rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

現代における理想の軍人像とは

2008-09-21 22:24:25 | 映画
パットン大戦車軍団(PATTON)1970年 監督:F.J.シャフナー 主演:ジョージCスコット 脚本:Fコッポラ

日本の題名は単なる戦車が縦横に走り回る戦争活劇のような印象を受けますが、原題名のPATTONの方が映画の本質をよく表していると思われます。原作はこの映画にも登場する同僚のアメリカ軍の将星ブラッドリー将軍ですが、彼が自分とは性格の異なる軍人であるパットンについて何故書き残したいと思ったのかこの映画を見るとわかる気がします。

戦車軍団を率いるパットン将軍は「軍神」と呼ぶにふさわしい稀代の用兵感覚を持ち、どのような困難な状況にあっても自軍を勝利に導きます。また人一倍ロマンチストであり、詩人でありナルシストでもあります。彼は古代ローマにまで遡り歴史上の激しい戦いの場には常に自分がいたと確信しています。卑怯な戦いは好まず、戦略を駆使し正面からぶつかる戦いを好みます。軍神がそのまま世界の支配者であった時代ならば彼は英雄として君臨することができたのですが、第二次大戦中の米軍というシビリアンコントロールと政治的駆け引きの下での軍人、として限られた自由しか与えられない情況では自分が既に時代遅れの存在であることは自覚しています。結局困難な闘いでは彼の才能が大いに使われるのですが、政治的バランス感覚を欠いた言動で解任されて戦争終了により引退することになります。ジェリーゴールドスミスのエコーの反射のような音楽はパットンの古代からの歴代軍神の生まれ変わりの様子を表していると解説されています。

一方原作を記したブラッドリー将軍は、軍人としても優秀ですがバランス感覚もあり、政治的に出過ぎることもなく、朝鮮戦争でも活躍することになります。私は現代における理想的軍人像はブラッドリーにあるだろうと思います。そして彼の流れを汲むのが第一次湾岸戦争時のパウエル統合参謀本部議長だろうと思います。パットンが政治に対してあまりにもナイーブであった一方で、政治的感覚が強かったのはアイゼンハワーやマッカーサー、日本で言えば石原莞爾などではないでしょうか。マッカーサーは戦後の日本を一つの理想社会として築こうとし、朝鮮戦争においてもアメリカのアジア支配の彼なりの形を作ろうと画策して結局解任されました。

日本の自衛隊にも軍人らしくないサラリーマン自衛官がいる一方で、現代のパットンや辻正信、ブラッドリーやパウエルに相当する人たちもいます。かつて自衛官たちと深く接していたときに善し悪しを含めて「これは人材の宝庫だ」と感じました。アメリカのようにしょっちゅう戦争をしていると実戦の巧者が上に上がることもあるでしょうが、日本ではなかなか難しい。それでも一番トップに出るような人たちはそれなりにどこの国の軍隊でもトップを取れるような逸材であると感じます。惜しむらくは彼らをコントロールするシビリアンたちが彼らほど優秀でないことです(だからかえって危険なのですが)。

この映画の見所は製作者皆が感嘆したという、本人が乗り移ったと思われるほど真に迫ったジョージCスコットの演技でしょう。パットンというのはこんなおやじだったんだろうなあ、直属の上司だったら大変だなあと思わせ、それでいて戦では鬼神のごとく彼に従えば勝利するだろうと思わせるものを十分に感じさせます。この映画は70年のアカデミー賞を7部門受賞していますが、ジョージCスコットは主演男優賞の受賞をなぜか拒否したというエピソードもあります。地獄の黙示録で有名なコッポラはこの映画の脚本でアカデミー賞を受賞していますが、映画の出だし、度肝を抜く大星条旗をバックにパットンが現れて聴衆を一切写さないまま「アメリカの名誉ある歴史を作るために戦え」と演説する様は戦意高揚のためにヒーローとして駆り出されたパットンを示しているとも言えますが、どうもパットンの姿自体がアメリカを象徴しているのではないかと思われてなりません。この映画の一番最後は凱旋行進する古代ローマ軍につれられた奴隷が「ご主人様、栄光は移ろいやすいものです。」と諌めることばで終わっています。この出だしとこの最後は当時世界一の覇権をソ連と争っていたアメリカに対して目立たないように発したメッセージと見るのはうがちすぎでしょうか。

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