温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

浅間温泉 港の湯

2014年07月31日 | 長野県
 
無類の蕎麦好きである私は、ただ蕎麦を手繰りたいがために、わざわざ信州へ出かけることがあるのですが、先日もそんな気分が突如として沸き起こったので、中央高速で松本へ赴いて信州の蕎麦を食い、そのついでに当地の奥座敷である浅間温泉を巡ってまいりました。
浅間温泉には何軒かの共同浴場が点在しており、地元の方々の生活に密接していますが、その半分近くがいわゆる「ジモ専」(地元住民専用の共同浴場)でして、私のような外来者は利用できませんが、今回取り上げる「港の湯」は外来者でも利用できる貴重なお風呂のひとつです。浅間温泉の温泉街の手前にあり、入口戸の目の前にバス停が立っているという好立地なのですが、あくまで近隣住民のためのお風呂ですから駐車場は無く、車で訪れる際にはちょっと離れた公共の駐車場まで行かねばなりません。
古風な白壁の庇下には木の袖看板が出ており、旧街道筋の商家みたいな趣きです。内陸地なのに「港の湯」とはおかしなネーミングですが、付近を女鳥羽川が流れているので、以前は川舟の河岸が近くにあったのかもしれませんね。



湯屋の右隣にはなまこ壁の蔵のような小さな建物はトイレです。


 

入口の戸は男女別に分かれているのですが、各戸の上には漢字の他、筆記体のような字で英語表記も併設されていました。長野県では冬季五輪開催の際に、県内のあちこちで英語の標識や案内掲示が見られるようになりましたが、こちらの場合は見るからに相当古く、「レディース」の方は字が半分消えかかっているので、五輪以前から掲示されていたんじゃないかと思われます。どういった経緯で英語が併記されるようになったかは不明ですが、何となく学都松本らしい光景であるように、私の目には映りました。ひょっとしたら以前には外国人の利用も見られたのかもしれませんね。もしそうであるならば、今でこそ日本的な入浴スタイルは僅かながら海外でも知られるようになりましたが、当時この共同浴場を利用したであろう外国人の目に、毎日裸で湯浴みする(海外からすれば奇特な)生活習慣は、どう映ったのでしょうか。



(画像の一部にモザイク処理しています)
男湯入口の戸には穴が開いており、その内側を見ますと閂を縦にしたようなプリミティブな施錠装置が取り付けられていました。この鍵の仕組みをご存知の地元の方でしたら、穴に道具を差し込んでちょちょいと閂を開けることにより、開放時間外でも入浴しているようですが、この画像を見た不埒な輩が非オープン時間の侵入を謀ろうとするかもしれませんので、それを防ぐべく敢えて画像にボカシを入れました。ご了承ください。


 
想定利用者数が限定されている共同浴場にもかかわらず、板敷きの脱衣室内は一般的な銭湯並みに広く、しかもコインロッカーまで設けられているので、外来利用者には嬉しいところです。普段は13時からのオープンですが、たまたま私が訪れた日に番台の当番を任されていたおばちゃん曰く「私が当番の時はいつも12時に開けるようにしているのよ」とのことで、運良く13時より早く利用することができました。なお湯銭は番台へ直接支払います。


   
浴室内には目が覚めるような鮮やかな水色のタイルが貼られており、壁や浴槽など場所によって濃淡を使い分けています。また床のタイルは市松模様です。そんな室内に据えられているのが、美しい曲線を描く小判型の浴槽でして、これまた美しく澄んだお湯が絶えず注がれています。


 
洗い場には1本の配管から分かれた水栓が3つ並んでいます。各水栓は更にスパウトとシャワーに分岐し、スパウト側にはオートストップ水栓が、シャワー側には一般的な回転式のハンドルが取り付けられています。なおこの水栓から出てくるのは予め温度調整された温泉のお湯でして、水道の水栓は無いため、自分で温度を調整することはできません。開場して間もない時間帯に入ったためか、桶や腰掛けが綺麗に整頓されており、気持ちよく使うことができました。


