温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

三斗小屋温泉 大黒屋 その1(現地まで登山)

2021年05月29日 | 栃木県
(2020年8月中旬訪問)

前回記事では東京の猛暑から逃れるべく中禅寺湖畔の金谷ホテルに泊まったときの記録を取り上げましたが、今回もやはり避暑目的で栃木県の高いところへ訪ねた際のことを書き綴ってまいります。といっても、前回記事の中禅寺金谷ホテルは老舗のリゾートホテルでしたが、今回取り上げる三斗小屋温泉「大黒屋」はいわゆる山小屋であり、いろんな意味で金谷ホテルとは対照的な存在です。

那須岳の山中に湧く三斗小屋温泉は、登山と温泉の両面を楽しめる点で私が大好きな温泉のひとつです。当地には2軒の宿があり、拙ブログでは以前に「煙草屋旅館」を取り上げています(以前の記事はこちら)。今回取り上げる「大黒屋」は、「煙草屋旅館」のような露天風呂こそ無いものの、車でアクセスできない深い山の中とは思えないほど立派な建物や佇まいが評価を得ています。
三斗小屋温泉へアクセスするには登山道を歩くしかありません。そのルートにはいくつかあり、代表的なのが那須湯本方面から車や路線バスで茶臼岳ロープウェイへ乗り継ぎ、茶臼岳から三斗小屋温泉へ向かうものです。ロープウェイで高さを稼げ、またトレッキング道もよく整備されているので、登山に慣れていない方にはもってこいのルートです。でもそのメジャーコースですと私にとっては退屈なので、今回はどちらかといえばマイナーな、沼原から三斗小屋宿跡を経由して那須岳の西側を上がるルートを選択することにしました。


【沼原駐車場 標高1275m】
まずは沼原駐車場に自分の車を止め、登山の支度を調えます。この日は8月中旬。下界は灼熱地獄の猛暑でしたが、下界から沼原駐車場へ上がるだけで気温は25℃まで下がっていました。これだけでも十分快適・・・と言いたいところですが、辺りにはアブが飛び回っており、特に車の排気ガスと熱を察知して車に群がり、バチバチと音を立てながら車に体当たりしてきます。ドアを開けるとすぐに侵入してきますので、即座に閉めて無駄に開けないようにし、車からちょっと離れて登山の準備をしました。


沼原調整池の池畔を湿原方向へ北上し、途中の分岐で道標が示す方向へと進んでいきます。
木々の中を比較的平坦な道が伸びているのですが、路傍で古いお地蔵さんがこちらを見ており、この道が単なるトレッキングコースではないことがわかります。


更に進むと笹薮が深くなり、道も狭くなり、徐々に登山道らしい雰囲気が出てきました。


そして上画像の石仏あたりから一気に下り勾配が急になり、本格的な登山道になります。この石仏をよく見ますと、なんと「天保」と刻まれているではありませんか。天保と言えば徳川11代から12代将軍の時代ですね。つまりこの道は、江戸時代に既に人々が往来していたわけです。それもそのはず、この道は江戸期に整備された氏家と会津を結ぶ「会津中街道」の跡らしく、この石仏から先の急な坂は麦飯坂と称されているんだとか。


ジグザグに傾斜を下る麦飯坂が終わると、丸太を組んだ橋で沢を渡り・・・


江戸時代の人々はこんな険しい道を足駄掛けで往来していたのか・・・往時の人々の苦労を偲び、せせらぎの音に心を潤わせながら、ひと気が全くない小径を先へ進みます。


【湯川 標高955m】
那珂川の最上流部に当たる湯川を跨ぎます。なお、この川は後ほどもう一度わたります。


石垣が組まれた箇所を進むと・・・


車一台なら余裕で走れる林道に出ました。林道との角には立派な道しるべが建っており、三斗小屋へ向かうならば、ここを右折して北東方向へ上っていけばよいとのこと。
林道があるなら、はじめからそこを歩けば良さそうなものですが、この林道は沼原から山をひとつ越えた西側で水をたたえる深山湖付近から伸びており、那須岳を周遊登山するなら遠回りになってしまうため、多少険しくても沼原から麦飯坂を経由するのが一般的です。


