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映画・演劇のレビュー

尼崎ロマンポルノ『ラブホテルジプシー』

2011-10-11 22:15:56 | 演劇
 これは渾身の力作である。そのくせ、作、演出の橋本さんはとても楽しんでいる。この余裕はなんだろうか。「崖っぷちからお送りする」「尼崎版、ロマンポルノ」という当日パンフにあるキャッチフレーズは勇ましい。彼の今回の作品に対する自信の程が伺える。サカイヒロトさんによる猥雑で自由自在な美術と連動し、芝居は思いのまま、好き放題である。

 大体今回のロケーションがすばらしい。周囲のロケーションをここまで活かす設定はないだろう。難波のラブホテル街の真ん中での公演である。近大の学生会館がこんなところにあるのも凄いことだが、敢えてここを公演場所に選ぶのは、芝居自身の設定とリンクするための遊びだ。狭いエレベーターに乗って5階まで上がるというのも、芝居の設定の古いラブホテルらしくていい。もうここから芝居は始まっている。

 ラブホテルの5階の一室、3階の1室、さらには管理人室がある1階。ここにはすべての部屋の今の状況が見られるビデオが並んでいる。一斉にモニターであらゆる部屋が一目瞭然だ。これって盗撮ではないか。支配人の女は居ながらにしてこのホテルのすべてを掌握する、だけでは飽きたらずアルバイトと共にメモを取る。あらゆる事から目を離さない。ここのすべては自分が牛耳る。ここで生まれ育った少女。彼女はここに自分の部屋を持ち、そこで暮らしている。その客室が彼女の家だ。子供たちと遊ぶ彼女の姿が、劇中で何度となく挿入される。それは記憶の風景なのか。

 5階でAVを撮影する男女の話を中心にしてドラマは展開する。サイドストーリーとして3階のゲイの2人のラブプレイが描かれる。2人は諍いから、殺人を起こす。この事件によって警察が介入してくる。だが、こんな話自体はどうでもいい。芝居はお話を見せていくことなく、狂気に至る彼らのそれぞれの異常な行為をハイテンションで見せていくばかりだ。だから、芝居はとりとめもない。まとまりのなさがこの作品をおもしろいのに、つまらなくする。その矛盾を敢えて橋本さんは受け入れる。混迷を極めるこのラブホテルという宇宙を描くことが今回の目的なのだろう。そういう意味では目的は達せられた。だが、見終えた後、物足りなさが残る。ドラマとしての帰着点がはっきりしないからだ。このもどかしさは、作り手の意図なのならば、詮無いことだが、なんだかもったいない。

 ひとつの穴を通してすべてがひとつにつながる、というこの芝居の基本イメージが指し示すものを明確にすることで、この作品はもう一段高いレベルに到達できたはずだ。そこが惜しまれる。




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