 
浴槽は2~3人サイズの小判型で、縁に紺色のタイルを用いることによって槽内などとのコントラストをはっきりとさせています。女湯側仕切りに設けられた湯口からトポトポとお湯が落とされており、湯船を満たしたお湯は手前側の縁下の細い穴より洗い場へ流下していきます。尤も、この小さい穴だけでは人が入った時の溢れ出しに対応できず、私が湯船に入るとお湯はしっかり縁の上をザバーっと溢れ出ていったのですが、単に溢れさせずわざわざ穴から排湯させているのは、歴史ある温泉地としての奥ゆかしさや品の良さの現れなのかもしれません。なお湯使いは完全放流式です。

お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、匂いや味の面で芒硝の存在が若干ですが確認できました。湯中では焦げ茶色の細かい湯の華が浮遊しています。湯舟に浸かるとスルスルとしたアルカリ性泉らしい滑らかな浴感が気持ちよく、ついつい何度も自分の腕を擦ってしまいました。
お湯の鮮度感が素晴らしく、浴感も上々という、実にブリリアントなお風呂でした。


山田源泉・2号源泉・4号源泉・大下源泉・東北源泉の混合泉
アルカリ性単純温泉 49.7℃ pH8.7 溶存物質411.1mg/kg 成分総計411.1mg/kg
Na+:87.8mg(69.90mval%), Ca++:31.9mg(29.09mval%),
Cl-:33.3mg(17.19mval%), HS-:0.2mg, SO4--:187.5mg(71.34mval%), HCO3-:25.0mg(7.50mval%),
H2SiO3:36.9mg,
加水加温循環消毒なし

JR松本駅よりアルピコ交通バスの浅間温泉行で「下浅間」バス停下車すぐ
長野県松本市浅間温泉1-21-10
浅間温泉観光協会ホームページ

13:00~閉館時間不明
200円
ロッカー(100円リターン式)あり、他備品類なし

私の好み:★★★

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いわき湯本温泉 ホテルいづみや

2014年07月29日 | 福島県
 
常磐線・湯本駅の正面には桜の名所である御幸山公園の小高い丘がコンモリ盛り上がっており、その北麓にはいくつかの温泉旅館が集まっていますが、今回はその中の一つである「ホテルいづみや」で日帰り入浴してまいりました。こちらのお宿は、HPや看板などではアナウンスしていないものの、入浴回数券を発売しているほど日帰り入浴を積極的に受け入れています。なお私が訪れた日は外装工事中で、周囲は足場やネットで覆われていましたが、おそらく現在では元の姿に戻っているのではないかと思われます。
(※週末に日帰り入浴で利用する際はホテルの第5駐車場を使ってほしいとのこと)


 
フロントで日帰り入浴をお願いすると、スタッフの方はわざわざ浴室手前まで案内してくださいました。なお浴室はロビーから階段で2階へ上がり、すぐ左へ曲がったところにあります。女湯と男湯は入口が離れており、男湯は細い通路の先の奥まった場所に暖簾がかかっていました。


 
コインランドリーの存在感が際立つ脱衣室。長期宿泊者もいらっしゃるのでしょう。
こちらの脱衣室で面白いのが、棚に並んでいるカゴでして、一つ一つに括り付けられたネームプレートには、双葉山・北の湖から大鵬・輪島・千代の富士・舞の海、そして高見盛に至るまで、昭和から現在の各時代に活躍した力士の四股名が記名されてれているのです。ホテルのオーナーさんかどなたかが、余程の好角家なのでしょうね。青森県鰺ヶ沢が第2の故郷である私は、鰺ヶ沢が産んだ"技のデパート"「舞の海」の籠を使わせていただきました。


 
お風呂は内湯のみで露天は無いようです。随時改修されているものと想像され、各所に苦労の跡が見受けられますが、全体的な古さは否めず、とりわけ天井の低さやそれに起因する閉塞感は如何ともし難いものがあります。右側には8基のシャワーが一列に並んでおり、ボディーソープやリンスインシャンプーも備え付けられているのですが、このシャンプーが昭和のおじさんの使うポマードみたいな匂いがしますので、もしお使いの際には予め匂いを確認しておいた方が良さそうです。