歩きやすい林道をどんどん進みます。歩きやすいとはいえ、登り傾斜がそこそこあるので、いつの間にか腰が重くなり、汗も止まらなくなっていました。それにしても、お盆休みだというのに、沼原湿原の分岐点から麦飯坂を経由してここまでの間、誰一人ともすれ違っていません。ロープウェイがあっていつも賑わっている表那須と比べ、この裏那須サイドが如何にマイナーであるかを実感しました。


林道を歩いていると、突如薄暗い木陰の中でたくさんのお墓や石仏、そして馬頭観音が並ぶ光景に出くわしました。この墓地の前を通過すれば、間もなく三斗小屋宿跡です。
先ほどこの道は「会津中街道」の跡であると申し上げましたが、三斗小屋宿は幕末の戊辰戦争で官軍と会津藩が衝突する激戦地になり、会津藩士に多数の犠牲者が出てしまいました。林道に沿って立ち並んでいるのは、この戦死者達のお墓なんだそうです。そして戊辰戦争から150年が経った現在でもその子孫がお墓参りにいらっしゃっているそうです。かく言う私も会津の血を引いておりますので(それゆえ無闇矢鱈に反骨してしまうのですが)、一旦立ち止まり、墓前で手を合わせました。
なお上画像に写っている馬頭観音は明治17年のもの。三斗小屋宿の集落は戊辰戦争で大半が消失してしまいましたが、その後再興されたそうですから、馬頭観音も再興の際に建てられたのでしょう。


【三斗小屋宿跡 標高1095m】
「会津中街道」の宿場のひとつだった三斗小屋宿の跡までやってきました。路傍には古い石灯篭が立っており、往時を偲ばせてくれます。当地はいまでも定期的に整備されているらしく、草が刈られて広々としていました。


道に沿って当地に関する説明板や記念碑などが立てられています。また、当地からあると思しき手水鉢からは清らかな水が勢いよく溢れ出ており、試しに飲んでみると、キリリと冷えた清冽な喉越しが非常に美味しく、ここまでの疲れが一気に消え去りました。

江戸時代に会津藩によって整備された会津中街道は、道の険しさによって早くも江戸中期には脇街道扱いされてしまうのですが、三斗小屋宿は白湯山信仰の修験道者を集め、そこそこ賑わっていたんだとか。
その後、幕末の戊辰戦争に巻き込まれて集落は烏有に帰したものの、明治期に再興が図られ、銅山開発によって当地で銅の精錬も行われるようになりました。しかしながら、明治41年に大火が発生して集落全戸が消失。昭和32年に最後の1戸が転出して、以降当地は誰も住まない無人の地になってしまいいました。


先ほど三斗小屋宿は白湯山信仰の修験道者を集めて賑わったと申し上げました。たしかに集落内の石灯篭や鳥居には「白湯山」と書かれています。この白湯山とは一体なのか…。
野湯マニアの方ならご存知かと思いますが、那須岳(茶臼岳)の西側山腹には「御宝前の湯」という野湯があり、ドーム状の丸く赤茶けた丘の上を、湧出した温泉が滝のように流れ落ちています。この野湯の存在は既に江戸時代から知られており、温泉湧出地帯を出羽三山の「湯殿山御宝前」に見立て、この一帯を「白湯山」と名付けることで、修験道の信仰地にしたようです。そして、往時の三斗小屋宿は、白湯山御宝前へ向かう修験道者の山麓ベースだったわけです。なお、那須における修験道信仰が廃れてしまった現在、「御宝前の湯」へ向かう道は消えてしまい、もし行きたければ登山道の途中から道を逸れて藪漕ぎせざるを得ません。

なお、当地には「山之神社」というお社も建てられています。集落の鎮守だったのでしょうか。
本当はこの広々とした宿場跡でゆっくり休憩したかったのですが、アブが鬱陶しく、立ち止まるとすぐに襲ってくるので、仕方なく足早にこの地を去ることにしました。


三斗小屋宿跡を抜けて再び深い木立の中に入り、道に沿って川の方へ下ると「那珂川源流」の碑が立っています。栃木・茨城の両県を流れる一級河川の那珂川は、茨城県大洗付近で太平洋に注いでいますが、その源はこのあたりなんですね。


