温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート 2024年 後編

2024年03月15日 | 台湾
前回記事の続編です

●選挙当日

投票前夜、私は新北市板橋の高層ビルにあるホテルで宿泊。
明けて翌朝の選挙当日。ホテルの部屋から眺める新北市の眺望は、投票日和と申し上げましょうか、雲一つない素晴らしい天気でした。


ホテルでチェックアウトを済ませ、歩いて板橋駅へ向かいます。ちょうどホテルと駅の間に新北市役所があり、たまたま市役所から最も近い投票所の前を通り過ぎたのですが、朝から既に有権者の方が並んでいらっしゃいました。


こちらの投票所はビル1階の吹きさらし状ホールに設置されているため、中の様子が丸わかりでした。
なお、台湾の投票は朝8時から夕方4時まで。日本と比べると、投票できる時間がかなり短いですね。


この日は台湾中部へ行きたかったので、板橋駅から台鉄の自強号に乗車しました。
このブログをご覧の方で、もし今後台湾で選挙がある日に公共交通機関を利用することがあれば是非とも留意していただきたいことがあります。予約を要する高鐵・台鉄・高速バスなどあらゆる交通手段は、選挙当日の席が早々に埋まってしまうため、できるかぎり早めに予約するか、あるいは選挙当日の移動を避けておいた方が良いかもしれません。この日も朝からお昼くらいまで、台北を出る列車は台鉄・高鐵ともに悉く満席でした(私は早めにネット予約して席を確保しました)。
なぜこのような現象が起きるのか・・・。戸籍地でないと投票できないため、都市部で生活している人は投票のためわざわざ故郷へ帰省するからです。台湾の投票制度には在外投票も期日前投票もないため、有権者は選挙当日に自分の地元へ帰省して(人によっては海外から帰国して)貴重な一票を投じるのです。このため投票前日や当日の午前中は交通機関が大混雑する傾向にあります。

投票時間が短く、しかも在外投票や期日前投票が無いにもかかわらず、投票率は日本より良いのですから、日本の有権者意識って何なんだろうと途方に暮れたくなります。


ところ変わって、こちらは台湾中部南投県某所の投票所です。ドアの向こうが実際に投票する場所。投票権を持っていない私はこの先立ち入ることができないので、手前から内部の様子をチラチラ拝見・・・。


今回の選挙に際して事前に有権者へ配布された選挙公報を見てみましょう。
選挙公報には候補者の情報のほか、投票についての説明や諸注意が書かれており、上画像は投票の流れを図示したものです。まず受付で身分証明と投票通知票、ご自身の印鑑を確認されるのですが、なんとスマホの電源を切るように指示され、ちゃんとOFFになっているかチェックを受けるそうです。その後は日本と同じように投票用紙をもらって仕切りがある場所へ向かいます。


続いて、実際の投票方法を見てみます。
日本の場合は候補者や政党の名前を投票用紙に記入しますが、台湾の場合は仕切りがある投票ブースに専用のスタンプが用意されており、候補者名の上にある指定の欄にその専用スタンプを捺します。投票用紙には予め候補者名(比例代表ならば政党名)や番号などが印刷されており、各候補名の上にスタンプを捺す欄があるので、自分が推したい候補名の上にスタンプをポンと捺すだけ。日本のように記名しません。そして、押印した投票用紙を投票箱へ入れることにより投票は終了です。
なお選挙の内容によって用紙の色が異なり、総統選は赤色の紙、立法院の小選挙区選挙は黄色、同じく比例代表選挙は白色です。


こちらは民進党選対本部で配布していたチラシです。投票用紙にはこのように印刷されているので、例に倣ってそれぞれ民進党の候補者名の上にスタンプを捺してね、と訴えかけています。なお投票所に用意されているスタンプは、〇の中に鏡文字の「ト」が入っているような図案となっており、このチラシにもその印が描かれていますね。

日本の選挙ではなぜか名前の記入にこだわりますが、それが原因で無効票や不可解な票の按分が発生するなど、しばしばトラブルになっています。一方、台湾のみならず海外では、候補者に割り振られた番号を記入したり、あるいは予め投票用紙に印刷された候補者名へチェックするなど、記名を要さない合理的な方法を採用しており、私は日本もそろそろ記名式をやめたらどうかと思っています。


実際の選挙広報に戻ります。
こちらは政党別総統選候補者を紹介したページです。各選挙区共通です。
総統及び副総統各候補の生年月日や出身地、学歴や経歴、そして選挙公約がフォーマットに則って紹介されています。比較的わかりやすい国民党とは対照的に、民進党の選挙公約は細かな文字で埋め尽くされており、ちょっと見難いかもしれません。
個人的には民進党副総統候補である蕭美琴の出生地に注目。そこには「日本」と書かれています。蕭美琴は神戸生まれなんですね。日本にゆかりがあるので、ちょっと親近感を抱いてしまいました。もう一つ注目したいのは、台湾生まれの候補者の出生地。台湾省〇〇市というように台湾「省」という省名が使われていることです。台湾では数年前に「台湾省」を事実上廃止しているはずですが、選挙公約ではその省名が蘇っているのです。なんでだろう・・・。