 
4本の太い柱に囲まれるような感じで、大きな浴槽がひとつ据えられています。この4本の柱には、交点に金平糖のような模様が施されている、洋風刺繍のような斜め格子のタイル装飾が施されており、また壁には日本庭園のエクステリアで用いるような模造の竹垣が貼られていて、和洋折衷の独特なデザインです。


  
槽内は薄い若草色のタイル貼り。湯口は焼き物の花瓶を横に倒したような感じで、先っちょには固形物を濾し取るネットが被せられており、それゆえ前回取り上げた「斎菊」や前々回の「上の湯」のような、湯船における湯の華の浮遊はあまり見られませんでした。湯使いに関してはよくわかりませんが、浴槽縁から静々とオーバーフローしていましたので、放流式かそれに準じた方法となっているものと想像されます。なお槽内の底には穴あきのステンレス蓋がありますので、もしかしたらここからお湯を排出しているのかもしれません。

湯口から落とされるお湯は結構熱く、温度調整のためかお湯の投入量はやや絞られていました。ただ、浴槽の大きさに対して明らかに投入量が少なく、夕方の混雑時間帯に訪ったことも響いて、この時のお湯は確かに入りやすい湯加減であったものの、残念ながら鮮度感にかける若干鈍り気味のコンディションでした。加水を極力避けるための措置かと察しますが、こうした湯加減ひとつとっても、施設側の苦労が窺えます。また匂いや味も、近隣の他施設に比べると幾分弱く、震災後に弱まった当地源泉のタマゴ感を除去して更にアブラ感を弱めたような、かなりおとなしい知覚でした。
でもお湯が持つ力は失われておらず、パワフルな温まりとシットリとした潤いがつづく湯上がりによって、本物のいわき湯本の湯であることを実感することができました。


 

館内にはビン牛乳のベンダーが設置されているのですが、そこで売られていたのは大手メーカーでも福島県ではおなじみの酪王牛乳でもなく、地元いわきの木村牛乳という業者のものでした。名前に「パスチャライズ」即ち低温殺菌という語句が含まれているように、低温殺菌牛乳ならではの濃厚な味わいが実においしく、お湯で体が火照っていたこともあり、ついつい2本も買って飲んでしまいました。


含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 58.1℃ pH8.1 3370L/min(動力揚湯) 溶存物質1763mg/kg 成分総計1774mg/kg
Na+:530.1mg(86.33mval%), Ca++:65.5mg(12.24mval%),
Cl-:603.6mg(63.73mval%), Br-2.3mg, I-:0.4mg, HS-:8.1mg, S2O3--:2.3mg, SO4--:343.4mg(26.77mval%), HCO3-:120.6mg(7.40mval%),
H2SiO3:51.8mg, HBO2:20.7mg, H2S:0.7mg,
(平成23年9月22日)

JR常磐線・湯本駅より徒歩4分(300m)
福島県いわき市常磐湯本町吹谷80  地図
0246-43-2216
ホームページ

日帰り入浴時間11:00~21:00
700円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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いわき湯本温泉 斎菊

2014年07月28日 | 福島県
 
前回記事に引き続きいわき湯本温泉で湯めぐりしてまいります。今回は公衆浴場「さはこの湯」から程近い旅館「斎菊」にて日帰り入浴してきました。いわき湯本の温泉旅館は、宿によって日帰り入浴のハードル(受け入れの可否)に高低差がありますが、こちらのお宿は日帰り入浴ウェルカムでして、私が訪った時にも仲居さん(もしかしたら女将さん?)と思しきお婆さんが快く対応してくださいました。


 
玄関前には「古来温泉湧出の地」と記された札が掛かっているのですが、こちらは安政年間(つまり江戸後期の幕末)開湯の老舗なんだそうでして、「一家専有の温泉にして屋敷内より湧出」とのことですから、かつては自家源泉を有していたのでしょう。なお現在は他のお宿と同じく一括管理されたお湯の供給を受けています。建物は鉄筋造りで、箱状の外観からは武骨な印象を受けますが、館内は老舗らしく和の落ち着いた趣きです。


 
帳場のすぐ目の前が男湯です。老舗の宿の矜持というべきか、脱衣室は綺麗に清掃されており、籐のカゴが16個、洗面台が2台、ドライヤーが2台用意されている他、扇風機やエアコンも設置されているので、季節を問わず快適に使えるでしょう。