碑の裏に架かる橋で川を渡ります。那珂川源流と言っていますが、地図によれば目の前を流れる川は湯川であり、さきほど麦飯坂を下ってちょっと進んだところで渡った川と同じです。渓流の水はとても清らか。心が洗われます。


さて、ここから本格的な登りがはじまります。


小さな沢を越えたり・・・


ひたすら深い緑の中を進んだり・・・。
急な登りがひたすら続きますが、さすがに三斗小屋温泉関係の方々が上り下りする道だけあって、きちんと整備されており、危険な箇所や迷いやすい箇所は皆無です。


会津中街道の難所である福島県境の大峠へ向かう道の分岐点を過ぎたら・・・


建物が見えてきて・・・




【三斗小屋温泉 標高1460m】
今宵のお宿、大黒屋に到着しました。三斗小屋宿跡から一気に365メートル上がってきたんですね。さすがにここまで上がると空気がヒンヤリしていました。

次回記事ではお部屋やお風呂の様子を取り上げます。

次回に続く。
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日光中禅寺温泉 中禅寺金谷ホテル 後編(温泉)

2021年05月24日 | 栃木県
前回記事の続編です。

栃木県産の食材をふんだんに使ったコース料理で大正期の晩餐会に想いを馳せた後は、奥日光の白濁硫黄湯で心身を癒しましょう。


お風呂は1階に降り、玄関とは反対側へ進んで勝手口のような場所に出てから・・・


渡り廊下を歩いて別棟へと進みます。


こちらが別棟の温泉浴場。本館と同様に木材を多用しており、周囲の環境との調和が図られています。


浴場名は、からぶろじゃなく、そらぶろです。
この浴場棟はフロントから離れており、外部から入ることができちゃう場所なので、お風呂の利用者はあらかじめフロントで暗証番号を教えてもらい、男女別の入口でその番号を入力し開錠する必要があります。


木のぬくもりと湖畔の明るさ、そして山麓の緑を感じられる更衣室は、決して広くはないものの、使い勝手が良く綺麗にお手入れされており、快適に利用することができました。さすが老舗ホテルですね。


浴室は現代的な造りで、男女両浴室の仕切りにはガラスが採用されており、屋内であることを忘れてしまうほど明るく開放的です。洗い場にはシャワー付きカランが7基設けられ、各ブースは仕切り板でセパレートされています。なお室内にはサウナも設けられていますが、訪問時は感染予防のため利用中止になっていました。水風呂はありません。


木々を眺める窓に面して据え付けられた内湯浴槽は、私の目測で2m×4mほどの大きさでしょうか。後述しますが、こちらでは奥日光湯元のお湯を引いており、硫黄をたっぷり含むこのお湯はその時々によって色や濁り方が変貌します。私が訪ねた時には黄色混じりのエメラルドグリーンを呈し、底が見えるか見えないかという程度に懸濁していました。


内湯のドアから屋外に出てステップを下ると露天の岩風呂です。湖畔に位置しているものの木立が深いために湖面は望めませんが、「そらぶろ」という名前の通り、夜に空を見上げると満天の星空を楽しめます。空気が澄み周囲に余計な光が無い高原の星空は大変綺麗です。また日中でも広い空に木々の緑が美しく映え、実に爽快なロケーションです。
露天の浴槽は10人同時に入れそうな大きさがあります。外気の影響を受けるためか、露天のお湯は強く白濁しており、その透明度は20cm程度でしょうか。濁りが強くて底が全く見えないのに、浴槽の中に段があったりしますので、足元に注意しないと躓くかもしれません。内湯と露天で色合いや濁り方が違うところが、いかにも硫黄の濁り湯です。なお露天は長風呂したくなるぬるめの湯加減で、じっくりと長く浸かっていられますが、硫黄の血管拡張効果によって力強く火照るので、迂闊に長湯すると逆上せちゃうかも。


上述のように、こちらのお湯は約10km離れている奥日光湯元から引湯しており、いろんな源泉のお湯をミックスさせてここまで引っ張っています。なお奥日光湯元の各温泉施設では、施設によって混合泉の組み合わせが異なりますが、こちらの施設の場合は「奥日光開発1.2.3.4.7号森林管理署源泉混合泉」であり、拙ブログで取り上げた施設ですと日光湯元の「源泉ゆの香」や中禅寺湖畔の旧「ホテル湖畔亭」(現「シンプレスト日光」)が同じ混合源泉を引いています。

