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映画・演劇のレビュー

『最終目的地』

2013-04-27 07:57:17 | 映画
 ジェイムズ・アイボリー監督の新作は、こんなタイトル(原題もここまま)が付いているけど、映画自体はなんだか摑みどころのない作品で、なんともゆるい空間で主人公たちは、ずっとまどろんでいるばかりだ。これでいいのか、と思うくらいになんだかよくわからない映画である。でも、その何とも言い難い世界がとても不思議で心地よい。思いもしない映画で意外性が何よりも魅力的なのだ。でも、ほんとに、ここが人生の最終目的地である、とアイボリーは言うのか?

 一人の男が旅に出る。彼はたった1冊の小説を残して死んでいった作家の伝記を書くために、その作家の家族のもとを訪れるのだ。しかも、わざわざアメリカからウルグアイまで、行くのである。もちろん彼にとってはその行為は死活問題なのだ。子の伝記を書かなくては仕事を失うかもしれない。

 ウルグアイの僻地で彼らは暮らしている。そこには広大な土地と、家がある。死んだ作家の妻、彼の愛人だった女(シャルロット・ゲンズブール)とそのまだ幼い娘。作家の兄(アンソニー・ホプキンス)と、その恋人である男性(真田広之だ!)が暮らしている。主人公はここで、作家の家族から伝記を書くための許可を得るため粘り強く交渉する。だが、そのうち、本来の目的を外れて、この場所に囚われていくことになる。この心地よい場所の虜になる。やがて、シャルロットと愛し合うようになり、ここに留まる決意をする。まるで亡くなった作家の身代わりのように。伝記を書くことも、大学での仕事も、恋人も棄てて、ただ、ここで生きる。ここは天国か?

 なんだかへんてこな映画である。何かを訴えるための映画ではない。大体この映画が何を言いたいのか、それがよくわからない。でも、わかりたいとは思わないし、わからせることは目的ではない。僕たち観客も主人公である彼と同じように、この「この世の果て」で、何もせず、過ごしていればいい。これはそんな映画なのだ。

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