温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

繋温泉 盛岡市立つなぎ老人憩いの家

2012年06月30日 | 岩手県

ギリギリのところで雫石ではなく盛岡市の領域に含まれている繋温泉。御所湖畔に位置するこの風光明媚な温泉地に対して私は、敷居が高そうな宿や大規模旅館が多くて立ち寄り入浴が難しそうだという先入観を抱いており、付近で湯巡りをしていてもここだけは敬遠することが多かったのですが、地区内の老人福祉施設で手軽に外来入浴ができるという情報を目にしたので、どんなところか実際に行ってみることにしました。
バス停や観光案内所がある一角から温泉街へと進み、数年前に閉館した「ホテル山翠」手前の角を右折すると、すぐに目的地にたどり着くことができました。地域の集会場のようなこじんまりとした建物施設の前の空き地は、特に看板などは立っていませんが、施設利用者のための駐車場のようです。
どこでも温泉地は苦境に立たされていますが、ご多分に漏れず繋温泉も青色吐息であり、温泉地をグルっとまわってみたら、営業を諦めた廃旅館の哀れな姿が次々に目に入ってきました。



隣接する入江児童公園には真ん中に「和」と彫られた区画整理事業完成記念碑が据え付けられています。繋温泉の目の前には御所ダムの湖(御所湖)が岩手山の姿を水面に移しながら静かに水を湛えていますが、ダムの建設および湛水に伴って水没する集落の集団移転は、後背に控える繋温泉の区画整理と一体化する形で事業が行われ、碑にはその事業の経緯や概要などが刻まれていました。水没世帯に対する補償交渉は難航を極めたそうでして、だからこそ「和」という一文字が重い意味を持っているのかもしれません。繋温泉が他の温泉地のようにゴチャゴチャせず、整然とした区画割になっているのは、この事業のおかげなのですね。もっとも、このために温泉地なんだか住宅地なんだかよくわからない街並みになっているような印象を受けるのですが…(個人的な感想ですよ)。
ダム水没と温泉地という関係ですと、関東人の私としては川原湯(八ツ場)をつい連想してしまいます。当地と川原湯は似て非なる関係だと思いますが、移転後の川原湯にはもうちょっと風情のあるまちづくりを期待したいものだなぁ、と廃業した繋温泉の旅館を見ながらふと呟いてしまいました。


 
さて館内に入って受付窓口で直接料金を支払います。係員のおじさん曰く「お風呂には何にもないですけど、いいですか?」とのこと。おじさんの言うとおり、ここはちっとも温泉施設らしくありませんが、それもそのはず、あくまで温泉浴場は従属的なものであって、施設の本来の目的は老人福祉なのですから、あたかも公営の診察所の如き無機質で殺風景な雰囲気で満たされているのは、至極当然なのかもしれません。温泉風情を求めちゃいけないわけです。



脱衣所も至ってシンプルで、壁にくくりつけられた棚があるだけです。しかも狭いため、同時に2人が着替えたら、それ以上の客が入る余地はないでしょう。



こじんまりとした浴室には3人サイズで縁が御影石の浴槽がひとつと洗い場があるだけで、やはり装飾性は無くシンプルです。室内は全面タイル貼りで、床にはウインナーを輪切りにしたようなタイルが敷き詰められていました。この手の施設って、お手入れがあまり十分でなかったりしますが、失礼ながら、意外にも綺麗でよく手入れされており、快適に利用することができました。浴槽の縁の切り欠けからはふんだんにお湯がオーバーフローしており、小さいお風呂ながらも贅沢に温泉を使っていることがわかります。



洗い場には押しバネ式のオートストップ水栓(お湯と水のセット)が計4人分設置されており、お湯は源泉使用なのか矢鱈に熱く、不意な接触による火傷を防止するために給湯の配管にはラッキングが被せられていました。


 
壁から突き出た源泉用の配管は短いホースに接続されており、ホースから縦に取り付けられているティーズの配管を経由してから湯船へと落とされています。お湯はかなり熱くて、湯船に浮いているフロート式の温度計は44℃を指していたのですが、この熱さに耐えかねた先客の爺さんが眉間に皺を寄せながら水道の蛇口を全開にしていました。

お湯は無色透明で特に湯の華のようなものは見られませんでしたが、ふんわりと硫黄の匂いが湯面から漂い、口に含むと硫黄らしい味も確認できました。浴感に関してはツルスベでも引っかかりでもなく、掴みどころがないごくごく普通のお湯といった感じです。