 
大きな窓ガラスの向こうに日本庭園が広がる浴室は、室内にもかかわらず明るく開放的で、手入れもよく行き届いており、しかも湯気篭りが全くないので、実に快適な湯浴みができました。洗い場にはシャワー付き混合水栓が7基並んでいます。


 
洗い場の脇には、桶や腰掛けがきれいに積み上げられていました。きちんと整頓するお宿の姿勢や品の良さががよくあらわれていますね。シャワーの水栓金具は硫黄の影響で部分的に黒く変色していました。なおシャワーから出てくるお湯は真湯です。


 
窓の外には小さな三角形の露天風呂が見えたので、ドアから屋外へ出てみたのですが、小さいながらも立派な造りをしている露天は、残念ながら空っぽでした。常時空なのか、はたまた季節によってお湯を張ることもあるのか…。でもこちらのお風呂は内湯で十分満足できますから、私個人としては露天を利用できなくても問題なし。


 

臙脂色の縁の石材と空色の槽内タイルのコントラストが美しい浴槽は、おおよそ4×2.5mで12~13人サイズといったところ。湯口から源泉が落とされ、縁の切り欠けからしっかり洗い場へオーバーフローしていました。湯使いはれっきとした掛け流しであり、お湯の投入量こそやや絞り気味でしたが、これは熱いお湯を加水しないで温度調整するためでしょう。私が湯船に浸かると、ザバーと勢い良く縁の全辺からお湯が溢れ出ました。

お湯はほぼ無色透明ですが、湯中では白く細かい湯の華が無数に舞っているために、微かに濁っているようにも見えます。前回取り上げた「上の湯」同様、震災後のいわき湯本らしい特徴、即ち弱いタマゴ的な味と匂いの他、焦げ&渋(苦)のアブラっぽい味と匂いも感じられ、どちらかといえば後者のアブラ的な味と匂いの方がはっきり伝わってきました。湯船に浸かるとツルスベの中に弱い引っ掛かりが混在する浴感が得られ、鮮度感の良さとやや熱めの湯加減が相まって、入浴中の気持ち良さは素晴らしいものがありました。


 
浴槽縁にはレンガが置かれていましたが、これは言わずもがな、寝湯の際に枕として使うのでしょうね。さりげなくこんな小物が置かれているお風呂って、個人的には好みです。

老舗らしい品の良いお風呂で、鮮度の良い掛け流しの温泉に入れる、魅力的なお宿でした。


含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 58.1℃ pH8.1 3370L/min(動力揚湯) 溶存物質1763mg/kg 成分総計1774mg/kg
Na+:530.1mg(86.33mval%), Ca++:65.5mg(12.24mval%),
Cl-:603.6mg(63.73mval%), Br-2.3mg, I-:0.4mg, HS-:8.1mg, S2O3--:2.3mg, SO4--:343.4mg(26.77mval%), HCO3-:120.6mg(7.40mval%),
H2SiO3:51.8mg, HBO2:20.7mg, H2S:0.7mg,
(平成23年9月22日)
(いわき湯本温泉では、一括管理された温泉を各施設へ供給しています。こちらの館内に掲示されていた分析表は平成9年のものでしたが、他施設で現状の分析表が掲示されていましたので、ここでは他施設の分析表を転載いたします。)

JR常磐線・湯本駅より徒歩9分(700m)
福島県いわき市常磐湯本町三函236  地図
0246-42-4171
ホームページ

日帰り入浴15:00~21:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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いわき湯本温泉 上の湯(2014年4月再訪)