お湯の特徴としては奥日光湯元と同じであり、いわゆる硫黄泉の濁り湯なのですが、長い距離を流れてくる間に少々こなれて角が取れるのか、浴感・匂い・味など知覚的特徴が奥日光湯元で入浴するよりも幾分マイルドになっている気がします。でも硫黄泉らしい独特の匂い、そして苦味やえぐみは十分強く、湯上りは全身から硫黄の匂いがしっかり漂い、そして力強い温浴効果が得られます。

同じ中禅寺湖畔のホテルでも奥日光湯元から温泉を引いている施設がありますが、お湯の割り当てがあまり多くない印象を受けます(あくまで印象なので間違っていたらごめんなさい)。一方、さすが金谷ホテルは地元名士で有力者だからでしょうか、惜しげもなくふんだんにかけ流せるほど湯量が豊富です。

清らかな自然に囲まれた快適な環境で、おいしい料理と素晴らしい温泉を存分に堪能することができました。日帰り入浴も可能のようですから、もしお時間が合えば立ち寄ってみてはいかがでしょうか。


奥日光開発1.2.3.4.7号森林管理署源泉混合泉
含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 78.6℃ pH6.4 溶存物質1.347g/kg 成分総計1.582g/kg
Na+:136.4mg, Ca++:207.7mg, Mg++:6.1mg,
Cl-:86.9mg, HS-:12.0mg, S2O3--:0.6mg, SO4--:465.9mg, HCO3-:280.9mg,
H2SiO3:107.5mg, HBO2:14.9mg, CO2:181.6mg, H2S:52.6mg,
(平成27年9月24日)

栃木県日光市中宮祠2482
0288-54-0007
ホームページ

日帰り入浴13:00~15:00
1300円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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日光中禅寺温泉 中禅寺金谷ホテル 前編(客室・食事)

2021年05月20日 | 栃木県

(2020年夏訪問)
今年(2021年)は全国的に梅雨入りが早く、さわやかな季節はあっという間に過ぎ、本来ならば風が薫るはずの5月半ばで早くもジメジメムシムシと不快な気候になってしまいました。梅雨は長いのかしら、梅雨明けの猛暑は今年もひどいのかしら・・・。暑さが苦手な私は、今後しばらくの気候を考えると憂鬱になってしまうため、せめてブログ内だけでも気分を晴らそうと、昨年避暑目的で宿泊した日光中禅寺温泉「中禅寺金谷ホテル」を取り上げます。

金谷ホテルといえば日光屈指の名門リゾートホテルであり、東照宮付近と中禅寺湖畔でそれぞれホテルを営業していますが、昨年夏に訪ねたのは温泉が引かれている後者の方です。中禅寺湖畔の木立の中に立地しており、建物自体も木材を多用することで周囲の環境との調和を図っています。老舗の風格と現代的なデザインを折衷させたすばらしいリゾートホテルです。

●館内

館内もラグジュアリー感たっぷり。上画像はフロント前のロビー。重厚感のある暖炉等によって山小屋的なイメージを惹起させてくれます。


2階ラウンジではコーヒーや紅茶のサービスが提供されており・・・


座り心地の良いソファーに腰かけ、談笑しながらのんびりとしたひと時を過ごせます。

●客室

今回利用した客室(ツイン)は、おそらくこのホテルでは一般的なクラスではないかと思います。
各客室には・・・


木製のベランダがあり、木々の向こうに広がる中禅寺湖を眺めることができます。
宿泊した日、下界は猛暑続きでしたが、中禅寺湖畔には涼しく爽やかな微風が吹いて実に心地良く、エアコン要らずで快適に過ごすことができました。エアコン漬けの毎日ですと体調がおかしくなりますが、天然のクーラーは体に優しいので、次回記事で紹介する温泉入浴と併せて、すっかり心身の元気を取り戻すことができました。都市部でクーラーを使いながら暑さに耐えるのではなく、みんなで標高の高いところへ避暑した方がよほど健康的ですし、地方経済も潤いますし、電力消費も減るので、いろんな意味でエコロジー&エコノミーではないでしょうか。