今回訪問した木曜日の午後1時頃には3人の先客(いずれもお爺さん)がいらっしゃり、その後からも2人ほどやってきて、狭いお風呂の中は昼間からとっても賑やかでした。近所の老人の憩いの場というこの施設本来の目的はちゃんと果たされているようです。尤も、外来者にとって、こんな小さなお風呂で500円も取られるのは、ちょっと腑に落ちませんが、旅館と違って営業時間帯が広く、誰でも気兼ねなく利用できるわけですから、繋温泉のお湯を手軽に体験できる有益な施設であることには間違いありませんね。とても良いお湯でした。


つなぎ温泉混合泉の湯(至光の湯、新瑞光の湯の混合泉)
単純硫黄泉 65.3℃ pH9.1 溶存物質0.5926g/kg 成分総計0.5926g/kg 
Na+:163.3mg(90.91mval%),
Cl-:105.7mg(36.43mval%), HS-:1.1mg(0.37mval%), SO4-:200.8mg(51.10mval%), S2O3--:2.4mg(0.49mval%),
H2SiO3:68.7mg, H2S:0.0mg,

盛岡駅前or盛岡バスセンターより岩手県交通バスのつなぎ温泉・鶯宿温泉・ほっとゆだ駅方面行でつなぎ温泉下車、徒歩2~3分(盛岡駅前から約30分・620円)
盛岡市繋字舘市100番地10  地図
019-689-2901

6:00~21:30
500円
備品類なし(入浴道具販売も無し)

私の好み:★★
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鉛温泉 藤三旅館 その2

2012年06月29日 | 岩手県
その1のつづきです

●白猿の湯
 
藤三旅館といえば、日本一深い自噴の岩風呂でとても有名なこの「白猿の湯」ですね。私があれこれ述べると蛇足になりそうなので、このお風呂に関しての記述は簡潔に済ませます。既に多くの方によって紹介されていますので、詳しく知りたい方は他の素晴らしいサイトをご覧ください。
まずは旅館部からアプローチした場合の入口廻りの様子を撮影。


 
一方、こちらは反対側にある湯治部側の入口。明るく近代的な和風の旅館部側入り口と異なり、こちらの方が古くて趣きがあるような気がします。



今から約600年前に、白猿が桂の木の根元に湧くお湯でケガを癒していたところをキコリが見つけたのが、鉛温泉の歴史のはじまりなんだそうですね。入口脇に立つ柱にはかわいらしい白猿のワッペンらしきものが貼ってありました。



入口からいきなり階段で地下へおりてゆくわけですが、上述のように入口は旅館部側と湯治部側にそれぞれひとつずつ計2ヶ所あって、中央の浴槽を軸にしてシンメトリな構造となっており、こうした造りが非常に特徴的で、一度来たら忘れることができません。


 
階段を下りた先に簡素な脱衣スペースがあり、その上には縦書きの大きな温泉分析表が掲示されています。浴室内にカランなどはないので、桶で湯船のお湯を汲んで掛け湯します。


 
天然の岩を刳りぬいて作った小判型の浴槽。165cmの私の場合は胸の高さまで浸かるほどの深さがあるんですね。子供はもちろん、小柄な女性でも溺れちゃいそうだ…。
足元湧出がこのお風呂のご自慢ポイントですが、それだけでは不足するのか、他の2源泉からもお湯を引いており、中央にはその供給口と思しきSUS製の穴があって、その近くの岩付近のお湯がやけに熱くなっていました。完全掛け流しのお湯は、浴槽の縁から常にしずしずと溢れ出ています。
そのお湯は無色澄明、薄い褐色の湯の華が浮遊しており、ごく薄いタマゴの味と匂いや弱い芒硝感を帯びています。癖の無いさっぱりとしたお湯で、すっきりすべすべ気持ち良い浴感です。また、画像にちょこっと写っていますが、主浴槽の脇には一人サイズで25℃くらいの丸い水風呂があり、お湯で火照った体をこの水風呂で一気に冷やすと滅茶苦茶爽快、病み付きになっちゃいました。
 
※このお風呂は混浴ですが、6:00~7:00、14:00~15:00、19:30~21:00はは女性専用です(金曜10:00~14:00は清掃のため利用不可)


