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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「暗殺者の鎮魂」(著:マーク・グリーニー/訳:伏見 威蕃)

2014-01-15 23:03:56 | 【書物】1点集中型
 また一段と分厚くなって帰って来た「グレイマン」シリーズ3作目。1作目を読んでからそれほど間を空けずに読めたのはラッキー……と思ったけど今回ドンは出てこなかったからあんまり関係なかったかも(笑)。むしろザックの名前が出てきたので、どうせならやっぱり順番通り読んだ方が良かったのかも。とは言え、基本的には1話完結で読めるので大きな問題はない。
 今回のジェントリーは、偶然に昔の友人の死を知って、義理堅くその墓を訪れたことによって、メキシコ最大級の麻薬カルテルに追われることになる。しかも行きがかり上、友人の家族や親戚を無事に出国させるという命題まで負わされる。籠城から脱出、言語を絶する拷問、果ては人質救出まで相変わらずのミッション・インポッシブルぶりである。
 メキシコについては国情も全く理解していないのだが、本文前の献辞というのかな、「恐ろしい愚行を終わらせようとして、国境の両側で毎日働いているひとびとに捧げる」という一文が、きっとかなりリアルなものを示している物語なのだろうなと思わせる。

 基本的に、なんでここまでの目に遭って生き残っていられるのか毎回不思議なジェントリーなのだが(笑)、「人の道」というルールの「すべてに背く覚悟がある」と迷いなく言い切り、その通り行動することのできる能力と意志の強靭さが、今回も遺憾なく発揮される。「おれは、ほかの正義漢とはちがう。敵のレベルまで落ちるのを恐れないからだ」と、当たり前の正義感に燃えるだけのヒーローではないことを自ら示す。自分の正義感を必要以上に崇高と考えたりはしないし、血で血を洗うことも厭わない。ただジェントリーにとっての守るべき存在が、人の道に外れないものであるだけだ。
 だから、心から神の教えに帰依する人々の考え方には――それがたとえ自分が心惹かれた女性であるラウラの考え方であっても――本質の部分では相容れない。その道徳的な是非を云々していたら、自分が生きていられない世界に生きているから。その点では、徹底的にリアリストだしハードボイルド一直線である。

 だが、そんな彼のふとした様子、たとえば「拷問で受けた精神的動揺は、四日経っても消えていなかった」なんて姿を見ると、やはりただの冷徹な暗殺者ではなく、恐怖と戦いながら文字通りの死線を数え切れないほど潜り抜けているのだということも思い出す。
 加えて今回は3作目にして初めて、女性と愛し合うジェントリーの姿が描かれている。極限状態の中、とても不器用ではあるが、その不器用さがちょっと切ない。だからこそ、やっぱりジェントリーも普通の感情をちゃんと持ってるんだよ~ということが伝わって、その人間くささがやっぱりジェントリーだよ! と思ったりするのである。
 ラウラとどう別れるのか気になってたので、「あっ、そう来るのか」という意外さも少しあった。前作のエレンとの別れ同様に心を残しても吹っ切らざるを得ない形ではあったけど。それともちろん、エディーの墓に捧げたかった想いに対する心残りも。毎度毎度、「いつかジェントリーがここに戻って来れますように!」と祈りたくなっちゃうことばかり(笑)。それがまたこのシリーズの味だと思ってるけど。

 あと、ドンはいなかったけど今回も心憎い救出劇があったのが良かったな。ジェントリーはどうしようもないくらい独りだけど、最後の最後で孤独から救われる。
 ただ、今回もやっぱりジェントリーが「SOS」の対象となって世界中で追われている理由ははっきりしない。ほんのちょっとだけ、ハンリーの言葉で、「チラ見せ」程度の情報はあったけど。でも、これがはっきりわかっちゃうとシリーズが終わりに近づくってことなのかもしれないし、そうだとするともったいないので、もうちょっと引っ張ってもらおう(笑)。


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