日本の国会に相当する立法院の選挙は小選挙区と比例代表の並立制で、一院制のため、全議席が改選となります。
上画像は台湾中部の某選挙区に立候補している小選挙区の立候補者。当然ながら選挙区によって候補者は異なります。小選挙区の改選数は73議席です。



こちらは比例代表(全国不分区)の各政党です。比例代表の枠は34議席で、拘束名簿式です。なお日本のように選挙区と比例代表を重複して立候補することはできないため、比例復活という不思議な現象も起こり得ません。

日本のマスコミでは民進党・国民党・民衆党の3政党しか報じられませんが、それ以外にもいろいろな政党が林立しているんですね。ただ実際に議席を獲得できるのはほんの一部であり、ほとんどは正直なところ泡沫政党扱いです。


個人的に興味深かったのは1番目の「小民参政 欧巴桑聯盟」です。欧巴桑とは、そのまま音読みするとわかりますが日本語の「オバサン」の当て字、つまりオバサン連盟というわけです。ユルいイラストとともに、オバサンという政党名からは砕けた印象を受けますが、公約として子育てしやすい社会の実現を掲げ、具体的には児童人権の法制化、環境保護、金権政治打破と公平な選挙運動の実現、metoo運動、そして国防や防災面の強化など、なかなか立派な内容となっています。またオバサンと言いながら実際の候補者は子育て中の若いお母さんが多いのも特徴的。残念ながら選挙の結果として議席の獲得には至らなかったものの、全政党で5番目に多い票数を得ており、決して侮れない存在となっています。次回の選挙でも注目すべき存在でしょう。


台湾の選挙の特徴として、原住民枠が挙げられます。こちらは大選挙区制で、平地の原住民枠3議席と、山間部の原住民枠3議席が争われます。
台湾で暮らす人々を本省人、外省人という言葉で分けることがあります。おおまかに表現すれば、1945年以降国民党の敗走によって大陸から台湾へ渡ってきた人たちやその子孫が外省人で、1945年以前から台湾で暮らす人々が本省人ですが、本省人も17世紀ころから台湾へ渡ってきた漢族と、それ以前から台湾に居着いているオーストロネシア語族の原住民族(日本語では先住民族)に分けられます。
台湾では本省人外省人問わず圧倒的多数の漢族が長年にわたって支配的であったため、少数派の原住民族は文化的のみならず社会的・経済的等色々な面で不利な環境にあり続けたのですが、台湾の民主化に伴って原住民族の諸権利を認めて社会的な地位の向上も図られ、選挙においても原住民の権利を確保するため、専用の議席枠が確保されるようになりました。


午後4時に投票が締め切られると同時に開票作業が開始され、各メディアも開票速報一色に染まります。上画像は台湾大手テレビ局の開票速報をキャプチャーしたものです。民進党・頼清徳の優勢が報じられていますね。ちょっと上画像では見にくいのですが、この映像は開票作業を中継しており、黒い服を着た女性が両手で赤い紙を掲げてながら一票一票の内容を読み上げています。赤い紙ということは総統選の投票用紙ですね。各投票所から選管指定の開票所へ集められた上で開票する日本とは異なり、台湾では各投票所で開票が行われ、その様子は有権者のみならず海外旅行者のような非有権者でも会場に入って見学することができるそうです。私はそのことを後から知ったため、開票の様子を見ることができませんでした。残念です。ちゃんと事前に調べておけばよかったと後悔しきりです。

●選挙結果を報じる新聞
選挙の翌日、コンビニに立ち寄って新聞を購入してみました。
選挙の結果分析は既に多くの論者によって語りつくされていますので、ここでは現地の新聞がどのように報じたかを簡単に見ていきましょう。


まずは「自由時報」。
新聞名の上に「台湾優先 自由第一」という標語が書かれていることからもわかりますが、比較的民進党寄り且つ大陸とは距離を置くスタンスの新聞で、「中国介選失敗(中国が選挙の介入に失敗)」「民進党8年打破魔咒(政権は8年までしか続かないという台湾のジンクス(呪い)を民進党が打破した)」という文言からもその論調は明らかです。
またその下には支援者に対して首を垂れて敗戦を詫びる国民党や民衆党の総統選候補者が写っており、総統選における民進党の勝利と国民党及び民衆党の敗北を対比を明確に表している一方、立法院において与党が第一党になれなかったことをはっきりと表現せず「3党不過半(3頭そろって過半数に及ばず)」という表現にとどめています。


こちらは「聯合報」。
この「聯合報」と「中国時報」は国民党寄り且つ大陸寄りのスタンスをとる傾向にあり、それゆえ一面に躍る文言も民進党に対して厳しいもの。「頼清徳小贏(辛勝)」という見出しと共に、「頼得票未過半 国会三党不過半 民進党雙少数(頼清徳の得票数は過半数に至らず、立法院でも過半数を取れず、民進党は2つの面で多数派ではない)」と民進党に対して徹底的に辛口です。そして「拝登:不支持台湾独立(バイデン曰く台湾の独立は支持しない)」という文言も、台湾独立派から支持を集める民進党の理念から離れたものであり、一方で台湾独立を嫌う中国大陸の方針に適うものでもあります。

以上、「世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート」と題して2024年1月に実施された台湾総統選を、日本のメディアでは取り上げられないような細かな面を中心に取り上げてまいりました。

次回記事から温泉ネタへ戻ります。



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