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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「特捜部Q ―自撮りする女たち―(上)(下)」(著:ユッシ・エーズラ・オールスン/訳:吉田 奈保子)

2020-09-26 16:30:26 | 【書物】1点集中型
 カール&アサド&ローセ(+ゴードン?)の特捜部Qシリーズ7作目。失業中の3人の女性と、社会に出ようとしない彼女たちを苦々しく思うソーシャルワーカーの女性の関係から起こる事件を軸にしつつ、その向こうに未解決事件とマークス・ヤコプスン再登場。この人はビャアンと好対照で安心する。ハーディも元気。だけどモーデンは……(笑)

 失業者のデニス、ジャズミン、ミッシェルと、ソーシャルワーカーのアネリがそれぞれに、やるかやられるかの状況で犯罪に手を染める過程は、人間が道を踏み外すさまを見せつけられている感じ。特にアネリがミッシェルに対しての行為で初めて一線を越えてからは、坂を転げ落ちていくよう。かつ、アネリ自身は社会的には罪でありつつも自分の中では正義であると思い込む。その論理が成立しないことは誰しもわかっているけど、その転落に読む側は引き寄せられていく。次は何を起こすのだろうと。
 しかし今回は何といってもローセである。前作、不安定な面を見せていたローセが崩壊の臨界点に達してしまった。すべてがはっきりはしないけどとにかく彼女がそれを思うだけで心を閉ざしてしまう過酷な過去があったことだけはQの面々にも次第にわかってきて、でもローセは誰にも知られたくないし、だから仲間に助けは求められない。みんなローセの気持ちを尊重したいけど、でもそのままではローセを取り戻すことができない。ここにもどかしさを感じるほどに、Qというチームの魅力をあらためて思い知るのである。

 Qとして追うことになる事件、Qとして仲間を救うための捜査、ふたつが微妙な結節点をわずかに見せてきたところで下巻へ進むと、ローセがついにドツボにはまる。ローセのこの危機、Q史上最大の危機と言えるのではないだろうか。こんな状態で、警官である自分を捨てていなかったことが余計切ない。アネリが執念というよりは偏執狂的に標的を追っていくさまはやっぱり鬼気迫っていて、このままいくとローセは本当にどうなってしまうんだろうともうそればっかり(笑)。
 事件がどうにかこうにか収束に向かうけど、Qの面々はもういろんな意味でボロボロ。その一方で、ローセの心を壊してしまった事件の真相が明らかになってきて、それを知らないままローセにまさかの事態が起きたら……と、そう思うだけでまたページを繰る手に拍車がかかるのである。ゴードンにはいろいろとショックが大きい話だったけど、まあゴードンもそういうローセの人生と向き合って受け止める覚悟が必要だよね。
 Qの結束は今までよりも深いところで固まることになったと思うけど、モーナの状況も気になる。彼女の子供に何があって、カールはどう受け止めていかないといけないのか。これが次作以降で描かれるのかどうかわからないけど、次はいよいよアサドの話らしい。謎に包まれすぎの過去を(いや、現在も)やっと見せてもらえるんだろうか。楽しみだけど、怖いような。