rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

太っていたり痩せていたりするから癌になるわけではない

2010-10-27 22:19:28 | 医療
「やせ」も腎がんリスク上昇の可能性(医療介護CBニュース) - goo ニュース

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欧米型の脂肪の多い食事がいくつかの癌腫で発癌リスクにつながることは統計的に示されています。しかし統計的に有意差があることとその事象が発癌因子と断定できることとは別問題です。「風が吹くと桶屋が儲かる」のは「風」が直接桶屋の儲けに影響するわけではなくて、途中に土ぼこりやそれが目に入って盲人が増えて三味線が買われて猫が減るなど様々な因子が関与する事によって結果として鼠が増えて桶がかじられて桶屋が儲かるのであって途中の因子の働きが異なる反応であったら結果の桶屋の儲けにつながらないことになります。

太っていたり、痩せていたりするから癌になるわけではないのに、このような記事がでると肥満や痩せが腎癌のリスク因子であるように勘違いする人が増えます。調査をしたがんセンターの研究班は勿論肥満や痩せが直接の原因にならないこと位百も承知で調査をしているのですが、結局「癌化の引きがね」が未だにわかっていないことが種々の珍説迷説が出てくる原因とも言えるでしょうし、日本人の理系思考力の低下、或いはエモーショナルなことで物事を判断してしまいがちな傾向がそもそもいけないように思います。

「がん」とは細胞がコントロールが効かない状態で増殖を続けていることを言うのであって、コントロールがついていたり増殖が止まっていたりすればそれは「がん」ではないと言えます。基本的には遺伝子の異常で細胞が癌化するのですが、どうも一つの遺伝子が癌化のトリガーになるわけではないことが判り、また対をなす染色体にある遺伝子が両方機能異常になることも必要であるらしいと判りました。遺伝子の機能異常は遺伝子の核酸配列が変化することが必要と思われていたのですが、核酸配列が変らなくてもメチル化などの修飾が加わる事で機能が変ることも判ってきました。こうなると様々な原因で様々な遺伝子の機能異常が惹起されて癌が生ずることになり、桶屋が儲かる原因として「風が吹く」だけではなく「風が吹かない」状態でも「夏が涼しく」ても「海の浪が高く」ても「結果として桶屋が儲かることがある」みたいな話しになってしまっているのです。

「がん」の治療は体内にある「がん細胞」を一つ残らず取り去る、或いは死滅させることで「根治」に至ります。しかしそのためには正常な臓器、組織も犠牲にしないといけないことが多いので「がん」の増殖スピードが遅い場合、或いは増殖をコントロールすることができる場合、「ある程度がんを体内から取り除くことができれば良い」と言う考え方もでてきています。我々医学の専門家であっても「がんの治療」について話し合われているとき、その治療が「根治を目標にしている」のか「コントロールをつけること」を目標にしているのか判らずとまどうことがあります。「がんとは何か」ということさえ理解していない一般の方は、ある癌の治療方法が目標として「根治」なのか「コントロール」なのかといった違いなど考えも及ばないでしょうし結局「よくわからない」という感想しかもたないのではないかと思います。日々の診療で癌の治療について説明する時に、最近では「インターネットでこのように出ていた」とか種々の断片的情報を持ってきて説明を求められる事が多いのですが、「がんとは何か」とか「治療の目標はどこか」といった論理的思考の柱になる部分が欠如している人が多い(中にはそのポイントをしっかり抑えていて我々と同じ土俵で話しができる方もいますが)ので困ったものであり、生半可なインターネットの知識などない方がよほど良いのにと感じます。むしろ「自分の生きる目的」や「今元気であっても限られた人生を今後どのように使ってゆくのか」といった哲学を普段から身に付けている方がくだらないインターネットの医療情報よりも何倍も有用だと思います。

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