●食事

老舗リゾートホテルに泊まったからには、ご自慢のお食事を楽しみたいもの。
夕食はフルコースで、予約時にいくつかのコースから選択することができます。
上画像に写っているものは以下の通り。
前菜:キャビア添え香鶏と日光湯葉の冷製
魚:金谷ゆずサーモンの白ワイン蒸し
肉:霜降高原牛フィレ肉のステーキ 栃木県産赤ワインソース
サラダ:鶉のローストと根セロリのピュレ サラダ仕立て
この他、肉料理の前にゆずのグラニテも供されました。
いずれも栃木県の食材を使って工夫を凝らしており、とっても美味。


今回の予約時にお願いしたコースは「皇室の愛した料理たち」という仰々しい名前なのですが、このコースで最も異彩を放っており、本コースたらしめている料理が大正天皇即位礼饗宴の儀の際に供されたとされるザリガニのポタージュスープ「蝲蛄濁羹」です。
上画像がそのザリガニポタージュ。どこにザリガニがいるのか? かにかにどこかに?


みっけ! ちなみにザリガニの身もスープの中に入っています。私は子供の頃に、田んぼや水路に入ってザリガニを捕まえていましたが、あのザリガニが何故こんなに香ばしく美味しくなるのかしら。中国等で食べられるスパイシーな味付けのザリガニも美味しいのですが、それとはまた異なる、実に上品で香り高い味わいです。

大正天皇が即位する頃の日本は兎にも角にもヨーロッパに倣っていろんなものを模倣しますが、当時欧州で高級食材だったザリガニの食用もそのひとつ。1915年(大正4年)の大正天皇御大典用として、北海道支笏湖で獲れた在来種の二ホンザリガニ4000匹を京都御所へ運ぶにあたり、その一部を御用邸がある日光の冷たい水で一時飼育していたようです。宮内庁の資料「大礼記録」によれば実際に御大典でザリガニポタージュ「蝲蛄濁羹」が供されたことが記されており、その前後にも大正天皇の料理番を務めていた秋山徳蔵によってしばしば宮中晩餐にザリガニが食材として採用されたそうです。日光の御用邸は病弱だった大正天皇のために建てられましたから、大正天皇は当地で飼育されていたニホンザリガニを何度も召し上がったのでしょうね。

さて、支笏湖から日光へ運ばれ飼育されていたニホンザリガニの一部は生け簀から逃げちゃったのですが、それから100年近く経過した2006年に、日光の大谷川でニホンザリガニが発見され、その遺伝子や形状、そしてザリガニの体に共生していたヒルミミズを調べてみると、支笏湖の個体と共通していることが判明しました。生け簀から逃げ出したザリガニの子孫が連綿と命をつなぎ続けていたのです。このニホンザリガニを当地の名産にできないかと考えた栃木県内の関係者はいろいろと試行を重ね、県立馬頭高校水産科がザリガニの臭みを抜く方法を考案して、そのザリガニを食してみたら、あらまぁ美味しいじゃありませんか、ということで金谷ホテルでこのような料理が提供されることになったんですね。大げさに言ってしまえばロイヤルクレイフィッシュなのですから、道理で田んぼのアメリカザリガニとは違うはずです。


こちらは食後のデザート。
大変おいしゅうございました。


朝食もレストランでいただきます。もちろんタマゴ料理はお好みをチョイスできるので、私はsunny-side upをお願いしましたが、オムレツやスクランブルエッグもOKです。金谷ホテルといえばベーカリーも有名ですよね。当然パンも美味です。

さて、胃袋を満たしたところで、次回記事では温泉浴場を取り上げます。

次回に続く

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むつざわ温泉 つどいの湯

2021年05月13日 | 東京都・埼玉県・千葉県

千葉県は地熱資源には恵まれていないにもかかわらず、実は個性的な温泉や鉱泉の宝庫であり、探せば探すほど面白いお風呂に出会える良泉の穴場です。さて今回取り上げるのは房総半島の東部に位置する長生郡睦沢町の「むつざわ温泉 つどいの湯」です。こちらは「道の駅むつざわ つどいの郷」の一部を構成する施設であり、道の駅が2019年に現在の場所へ移転リニューアルした際にオープンした、比較的新しい温浴施設です。