●桂の湯

「白猿の湯」と通路を挟んで向かいにあるのが、内湯と露天風呂の両方が楽しめる「桂の湯」。


 
綺麗で整然とした脱衣所は、その1で取り上げた「白糸の湯」に似た内装ですが、こちらの方がやや建築年としては先輩に当たるようで、スペース自体も「白糸の湯」と比べると若干狭めです。


 
内湯は大きな岩盤を穿ったような豪快な造りで、やや熱めのお湯が張られており、ふんだんにオーバーフローしていました。洗い場はシャワー付き混合水栓が4基設置されています。
お湯は無色澄明、薄い褐色の湯の華が少々漂い、弱い芒硝感があるもののほとんど無味無臭で、スベスベ感を有する優しい浴感が得られました。


 
露天風呂は川をせせらぎを目の前にして湯あみができる絶好のロケーション。こちら浴槽も内湯と同様な感じの造りで、お湯の影響か槽内は薄ら黄色っぽく見え、また外気の影響か内湯より湯加減が若干下がっており、いつまでも長湯したくなるちょうどいい塩梅となっていました。


 
露天の浴槽から一段下りた目立ちにくい河岸に、まるで隠し風呂のような、もうひとつの小さな露天浴槽が設けられており、川の流れが目の前に迫る位置で野湯に入っているような野趣あふれる湯あみが楽しめました。ちょっとでも増水すれば忽ち濁流に飲み込まれてしまいそうな場所です。このお風呂の存在に気付かず帰ってしまうお客さんも多いようです。
こちらの浴槽は上の浴槽から流れてくるお湯を受けているために、結構ぬるめの湯加減ですが、このおかげでいつまでも入っていられるので、私はここがすっかり気に入ってしまい、ちょっとした野湯気分を堪能させてもらいました。


●河鹿の湯
 
最後は、湯治部のお風呂「河鹿の湯」へ行ってみることに。
旅館部と湯治部との境には「白銀荘」と書かれた扁額が掛かっており、自炊する湯治客のための売店が設けられていました。そこから先の廊下には独居房あるいは病院を思わせる個室が両側に並んでおり、老舗らしい優雅な風格が感じられる旅館部と同じ施設であるとは思えないほどの高低差がそこには存在していました。両者の間には料金に大幅な差があることは知っていましたが、まさか施設自体もこんな天と地の違いがあるとは…。「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」。


 
こちらは湯治部の玄関。いかにも自炊宿らしい風情ですね。玄関の壁には縦書きの温泉分析表が掲示されていました。


 
館内の案内表示に従って更に奥へ。浴場入口から中に入ると、そこは湯治部の宿泊客の共用流しとなっており、更に男女の浴室へ分かれていました。



まるで共同浴場のような、棚しか無い脱衣室。鮮やかな水色のペンキが眩しいです。



室内に貼ってあるスリッパに関する案内には思わず苦笑してしまいました。というのも、客の利用形態によってスリッパに厳然とした格付けがあり、その客がどんなスリッパを履いているかで、上客か否かが一目瞭然なのであります。この時私が履いていたスリッパはヒエラルキーの最上位にあたる旅館部の青スリッパだったので、普段肩身を狭くして世渡りをしている鬱憤を晴らすべく、ここぞとばかりに肩で風を切りながら廊下を泰然と歩いたのでした(おぉ、醜い…)。


 
全面タイル貼りで公衆浴場然とした浴室内。極めて実用本位です。「白糸の湯」や「桂の湯」と同様に川に面したロケーションなのですが、窓を開けたら蜘蛛の巣が張られており、川の展望という面でも格差があるみたいです。なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。


 
お風呂は旅館部と月とすっぽんほどの差がありますが、湯口から注がれるお湯は実力伯仲、なかなか素晴らしいクオリティでして、投入量もオーバーフロー量も多くて立派です。無色澄明で僅かな硫化水素的な知覚と弱い芒硝感が得られ、湯船に身を沈めると、お湯がやさしく全身を包んでくれる非常に上品な浴感でした。私の個人的な感想として、お湯の質感はこの河鹿の湯(下の湯)が一番気に入りました。