2014年07月27日 | 福島県
 
いわき湯本温泉にある数多くの温泉施設でも、お湯の良さで温泉ファンから折り紙つきである共同浴場「上の湯」は、拙ブログでも5年前に一度取り上げてますが(その時の記事はこちら。初期の拙ブログって何て薄っぺらなんでしょう)、その後に浴室が若干改修されたと聞いていたので、震災後のお湯の変質の再確認も兼ねて、先日常磐線に揺られて再訪しました。集会所と一体になった2階建ての建物は前回訪問時と同じであり、その変わらぬ佇まいを目にして安堵しました。
オープン間もない時間帯に訪れたところ、自転車や軽自動車などに乗り付けた地元の方々が、お風呂道具を小脇に抱えて次々に浴場へ入ってゆきました。多くの地元の方に愛されていることがうかがえます。なお常連さんは目の前の道路に路上駐車してしまう傾向にあるようですが、外来客の方は専用駐車場を利用しましょうね。
(←サムネイルをクリックすると、入口ドアに貼られている駐車場案内の張り紙の画像が表示されます)

男女別に分かれた入口を入ってすぐに番台があり、係員の方に直接料金を支払います。なお地元の常連さんは磁気カードを持っており、利用の都度に、番台にあるカードリーダーに各自のカードを読み込ませて入場します。
脱衣室は典型的な共同浴場のレイアウトであり、窓側にロッカーや棚が設けられていて、ロッカーにはちゃんと鍵もかけられるのですが、常連さんは鍵が面倒だからか、下段にある棚に衣類や荷物を置きっぱなしにしていました。利用者の多くは顔を見知った仲なのでしょうし、番台の人も常に見守っているので、あまり警戒する必要はないのでしょうね。



浴室内も以前とほとんど変わっていないように見え、台形を逆さにしたような浴槽の形状も以前のままなのですが、床や浴槽タイルが新しく張り替えられた他、以前は槽内と同じタイルが貼られていた浴槽の縁には、新たに黒御影石が用いられていました。その浴槽は3~4人サイズで、槽内は淡いライムグリーンのタイル貼りです。湯使いは完全なる掛け流しでして、浴槽に満たされたお湯は脱衣室側の切り欠けから常時が流れ落ち、湯船に人が入るとザバーっと豪快に洗い場へ溢れてゆきました。


 
浴室内で大きく変わったのは湯口周りでしょうね。以前は、温泉吐出口にはカモ、冷水にはハトのオブジェが載っかっており、その可愛らしさが「上の湯」の個性でもありましたが、現在の湯口は日本全国どこにでも見られるような箱状の石樋タイプに付け替えられ、水道に至っては単なる蛇口となってしまいました。あのオブジェの行方が気になりますが、使い勝手を考えたら、共同浴場はこうした凡庸でシンプルな方がいいのかもしれません。

今回目を引いたのは水道蛇口の真上に掲示された張り紙でして、曰く「みんなの浴場です。個人によって、適温が異なりますので、加水にご協力願います」と「加水」以下の部分を黄色くハイライトされながら、水で薄めてほしいと呼びかけていることです。福島県内では飯坂温泉の各共同浴場でも同じような文言が見られますが、それだけ温泉銭湯を馴染みにしている常連さんは源泉のクオリティに対する思い入れが強いのかもしれませんし、あるいはお風呂というものは慣れるに従い熱くないと満足できなくなるのかもしれません(年配の方が多いですしね)。



浴槽と逆サイドには洗い場が配置され、お湯と水の水栓のセットが窓下に4つ、そして柱を挟んで脱衣室側の換気扇下に1つの計5基が並んでいます。水栓から吐出されるお湯には源泉が用いられ、篦棒に熱いお湯が出てきますので、火傷に注意しつつ、上画像のように桶を2つの水栓の間にセッティングしてお湯と水の両方を受けると良い塩梅で使えるかと思います。

さて肝心のお湯に関するインプレッションですが、拙ブログでは2012年に同じくいわき湯本温泉の「スパホテル スミレ館」へ訪れた際に「油のような刺激のある硫黄臭、そして焦げたような苦味+微塩味+卵黄味」と申し上げているように、同じ源泉の供給を受けているこちらの共同浴場でもやはり焦げたような味と匂い、そしてほんのりとした塩味や渋くて苦い味が感じられ、アブラ系の匂いが浴室に漂っていました。色合いや濁りに関しては、薄っすら黄緑色を帯びつつボンヤリ白く霞んでいるように見え、湯中では白い細かな湯の華がたくさん浮遊していましたが、かつてのような白濁ではなく、大雑把に表現すれば無色透明と言っても過言ではないような状態です。

