life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

感染宣告 エイズウィルスに人生を変えられた人々の物語(著:石井 光太)

2019-08-15 23:23:42 | 【書物】1点集中型
 少し前に読んだ本で著者のインタビューがあって、興味が湧いたので試しに1冊。恥ずかしながらエイズについては、発見当時は死の病とされていたけど現代ではある程度の治療方法も見つかっているらしい、という漠然とした知識しかなかった。が、「ウィルスそのものではなく、人間の醜悪な部分をことごとくあらわにして極限にまで追い詰めることに恐ろしさがある」という事実をまざまざと見せつけられ、正直、言葉にならなかった。久々のノンフィクションだったが、やはり良質なNFは読ませる力がある。読者の目を逸らさせずに読ませる1冊だった。

「暗殺者の潜入(上)(下)」(著:マーク・グリーニー/訳:伏見 威蕃)

2019-08-03 23:10:54 | 【書物】1点集中型
 久々のグレイマンシリーズは絶体絶命のシーンで幕開け。今回はISISとかシリアの独裁者とか。しかしいつものCIA関連は見られず、完全フリーの活動らしい。
 が、上巻はまだドンパチの派手さよりも、そこにたどり着くまで諸々の状況を整えていく準備段階とでも言おうか。本来業務であったはずの独裁者の愛人の拉致が、いつの間にか彼女の息子を護る仕事に替わり、最悪の条件を承知しながら結局はいつものように自ら、信じる正義のために死地に飛び込むジェントリー。飛んで火に入る夏の虫、を地で行く(行かざるを得ない)ミッションに。

 下巻はドレクスラとヴォラン、ヴォランとハラビー夫妻、さらにヴォランとジェントリーと、それぞれの思惑と駆け引きとすれ違いが次々に見えてきて、それらが絡み合うことで息詰まる展開につながっている感じ。リーマ・ハラビーの壮絶な決意が泣ける。
 途中、偽装で潜り込んだKWAとやらで危うく残虐行為に手を染めることになりかけたりもして、戦闘以上の心理的葛藤があるのも緊迫感を覚える。その分、そのあとで友軍に出会い、正体を明かした後にちょっと希望も湧いてくる。あのあたりやりとりはちょっと水戸黄門ぽかった(笑)。

 その後は同行のタープがいい味出してくれてた。イスラム教徒の好青年。彼がジェントリーの過酷な道行きに付き従うその姿を追いかけていくと、最後まで無事でいてほしいと願わずにはいられなかった。そう思わされることによって、現実の世界の争いの不毛も浮かび上がってきたようにも思った。
 それにしても最後、冒頭の絶体絶命からの脱出シーンはすごい勢いの畳みかけ。冒頭だけの印象では、あの場面からの脱出が一番盛り上がるところなのかと思ってたんだけど、長さだけで言うと意外に短くて、あっという間に終わってた(笑)。なんかもはや、ジェントリーがどんな危機を切り抜けても当たり前感が出てきてしまっているというか、激闘と不死身っぷりにもだんだん麻痺してきちゃっているのかもしれん。

 で、一件落着したかと思いきや、休暇は終わりぬ。再びCIAの仕事に戻る次の舞台のようで、何よりである。雇い主のはずのCIAとのやりとりが一筋縄ではいかないのがまた、面白いんだよね。