・白猿の湯
白猿の湯+桂の湯+下の湯(混合)
単純温泉 40.9℃ pH8.0 溶存物質0.3868g/kg 成分総計0.3881g/kg
Na+:103.3mg(93.34mval%),
Cl-:30.8mg(18.24mval%), SO4-:113.4mg(49.48mval%), HCO3-:79.1mg(27.25mval%),
H2SiO3:45.2mg,
浴槽温度を適温にするため源泉「白猿の湯」に源泉「桂の湯」と源泉「下の湯」を加えています。
(季節・天候・時間によっても多少異なりますが、源泉「桂の湯」を30~40%程度および源泉「下の湯」を20~30%程度加えています

・桂の湯
桂の湯+下の湯(混合)
単純温泉 41.7℃ pH8.0 溶存物質0.3938g/kg 成分総計0.3952g/kg
Na+:104.8mg(93.44mval%),
Cl-:30.7mg(17.42mval%), SO4-:110.3mg(47.13mval%), HCO3-:85.4mg(28.69mval%),
H2SiO3:45.6mg,
浴槽温度を適温にするため源泉「桂の湯」に源泉「下の湯」を加えています。
(季節・天候・時間によっても多少異なりますが、源泉「下の湯」を20~30%程度加えています)

・河鹿の湯
下の湯
単純温泉 47.1℃ pH8.1 溶存物質0.3953g/kg 成分総計0.3965g/kg
Na+:105.5mg(93.29mval%),
Cl-:30.0mg(17.31mval%), SO4-:110.3mg(46.84mval%), HCO3-:91.4mg(30.55mval%),
H2SiO3:42.8mg,
(成分に影響を与える項目、該当事項無し)


岩手県花巻市鉛字中平75-1
0198-25-2311
ホームページ

日帰り入浴時間7:00~21:00(浴室により清掃時間が異なるので、委細は公式サイトで要確認)
700円
貴重品ロッカーは白糸の湯・銀の湯・桂の湯にあり
シャンプー類やドライヤーは白猿の湯以外に備付あり

私の好み:★★★
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鉛温泉 藤三旅館 その1

2012年06月29日 | 岩手県
 
温泉が好きな方でしたらお馴染みの有名旅館、鉛温泉「藤三旅館」で一泊してきました。こちらの旅館は本格的な旅館サービスが受けられる旅館部と、とてもリーズナブルな湯治部(旧自炊部)の二部に分かれており、爪の先で火を灯すわびしい生活を送っている私にとって、旅館部のお値段は清水の舞台までは高くないにせよ、渋谷警察前の歩道橋の上から新橋駅行の都バスに飛び乗るぐらいのちょっとした勇気が必要なのですが(自分でも意味のわからない喩えになってしまいました、ゴメンナサイ)、公式サイトを調べたところ、普段なら1.5~1.7万円はする旅館部木造本館2or3階のお部屋を、ほぼ半額の1泊2食付8,500円で宿泊できるプランを見つけたので、こんな好機は滅多にないと即時に予約し、三陸方面へ所用があった2012年5月某日、わざわざ三陸から花巻まで岩手県を横断して、この宿でお世話になったのでした。

以前は立ち寄り入浴で名物「白猿の湯」を利用したことがあるのですが、今回は宿泊して利用できるお風呂をすべて巡ってみました。既に多くの温泉ファンをはじめ、数々の文豪によっても表現されてきたこの温泉を、私如きがあれこれ申し上げるのはおこがましいので、蛇足な文章とならないよう、簡潔にまとめてゆく所存です。でも内容が膨らみそうなので、その1(今回)とその2(次回)の2回に分けて投稿します。


●館内やお部屋の様子、そしてお食事

ロビーや階段に敷かれている紅色の絨毯が、老舗旅館らしい重みのあるラグジュアリ感を醸し出しています。宿帳へ記入している間に、男性スタッフが荷物を部屋へと運んでくれました。



玄関近くにあるお座敷には、木を刳りぬいてつくった火鉢が真ん中に置かれていました。


 
階段や廊下も赤い絨毯が敷かれています。女中さんがお部屋まで案内してくれますが、赤絨毯の上を歩いていると、それだけで気分が高揚しますね。



今回案内されたのお部屋は3階の川に面した7畳の和室です。本館の館内は改修を重ねているようで、外観のような渋く重みのある感じではなく、いかにも和風旅館らしい綺麗で快適なお部屋でした。


