はつかねずみ流の八時間」あたりから早速、そして全編にわたって描写の端々に漂う純文学風味。でも小難しくはない。全体的に洒落っ気の漂う文章の空気感が、個人的にとても心地良い。
ちょっと、いやかなりくたびれた風采の刑事ランツマンの、しかし事件にのめり込んでいくさまが、ハードボイルドと言えばチャンドラーを彷彿とさせたり、パイが食べたくなったり(笑)する。ランツマンの従弟であり同僚のベルコとのコンビ、ランツマンの元妻であり上司であるビーナとのやりとり、かつては「救世主」と目された、殺されたユダヤ人青年の不思議な存在感。
このように、登場人物はほぼほぼユダヤの人々。前述の通りその方面に関しては全くの無知であるからして、出てくるものや言葉やもろもろが自分の知らない世界そのもの。実はそれだけで充分にSF的な気分になれるのかもしれない。
謎が解けてみれば、実際はわかるようなわからないような事件であり、謀略が絡んではいても、殺害のきっかけそのものはあっけないことであったりする。そして最後は、ランツマンはただの、1人のユダヤ人として生きていくだけなのだ。いや、ハードボイルドだねぇ。
訳者・黒原氏の名前をどっかで見た気が……と思ったら、こないだ読んだばかりのウィンズロウ作品でだった。けっこう好きな訳かも。
2007年アラスカ、ユダヤ人たちの町・シトカ特別区。そこはまもなくアメリカに返還される土地でもある――といういわゆる歴史改変SFの中で、ハードボイルド・ミステリが展開する。でも、そもそもアメリカのこともユダヤ人の歴史のことも無知すぎるほどに無知な読者であるので、歴史改変という点がまるでなかったことのように(笑)作品世界に入り込める。っていうか、SFなのか、これ(笑)。いや単に歴史改変ものがSFに内包されるというだけの話だが。
というわけで読み始めてみると、まず、なんとなくレトリックが普通のミステリ作品ぽくないなぁと感じる。訳者あとがきによると「ピュリッツアー賞を受けている純文学作家」とのことで、納得。冒頭の「はつかねずみ流の八時間」あたりから早速、そして全編にわたって描写の端々に漂う純文学風味。でも小難しくはない。全体的に洒落っ気の漂う文章の空気感が、個人的にとても心地良い。
ちょっと、いやかなりくたびれた風采の刑事ランツマンの、しかし事件にのめり込んでいくさまが、ハードボイルドと言えばチャンドラーを彷彿とさせたり、パイが食べたくなったり(笑)する。ランツマンの従弟であり同僚のベルコとのコンビ、ランツマンの元妻であり上司であるビーナとのやりとり、かつては「救世主」と目された、殺されたユダヤ人青年の不思議な存在感。
このように、登場人物はほぼほぼユダヤの人々。前述の通りその方面に関しては全くの無知であるからして、出てくるものや言葉やもろもろが自分の知らない世界そのもの。実はそれだけで充分にSF的な気分になれるのかもしれない。
謎が解けてみれば、実際はわかるようなわからないような事件であり、謀略が絡んではいても、殺害のきっかけそのものはあっけないことであったりする。そして最後は、ランツマンはただの、1人のユダヤ人として生きていくだけなのだ。いや、ハードボイルドだねぇ。
訳者・黒原氏の名前をどっかで見た気が……と思ったら、こないだ読んだばかりのウィンズロウ作品でだった。けっこう好きな訳かも。