習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『最愛』

2013-04-27 08:06:19 | 映画
 HIV感染者たちの隔離施設(というか、村の閉鎖された学校なのだが)で出会った男女が、「絶望の中で愛し合う様子を繊細に描く」(と、どこかの解説には書いてあった)。監督は、あの傑作『孔雀  我が家の風景』のクー・チャンウェイ。あの映画が大好きだから、ただそれだけでこの映画を見たのだが、ちょっと残念な出来で、がっかりした。切実さがまるでない。どうしてこんな映画にしたのだろうか。

 売血を通してエイズ(HIV)に感染した中国の村を舞台にしたラブ・ストーリーだ。この題材を扱い、後半は感染者同士の男女によるラブ・ストーリーとしてだけででまとめてしまったのはもったいない。話をもっとちゃんと広げてもよかったのではないか。

 その結果作品は甘いものになり、その描く世界もせまくなる。HIVに感染して残り少ない命である。そんなかわいそうな2人の強い絆を描くというわかりやすい落とし方は本来のテーマから少しずれている気がする。彼らの愛ではなく、その背後にある社会や世界のありかたも見据えた作品にならなくては意味がない。

 最初に死んでしまった少年の語りで全編が綴られていくというスタイルは面白いけど、それがどれほどの効果をあげているのかというと、そこもいささか心許ない。単なる思い付きのレベルでしかない。少年と彼の家族を中心にして、村全体のあり方が、この村だけの問題ではなく、いくつもの村で同じ状況を作り上げたこの社会の現実とリンクしていかなくては意味がない。貧しさが原因だなんてつまらないことを言っても仕方ないが、その貧しさをもっと突き詰めて見せなくてはこの悲劇を告発することはできない。

 とても興味深い題材なのに、こんなふうに主役の2人(チャン・ツィイーとアーロン・クォック)がまるでリアルではないのも問題だ。美男美女を主人公にした悲恋ものにしてしまったのは、大衆受けを狙ったからか。なんかこれではただのきれいごとにしか見えない。特にチャン・ツィイーがお人形さんのようにきれいで、あれではうそくさい。




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