 
テレビ・冷蔵庫・金庫・ポットなど基本的な備品類は一式揃っています。


 
窓の外のには豊沢川が流れ、ちょっと遠くに目を遣ると白い滝が落ちているのも見えます。


 
お食事は部屋出しです。
夕食は・・・お茶を食べて育った豚のしゃぶしゃぶ・刺身・鰆の照り焼き・ごま豆腐・こごみといちじくの和え物・温泉卵を添えたサーモンのマリネ(バジルソース掛け)などなど、これでもかというほど豪華絢爛で、何を口にしても頬が落ちっ放し。8500円なのにこんなにいただいちゃって良いのかしらと申し訳なくなっちゃうほどの品数とボリュームでした。



こちらは朝食。ベーコンエッグ(ベーコンが厚切りで好食感)・ポテトサラダとハムの他、焼き魚・切り干し大根・昆布の煮しめなど、和洋折衷な献立となっており、ワンパターンになりがちな旅館の朝食とは似て非なる個性的な美味しい食事をいただけました。

さて、腹が満たされたら、次はお風呂だ! 
お風呂の数が多いので、当ブログでは上述のように2回に分けて取り上げます。本館1階帳場から左右に廊下が伸びており、右の方へ向かうと、この旅館の名物である「白猿の湯」や露天風呂「桂の湯」、そして湯治部の「河鹿の湯」が、左へ向かうと「白糸の湯」と「銀の湯」にそれぞれ行き着きますが、今回は左の廊下を進んで「白糸の湯」と「銀の湯」に入ってみましょう。「白猿の湯」、「桂の湯」、「河鹿の湯」は次回(その2)で。


●白糸の湯
 
帳場から左手に伸びる廊下を進んだ突き当たりが「白糸の湯」と「銀の湯」の入口です。いずれも一室ずつで男女別にはなっていないため、時間帯による男女入れ替え制が採られており、「白糸の湯」は15:00~翌朝6:00が男性専用時間、朝6:00~15:00が女性専用時間です。



夕食直後に利用したためか、他の利用客はおらず、ひたすら独占することができました。老舗旅館の矜持が伝わってくる、綺麗で整然とした脱衣所は、床が畳敷きなので足元がとっても快適です。また広々としているため、ストレスを感じることなく着替えることができました。
脱衣所内には一通りのアメニティ類が揃っていますが、T字カミソリやシャワーキャップは用意されていませんので、これらが必要な場合は帳場に申し出れば無料でいただけるそうです(ただし旅館部宿泊客のみ)。


 
浴室にはまるでプールのような大きな浴槽が据えられています。川に面して横長な造りになっており、大きな窓を開ければ半露天になるような構造となっていますが、この日は虫の侵入を防止するためか、窓は閉め切られていました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基設置されており、1ブースずつにセパレートされているため、隣で他のお客さんが豪快にシャンプーしていたとしても気にならずに利用できるかと思います。なお水栓から出てくるお湯は源泉らしく、お湯からは微かにタマゴ的な味と匂い感じられました。


 
浴槽の隅にある湯口から注ぎ込まれるお湯はややぬるめなのですが、この湯口以外にも浴槽内部側面から熱めのお湯が投入されており、これによって広い浴槽の湯加減が全体的に均一になるよう図られていました。またこのような複数の湯口から注がれるお湯の総量はかなり多いのか、浴槽縁からふんだんにオーバーフローしていました。そのお湯は「桂の湯」源泉を単独使用したもので、無色透明でほぼ無味無臭、肌がスベスベするスッキリとした優しい浴感です。



窓を開けてみると、豊沢川の対岸には、浴場名の由来となっていると思しき白糸を垂らしたような一条の滝が落ちていました。



●銀(しろがね)の湯
 
翌朝二つの浴場の入口へ行ってみると、きちんと男女の暖簾が入れ替わっていました。暖簾に従い、今度は「銀の湯」へ入ってみましょう。お隣の「白糸の湯」と異なり、こちらは貸切利用もできるお風呂として設計されているためか、この旅館のお風呂の中では最も小さな造りとなっており、脱衣室もご覧のように民宿の浴室みたいなこじんまりとした感じですが、貴重品用ロッカーやアメニティ類が揃った洗面台、バリアフリーなトイレなど、諸々の設備が充実していました。


 
浴室もかわいらしく、方形の浴槽は3~4人サイズ。湯口は「白糸の湯」の湯口と同じ形状をしており、湯船のお湯の鮮度を維持するに十分な量のお湯が投入され、縁から洗い場へ向かってしっかりオーバーフローしています。また、洗い場にはシャワー付き混合栓が2基設けられています。