周囲には長閑な田園風景が広がっているのですが、2本の県道がクロスするこの道の駅のまわりには大きなショッピングセンターがあり、また住宅地も開発されていて、睦沢町のちょっとしたコアになっています。そのような立地ゆえか、この道の駅には茂原駅から路線バスが運行されており、電車とバスを乗り継いで当地へアクセスすることもできます。


こちらの道の駅は大きく3つの施設から成り立っており、温泉の他は、地場産品の物販コーナー「つどいの市場」、そして地域の食材を活用したイタリアンレストランです。


館内の様子。画像の向こうはイタリアンレストランです。なお画像の手前側は子供の遊び場なのですが、感染症対策のため使用中止になっていました。


さて、こちらが温泉の入口。モニターで検温し、消毒をしてから、靴を脱いで下足箱へ。
券売機で料金を支払い、入浴券と下足箱を受付カウンターに差し出すと、引き換えにロッカーキーを受け取ります。


受付カウンターのすぐ先に男女別浴室の入口が並んでいます。
脱衣室は広くて明るく、清潔感に溢れ、使い勝手もまずまずです。幾分無機質な感は否めませんが、でも7台ある洗面台それぞれにドライヤーが備え付けられているところは立派です。

この先の様子については、公式サイトの画像を借用しております。


(公式サイトより画像を借用)
いかにも新しい浴場らしく、内湯は明るくて開放的な空間です。男湯の場合、入って左側に立って使うシャワーが3つ、そしてサウナがあり、右側には洗い場や浴槽が配置されています。
洗い場には計14基のシャワー付きカランが取り付けられいるのですが、各ブースを仕切る袖板が大きく、完全に隣と隔てられ、ちょっとした個室気分の中でシャワーができました。

浴槽は2つあり、1つは「むつざわの湯」と称する源泉かけ流し槽で、大きさは1.8×3mほどの6人サイズ。もう1つはそのかけ流し槽からの流れ込みを受けながら、同時並行で循環湯も使っている浴槽で、かけ流し槽とほぼ同じか若干大きな造りです。

このうちかけ流しの「むつざわの湯」が実に素晴らしい。単に素晴らしいだけでなく、強烈なパンチを食らったような衝撃すら受けました。と申しますのも、源泉から汲み上げて加温した冷鉱泉を名前の通りにかけ流しているのですが、この冷鉱泉が只者ではないのです。温泉マニアでしたらご存じの方も多いかと思いますが、房総半島の地下には南関東ガス田とよばれる日本最大の水溶性天然ガス田が広がっており、戦前から現在に至るまで天然ガスの採掘がおこなわれています。いまでも千葉県の一部地域では県内産のメタンガスが都市ガスとして供給されています。当地における天然ガスは太古の海水が地中に封じ込められたことで生まれた鹹水に溶けていますので、井戸から汲み上げた鹹水の中に含まれているメタンガスやヨードを工場で分離して各方面で利用しています。一般的に、ガスやヨードを分離した後の鹹水はそのまま排水されちゃうか(※1)、あるいは地盤沈下を防ぐために地中へ還元されているのですが(※2)、こちらの浴場では分離後の鹹水を浴用として二次利用している点が非常に珍しく、元々塩分のみならずガスやヨードなどいろんなものが溶けていた鉱泉であるため、お風呂へ供給される時点でも成分がものすごく濃いのです。分析表によれば溶存物質は27030mg/kgという海水並みの数値であり(※3)、その大部分は塩化ナトリウム(食塩)ですが、ヨウ素イオンや臭素イオンも非常に多く、またアンモニアイオンも桁外れに多く含まれています(その代わりメタンガスはしっかり抜かれています)。

(※1)新潟県胎内市でも、千葉県と同じように地中の鹹水から天然ガスやよう素を分離して生産しているのですが、冷鉱泉状態の千葉県と違って新潟県胎内市の場合は鹹水の温度が高いため、海洋排水される時点でも50℃以上の温度を有しています。拙ブログではこの高温状態で海洋排出される鹹水に入浴したことを取り上げております(こちらの記事です)

