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映画・演劇のレビュー

『ツレがうつになりまして』

2011-10-12 20:55:07 | 映画
まるで自分のことが描かれているようで、こんなにも感情移入出来た映画はめずらしい。別に僕が今うつであるというわけではないが、映画の中でも言っているように「うつは心の風邪のようなもの」で、いつ、誰が罹るかはわからない。その時、初めていろんなことが見えてくるのだろう。この映画はそんなすべてが丁寧に描かれてある。

これはまるで自分の話のようだ。普段の自分がもう少しエスカレートしたならこんなふうになるのではないか、と思わされる。ほんのちょっとしたことで精神的にすぐ落ち込む。うつになる。まぁ僕の場合は寝たら治るのだが、本当のうつの人はそうはいかないのだろう。

 さて、この映画の主人公である。いくらもがいてもなかなか改善されない。仕事を辞めて治療に専念する。失業保険でしばらくは食いつなげるのかもしれないが、不安はますばかりだ。期限を切ってくれるのならまだ我慢できる。だが、うつはそんなふうに簡単には治らない。精神的なものも多大に影響する、と言われても、じゃぁ、どうすればいいのか、うまくいくはずのものではない。妻の献身的な助けが彼を支える。結局はそこにしか、打開策はない。だが、もちろんそれがすべて、ではない。それだけではどうしようもないものもある。しかも、それが負担になることもあるから、難しい。

 夫、堺雅人。妻、宮崎あおい。映画はこの2人をひたすら見つめていく。そこから目を逸らさない。思いがけない誰かが彼らを助けるのではない。自分たちの力でなんとかしていこうとする。もちろん、医者に掛かっているし、両親や兄弟の助けもある。誰もが2人を支えてくれるのも事実だ。だが、それが負担になることもあるし、結局は、頼れるものは自分と妻しかいない。イグちゃん(彼らはイグアナを飼っている!)もいつも一緒に居てくれて2人を癒してくれるが、根本的な解決を示してくれることはない。

 2月くらいから始まり、1年を追う。さらに2年目へと続く。そんな日々のなかで少しずつ病気と折り合いを付けていき、回復をはかる。2人でなら大丈夫だ。起きてしまったことはもうどうしようもない。逃げることは出来ないならちゃんと向き合っていくしかない。映画はそんな2人をしっかりみつめていく。大事なのはその一点だけだ。ここにはうそがない。長い時間をかけて焦らずゆっくりと病気と闘う。そこから未来が開けてくるのだろう。「がんばらない」という覚悟のもと、あきらめないでうつと向き合う。

 これを単純に夫婦愛の物語だなんて、括らない。この映画が描くのは愛おしいくらいのつつましい生活である。彼らの姿を追いかけるだけで、映画が成立する。そんな奇跡のような映画だ。ここでは鬱病と戦うなんてことは2の次、3の次となる。真面目すぎる夫が誠実に生きた結果うつになる。彼に支えられ漫画家として頑張る妻は、いつのまにか、日々の生活の中で漫画を描く意味を見失っていたことに気付く。うつがいろんなことを2人に教えてくれる。もちろんうつに感謝しなさいなんて、言わないが、うつを通して自分たちの幸せと改めて向き合う。この映画が感動的なのはそこである。

 佐々部清監督は前作『日輪の遺産』で戦争スペクタクルに挑戦したが、彼にはあんなタイプの映画より、この映画のようなしみじみした作品が似合う。


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