ドラマを観て興味を持った作家。ナチに連なった祖父と、刑事事件弁護士という肩書を持つ人物であるとのこと。そのあたりの経験も参考に描かれているのであろう物語の数々はどれも思ったより短い話だったけど、文体に無駄がなく、読後「自分ならその結果をどう見るのか」を考えさせられるような余韻が残る。
特に印象に残る物語をいくつか挙げると、なんだか最後は煙に巻かれてどう理解すればいいのか迷う「タナタ氏の茶盌」、一連の物語の中にあって犯人と目されている人物が「プロ」だったという異色さが際立ち、いかにも小説=フィクションであるようで実は本当にありえる話なのかなと思わせる「正当防衛」、病と犯罪の関わりが身につまされるような「チェロ」「棘」、締めくくりに相応しい温かい人の心に涙腺を刺激されそうになる(笑)「エチオピアの男」。
事件の因果関係が静かながらも丹念に描き出されてあり、「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」という言葉が引き立つ。人が罪を犯す過程を、客観的な立場の人間(=弁護士)から描かせることで、人間のリアルな姿を見せていると思う。それによって併せて、人間の暮らす社会にあるさまざまな制約やひずみも浮かび上がってくるようである。声高に社会のありようを批判するものではないが、罪の原因は罪を犯す者だけによるものではないこともはっきり見えてくるのだ。
それぞれの事件は、法的に決着がつくものもあればそうでないものもあり、若干の謎を残している場合もある。その結果こそがまた、人間という存在の複雑さを象徴しているようでもある。純文学のような雰囲気で、洗練された上質さが感じられた。ほかの作品もぜひ読みたい。
特に印象に残る物語をいくつか挙げると、なんだか最後は煙に巻かれてどう理解すればいいのか迷う「タナタ氏の茶盌」、一連の物語の中にあって犯人と目されている人物が「プロ」だったという異色さが際立ち、いかにも小説=フィクションであるようで実は本当にありえる話なのかなと思わせる「正当防衛」、病と犯罪の関わりが身につまされるような「チェロ」「棘」、締めくくりに相応しい温かい人の心に涙腺を刺激されそうになる(笑)「エチオピアの男」。
事件の因果関係が静かながらも丹念に描き出されてあり、「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」という言葉が引き立つ。人が罪を犯す過程を、客観的な立場の人間(=弁護士)から描かせることで、人間のリアルな姿を見せていると思う。それによって併せて、人間の暮らす社会にあるさまざまな制約やひずみも浮かび上がってくるようである。声高に社会のありようを批判するものではないが、罪の原因は罪を犯す者だけによるものではないこともはっきり見えてくるのだ。
それぞれの事件は、法的に決着がつくものもあればそうでないものもあり、若干の謎を残している場合もある。その結果こそがまた、人間という存在の複雑さを象徴しているようでもある。純文学のような雰囲気で、洗練された上質さが感じられた。ほかの作品もぜひ読みたい。