(※2)汲み上げられた鹹水の大部分は排水され、地中に還元される量はあまり多くないようです。それゆえこの地域では昔から地盤沈下が発生しやすい状況にあります。関東天然瓦斯開発の公式サイトによれば600年分の埋蔵量があるらしいので、当分はこの温泉が枯れたり、あるいはガスが採掘できなくなったりすることは無いかと思いますが、何も対策せずに汲み上げ続けたら地盤沈下がますます悪化するかもしれませんね。また塩分が濃い温泉ですので、当施設の設備が塩分にやられて早く故障してしまうかも。いろんな面でこまめな対処が求められます。

(※3)同じ千葉県ですと、残念ながら閉館してしまった「牧の原温泉 リスパ印西」が溶存物質26.17g/kgなので同程度です。県内にはここより濃い温泉があり、私が複数回利用しているのにまだ拙ブログで取り上げていない「舞浜ユーラシア」は成分総計33.50g/kgです。一方、むつざわ温泉と同じくガスやヨードを分離した鹹水を浴用に二次利用している新潟県の温泉浴場「塩の湯温泉 サンセット中条」は、舞浜と同程度の溶存物質33~34g/kgです。


かけ流し槽のお湯は小豆を液体に溶かしたような赤茶色を帯びつつ薄暗くボンヤリと濁っており、浮力を感じるほどとっても塩辛いのですが、私が肩まで湯船に浸かろうとしたとき、強烈な臭いが私の顔面を襲ってきたので非常に驚きました。その臭いの正体はアンモニア。源泉1kg中に240.4mgものアンモニウムイオンが含まれているので、かけ流されるお湯からは当然そうした臭いが発せられ、面食らった私は思わずフレーメン反応のように顔をゆがめてしまったのですが、でもこれだけはっきりとアンモニア臭を嗅げる温泉はとても珍しく、鉱泉の状態が良い証拠でもありますので、まるで中毒患者のように私はかけ流し浴槽に入り続け、塩辛い濁り湯で独特の臭いに包まれ、至福のひと時を過ごしたのでした。新潟県「西方の湯」を彷彿とさせる強い個性のお湯です。


(公式サイトより画像を借用)
露天エリアには、楕円形の大きな浴槽と3つのツボ湯があり、いずれも内湯と同じ鉱泉が使われているのですが、内湯と異なり、しっかり循環ろ過されています。上述の通り内湯は薄暗く濁っていますが、露天では濁りが取り除かれ、明るい小豆色を呈した透明のお湯が張られています。塩辛い点は同様ですが、アンモニア臭は無くなり、その代わり、アンモニアに隠れていたヨード臭が前面に出ているようでした。また同じく強いアンモニア臭のために存在感が薄れていた消毒のカルキ臭もこの露天風呂では確認できました。このような状況ですので、お湯自体は内湯の方が良い(というか元々の姿に近い)のですが、露天の入浴環境はとても素晴らしく、遮るものがない視界には青空と里山が広がり、またエリア内にオリーブが植えられることにより爽やかな印象を得ることもできました。

この他、このお風呂で興味深い点をいくつかご紹介しましょう。
まず塩辛くて成分が濃いお風呂であるため、浴場内にある掛け湯のそばには「お風呂を出る前に温泉を洗い流しましょう」という注意書きが掲示されています。塩分・よう素が強いため、湯船に浸かったままでお風呂から上がってしまうと、肌が乾燥してしまうんだとか。一般的には温泉成分を洗い流さないようにするのが良いとされていますが、あまりに個性的すぎるこちたのお湯では逆にせざるを得ないわけです。

もうひとつ。地下からくみ上げる当地の鹹水は温度が高くないため、浴用にする場合は加温しているのですが、その熱源に使われいるのが、ご当地産の天然ガスによる発電(コージェネレーションシステム)の余熱なのです。天然ガスで発電して道の駅や周辺施設に電力を供給し、その余熱でお風呂のお湯を温めているんですね。実に合理的。お湯もエネルギーも地産地消というわけです。

今回の記事は妙に文章が長くなりましたが、兎にも角にも面白く且つ快適なお風呂でしたので、もし宜しければ(世間や状況を見ながら)是非お出かけください。


むつざわ温泉つどいの湯(長楽寺)
含よう素-ナトリウム-塩化物強塩冷鉱泉 24.3℃ 溶存物質27030mg/kg 成分総計27040mg/kg
Na+:9543mg(88.74mval%), NH4+:240.4mg, Mg++:294.7mg(5.18mval%), Ca++:161.4mg, Fe++:0.6mg,
Cl-:15110mg(95.42mval%), Br-:121.9mg, I-:75.5mg, HCO3-:1118mg,
H2SiO3:78.5mg, HBO2:13.5mg, CO2:0.6mg,
(平成27年6月4日)
加水無し
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環ろ過あり(必要流量を確保するため9
消毒あり(衛生管理のため次亜塩素酸ナトリウムを使用)