 
このお風呂で使われている源泉は「白糸の湯」と同じく「桂の湯」源泉を単独使用。お湯のフィーリングも「白糸の湯」と大差ないようでした。窓の外のすぐ傍では豊沢川の流れが迫っています。


・白糸の湯および銀の湯
桂の湯
アルカリ性単純温泉 59.1℃ pH8.5 溶存物質0.6223g/kg 成分総計0.6227g/kg
Na+:173.8mg(91.41mval%),
Cl-:56.4mg(20.08mval%), SO4-:215.0mg(56.56mval%), HCO3-:80.1mg(16.54mval%),
H2SiO3:61.5mg,
(成分に影響を与える項目、該当事項無し)


次回(その2)へつづく…
コメント (4)
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台温泉 観光荘

2012年06月28日 | 岩手県
 
ループを描く台温泉街の入口から近い渋い佇まいのお宿「観光荘」で立ち寄り入浴してきました。こちらは日帰り入浴を積極的に受け入れており、玄関の前には日帰り入浴案内の札がイーゼルに立てかけられていました。


 
玄関の右わきには温泉タマゴをつくる枡が設置されており、96℃というほぼ沸騰状態に近い熱湯に卵を浸すと、夏は6~8分、冬は13分で温泉卵ができあがるそうです。


 
帳場のカウンター脇には入浴利用のための券売機が設置されています。また温泉たまごをつくるための卵が販売されていました。


 
帳場前の階段を上がって客室が並ぶ廊下を進んでゆきます。廊下の一角には和風旅館らしい飾りが施されていました。


 
この宿のお風呂は、女湯が「花子の風呂」、男湯が「太郎の風呂」というように、銀行や役場の記入見本みたいな名前が冠されており、廊下を歩いてまず目に入ってくるのが「花子の風呂」前の広間です。広間や廊下の左手に「花子の風呂」が、更にその右奥の階段を上がった先に「太郎の風呂」がそれぞれ位置しており、日帰り入浴の時間帯は太郎=男湯、花子=女湯でFIXですが、朝方には男女が入れ替えられるので、宿泊すれば両方に入ることができるんだそうです。



山の傾斜に沿って建てられているために、階段が多いんですね。案内に従って階段を上がりきった奥に紺の暖簾が掛けられていました。



いくらか年季が伝わってくる渋い外観に反し、内装、特に浴室は改装が実施されたのか比較的新しいように感じられ、お手入れがよく行き届いていることも相俟って、とっても明るくきれいで好印象です。


 
脱衣室の片隅には石の枡が展示されていました。これは源泉からお宿までお湯を運んでくる分湯槽の箱なんだそうでして、温泉成分のスケールが箱の中にビッシリと付着して完全に詰まってしまっています。10年くらいでこんなになってしまうそうですが、そんなに濃いとは思えない台温泉のお湯ですら、わずか10年で目詰まりを起こしてしまうんですね。温泉施設の管理って本当に大変なんだと思い知らされ、関係者の方のご苦労にはただただ頭が下がるばかりです。



お風呂は内湯のみですが、浴槽は重厚感の溢れる檜風呂でして、浴槽まわりの壁もその質感に合わせるような色合いのタイルや建材が用いられており、それでいて窓には見た目が引き締まる黒いサッシが嵌められているので、全体としてシックで落ち着いた、旅館らしい風格が醸し出されていました。
浴槽の手前の左右両側には洗い場が配置されています。


 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が計5基設置されています。館内表示によればカランから出てくるお湯も源泉とのこと。



窓の外には花壇が据えられ、山の緑も眺められました。大きな窓のおかげで室内空間ながらかなりの開放感が得られました。


 
浴槽は4~5人サイズずつに二分されていて、左が熱いお湯(43℃くらい)、右がぬるいお湯(41℃くらい)となっており、両者の仕切り板は浴槽底までは届いておらず、仕切りの下部1/3でお湯が貫通できるようになっていました。
左端の湯口からチョロチョロと落とされる熱いお湯は、樋を流れてくる間に適度に冷まされ、まず熱い方の浴槽に注がれて、更に熱い浴槽のお湯がぬるい方へと流れてゆく仕組みになっています。熱いお湯をなるべく加水せずに温度調整しようとの配慮からか、源泉投入量はやや絞り気味で、湯口のお湯がはじめに注がれる熱い浴槽のお湯からは抜群の鮮度が感じあっれましたが、熱い浴槽の方からお湯を受けるぬるめの槽はお湯が若干鈍っているようでした。
訪問時には浴槽からのオーバーフローは見られませんでしたが、けだしパスカルの原理によって洗い場の並びに設けられた小さな枡へと排水されているのではないかと、勝手に想像しております。

お湯のフィーリングとしては、無色透明、焦げたゴムのような臭い少々と、アブラ臭にも似た硫黄臭と味、そして微かな塩味が感じられ、特にカランでは硫黄感がはっきり出ていました(一方、浴槽での硫黄感はちょっと弱め)。湯中では微細な白い湯の華が浮遊しており、ふんわりとした硫黄の香りを嗅ぎながら、あまり癖の無い優しい浴感のお湯が楽しめました。脱衣所に掲示されている源泉の分析表によれば、新湯源泉(96℃)の湧出量は毎分38Lとのことですが、さすがにこの量でかけ流しはおろかカランのお湯までカバーするわけにはいかず、新湯源泉の他、74℃、63℃、62℃の計4源泉をブレンドして使用しているそうです。加温加水無し。

台温泉で日帰り入浴といえば「精華の湯」が筆頭候補に挙がるかと思いますが、さすがにこちらは旅館だけあって日帰り専門施設とは違う風格が感じられ、短い時間でしたが優雅な雰囲気の中で気持ち良く入浴することができました。


 
湯上りに源泉のひとつである「寿の湯」を見学しました。「やまゆりの宿」の目の前にあり、脱衣所で展示されていた分湯枡が使われていた場所でもあります。源泉井からはあたりに強い硫化水素臭を漂わしながら白い湯けむりが立ちのぼっており、余ったお湯が道路へと捨てられていました。
その前に立つ御影石の碑には「湯口権者」として、やまゆりの宿(持分131/690, および124/690)、観光荘(持分124/690)、台の湯炭屋(持分124/690)、精華の湯(持分187/690)と記されていました。4軒で分けているのだからといって単純に25%ずつにせず、分母を690にして随分と細かく厳密にお湯の配分量を設定しているのであります。耕作地の用水や温泉など、水の分配って既得権などが複雑に関係してくるために、昔からどこでもシビアに決められていますね。


台温泉(新湯)
含硫黄-ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型) 96℃ pH8.2 38L/min(掘削自噴) 溶存物質1.203g/kg 成分総計1.209g/kg
Na+:295.0mg(87.34mval%), Ca++:33.3mg(11.30mval%),
Cl-:170.4mg(28.72mval%), HS-:5.8mg(1.07mval%), SO4-:486.7mg(60.48mval%),
H2SiO3:101.2mg, 遊離H2S:6.1mg,

JR東北本線・花巻駅(4番のりば)より岩手県交通バス・台温泉行で終点下車(所要25分)、徒歩5分
岩手県花巻市台第1地割166-1
0198-27-2244
ホームページ

日帰り入浴時間11:00~21:00
400円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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台温泉 福寿館

2012年06月27日 | 岩手県

久しぶりに岩手県花巻市の台温泉で立ち寄りの温泉めぐりしてみました。台温泉って訪れるたびにさびしくなっているような印象を受けるんですけど、気のせいかしら。
まず1軒目は自家源泉を持っているという小さなお宿「福寿館」へお邪魔させていただきました。午前10時頃に伺ったところ、小柄な女将さん(というよりお母さん)が掃除機を唸らせて室内を清掃している真っ最中。お仕事の手を止めて申し訳ないと詫びながら入浴を乞うと、快く受け入れてくれました。



玄関を上がって左手に帳場と厨房、右手に客室がそれぞれ並んでいます。それらに挟まれた中央の廊下を直進。



突き当り左手に洗面台があるので、そこを右折。特段装飾性のない洗面台ですが、よく手入れされていて綺麗です。



洗面所の前のステップを数段下ったところが浴室です。大小各一室ずつあり、たまたま男湯が清掃中だったので、女湯の暖簾がかかっている右側の大きな方の浴室を利用させていただきました。



脱衣室は最近改装されたのか、渋い建物外観とは対照的に、ウッディーで明るい室内はどことなく新しそうな雰囲気が漂っています。室内には余計な設備や備品類は無く、ただ棚が設けられているだけでした。なお入口から更に下がった位置に床があるので、この画像は入口から見下ろす格好で撮りました。