千葉県長生郡睦沢町森2番1 
道の駅:0475-36-7400
つどいの湯:0475-36-7407
ホームページ

10:00〜21:00
700円(町民料金設定あり)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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川浦温泉 山県館(後編 信玄岩風呂)

2021年05月07日 | 山梨県
前回記事の続編です。
(2021年5月現在、日帰り入浴は中止しています)


内湯「せせらぎ之湯」でかけ流される二つの源泉に満足した後は、信玄の名前が付けられた露天風呂へと向かうことにしました。一旦服を着て、館内案内に従って通路を進みます。


廊下を歩いて・・・


突き当たりにある専用のエレベータで下へ。


更に渓流へ向かって木造の廊下を下ってゆくと・・・




(公式サイトより画像をお借りしました)
渓流のほとりに設けられた「信玄岩風呂」へ到着しました。目の前を流れる笛吹川を眺めながら入浴できる素晴らしいロケーションです。なおこの露天風呂は写真NGのため、公式サイトより画像をお借りしております。

浴槽周りはゴツゴツとした岩が並べられていますが、浴槽内部は鮮やかな色の豆タイルが張られています。浴槽は3つあり、最も高い位置にある手前側の浴槽が最も熱く、山側の大きな槽が適温、奥がぬるくなっています。こうした湯温の状況からわかるように、湯口は最も熱い浴槽に設けられ、そこから順々に落ちてゆき、奥のぬるい浴槽が川下になっています。また真ん中の大きな適温槽にも湯口があり、ここのお湯は飲めると書かれています。川下のぬるい浴槽へ注がれたお湯は、全量が川へと落ちていました。

内湯と違って、この露天風呂ではどの源泉を使っているのか明記されていないのですが、味や匂いは少々弱いものの、ツルスベの滑らかな浴感はしっかり得られますし、内湯と同じ熱さでしたので、湧出量が多くて温度も高い2号泉ではないかと思われます。

渓流を眺めながらの湯あみはとても爽快・・・と言いたいところですが、季節によってはアブの猛攻撃を受けますし、この「信玄岩風呂」自体、浴槽廻りに腰かけて休憩するような場所が無いため、私個人としては内湯の方が気に入りました。

なお、この露天風呂は1か所だけなので、時間によって男性・女性・混浴といったように使い分けています。なお各時間割は以下の通りです。
 ・日の出~10:00 →  混浴
 ・10:00~16:00 →  男性用
 ・16:00~18:30  → 女性用
 ・18:30~22:00 →  混浴

今回は取り上げていませんが、こちらのお宿には貸切風呂もありますので、今度は宿泊してゆっくり過ごしたいものです。


山県館1号
アルカリ性単純温泉 38.9℃ pH9.3 154L/min(動力揚湯) 溶存物質238.5mg/kg 成分総計238.5mg/kg
Na+:42.3mg(68.91mval%), Ca++:14.9mg,
Cl-:17.3mg(18.01mval%), OH-:0.3mg,S2O3--:0.4mg, SO4--:71.2mg(54.41mval%), HCO3-:22.0mg, CO3--:9.2mg,
H2SiO3:57.6mg,
(平成28年2月22日)

山県館2号
アルカリ性単純温泉 43.6℃ pH9.6 960L/min(動力揚湯) 溶存物質279.1mg/kg 成分総計279.1mg/kg
Na+:56.6mg(71.93mval%), Ca++:18.3mg,
Cl-:17.3mg(14.13mval%), OH-:0.7mg, SO4--:111.9mg(67.15mval%), CO3--:16.8mg,
H2SiO3:54.3mg,
(平成28年2月22日)

山梨県山梨市三富川浦1140
0553-39-2111
ホームページ

日帰り入浴11:00~15:00(14:00受付終了)
1500円
(2021年5月現在、日帰り入浴は中止しています)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
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