3~4人サイズのタイル貼りの浴槽には、岩組みの湯口からホースやVP管を伸ばして源泉が注がれており、黒い御影石が用いられた縁の隅っこにある切り欠けからはお湯がしっかりと溢れ出ています。室内は良くお手入れされており、綺麗で清潔です。


 
玄関の廊下から結構な段数のステップを下りており、浴室は半地下に近いレベルにまで下がっているようでして、湯船の右端の方は1階部分の下に潜り込んでいるような造りになっていました。浴室を源泉に近づけようとしているのでしょうね。
洗い場には混合水栓が2基設置されており、うち1基はシャワー付きです。


 
パイプからトポトポと音を立てながら浴槽へと落ちるお湯。こちらのお宿では自家源泉の「新雀の湯」と共有の2号泉の2つの源泉を使用しているそうでして、2種を混合しているのか、あるいは2つの浴室で使い分けているのかよくわかりませんが、大きな方の浴室には木の蓋が並べられた源泉溜りのようなものがあったので、けだしこちらのお風呂は「新雀の湯」のお湯が張られているものと思われます。

お湯は無色澄明、ほんのりとゆで卵の卵黄の味と匂い、そしてふんわりとした芒硝臭が感じられ、微かな苦みを帯びています。少々引っかかりが混在するスベスベ浴感で、お湯からはこの上ない新鮮さが伝わってきました。台温泉の他のお湯よりかなりマイルドで優しい質感であるような印象を受けました。また、源泉溜りで温度が下げられているためか、加水せずとも入浴することができました。もちろん湯使いは掛け流しです。

足に怪我を負ったすずめが温泉に入って治したと言い伝えられている「すずめの湯」。鷺でも鶴でもなく雀というところが、この小さなお宿の雰囲気にマッチしていますね。「舌切り雀」のお爺さんになったつもりで、雀のお宿のお風呂をじっくりゆっくり堪能させていただきました。


 
今回は利用しませんでしたが、男湯の暖簾が掛かっていた小浴室もついでに見学させていただきました。こちらは大きな浴室より一回り小さく、浴槽は2人サイズで、カランも1基のみ。いかにも民宿らしいこじんまりとしたお風呂です。


 
こちらの浴室には共有源泉が使われているらしく、岩組みの湯口から出てくるお湯は、柄杓でお湯を汲むための小さな枡へ一旦落ちてから、浴槽へと注がれています。また、これとは別に、大きな浴室側の壁から細いパイプが突き出ており、そこからもお湯が投入されていました。

こちらのお宿は、温泉街の他の小規模な宿と違って、綺麗で入りやすいので、温泉ファンのみならずどなたでも利用しやすいかと思います。しかも、後日調べたところ宿泊料金はかなりお安いみたい。次回は泊まってゆっくりと両方のお風呂を利用してみたいものです。


 
余談ですが、「福寿館」の目の前に気になる建物を発見。どうやら商店風なのですが、屋号らしき看板は出ておらず、その代り、ドアのガラスに郵便局の営業時間案内が貼られていました。ここって郵便局? しかも貯金や保険も取り扱っている? でも郵便局の看板は出ていませんし、台温泉簡易郵便局はこことは別の場所に存在しています。この物件は一体何なのでしょう…。


新雀の湯
単純温泉 52.6℃ pH8.7 溶存物質0.6462g/kg 成分総計0.6464g/kg
Na+:184.7mg(93.16mval%),
Cl-:77.2mg(25.41mval%), SO4-:234.4mg(56.88mval%),
(cf. HS-:0.0mg, 遊離H2S:0.0mg)
気温の高い期間のみ加水

台温泉2号泉
単純硫黄泉 93.5℃ pH8.4 溶存物質0.8538g/kg 成分総計0.8546g/kg
Na+:225.3mg(85.66mval%), Ca++:30.5mg(13.29mval%),
Cl-:98.1mg(25.04mval%), HS-:2.0mg(0.54mval%), SO4-:316.1mg(59.49mval%),
遊離H2S:0.1mg,
源泉温度が高いので加水

JR東北本線・花巻駅(4番のりば)より岩手県交通バス・台温泉行で終点下車(所要25分)、徒歩5分
岩手県花巻市台第2地割9-1
0198-27-2544
台温泉旅館組合ホームページ内の紹介ページ

立ち寄り入浴時間は要問合せ(9:00~20:00?)
350円
リンスインシャンプー・石鹸・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
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