かつてのいわき湯本温泉といえば、白濁を呈するタマゴ感の強いお湯でしたが、上述のように震災後の現在ではタマゴ感が弱まった代わりに、鉱物油っぽい匂いが前面に出るようになり、濁り方もかなり大人しくなりました。ここで震災の前後で分析表を見比べてみましょう。

【常磐湯本温泉湯本温泉源泉、震災前と後の違い】
・平成22年8月3日(震災前)の分析表(抄出)
含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 58.9℃ pH8.2 4312L/min(動力揚湯) 溶存物質1809mg/kg 成分総計1824mg/kg
Na+:540.5mg(87.48mval%), Ca++:60.2mg(11.18mval%),
Cl-:617.6mg(64.54mval%), Br-2.4mg, I-:0.4mg, HS-:10.1mg, S2O3--:3.9mg, SO4--:342.5mg(26.42mval%), HCO3-:109.6mg(6.65mval%),
H2SiO3:86.1mg, HBO2:21.3mg, H2S:0.7mg,
(総硫黄14.7mg)

・平成23年9月22日(震災後)の分析表(抄出)
含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 58.1℃ pH8.1 3370L/min(動力揚湯) 溶存物質1763mg/kg 成分総計1774mg/kg
Na+:530.1mg(86.33mval%), Ca++:65.5mg(12.24mval%),
Cl-:603.6mg(63.73mval%), Br-2.3mg, I-:0.4mg, HS-:8.1mg, S2O3--:2.3mg, SO4--:343.4mg(26.77mval%), HCO3-:120.6mg(7.40mval%),
H2SiO3:51.8mg, HBO2:20.7mg, H2S:0.7mg,
(総硫黄11.1mg)

数値の羅列を見るだけではわかりにくいのですが、人為的に調整できる温泉の汲み上げ量はともかく、明らかな変化として…
(1)溶存物質・成分総計が震災後では若干減っている(上記の青字部分)。つまりちょっと薄まっている。
(2)総硫黄(HS-・S2O3--・H2Sの合計)が14.7から11.1へ減っている(上記の赤字部分)。
といった点が挙げられ、特に総硫黄の低下が顕著かと思われます。尤も総硫黄が2.0以上あり、基本的な成分構成にも大きな変化がないので泉質名は以前と同様の「含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉」ですが、震災によって成分に僅かな変化がもたらされ、これによってお湯の特徴も大きく変わったことに間違いはなさそうです。

特徴が変化したといっても、お湯の良さは昔も今も変わりなく、ピリっと熱い湯船に浸かれば極上の鮮度感とスルスベの爽快な浴感が堪能でき、身も心もシャキッと蘇ります。いわき湯本温泉では源泉を一括管理しているため、どのお宿でも浴場でも同じお湯が供給されているわけですが、施設によって湯使いが異なるために、実際に体感できる各施設で得られるお湯のフィーリングは様々であり、浴槽の容量に対して源泉供給量が多いこの「上の湯」は、鮮度感やそれに伴う爽快感が群を抜いています。ここのお湯は改めて良いと再確認できました。


JR常磐線・湯本駅より徒歩13分
福島県いわき市常磐湯本町上川(地図による場所の特定は控えさせていただきます)

15:00~22:00(受付21:30まで)
100円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (8)
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郡山市 ヒーリングヴィラ湯元

2014年07月26日 | 福島県
※残念ながら2020年6月に閉館したようです。

 
所用で仙台へ赴いた帰路、ちょっと時間に余裕があったので、新幹線を途中下車して、郡山市街近郊の温泉「ヒーリングヴィラ湯元」へ立ち寄ってみることにしました。まずは郡山駅前のバスターミナルから鎗ヶ池団地行の路線バスに乗り、「山崎」バス停で下車します(所要時間15~6分・320円)。


 

住宅街を3~4分ほど西へ歩き、ツルハドラッグ・郡山菜根店の角を左に曲がるとまもなく到着しました。周囲は閑静な住宅街が広がっており、こんなところに温泉があるとは意外です。ネット上の情報によれば「ラブホみたい」とのことでしたが、たしかに「休憩・宿泊」という料金表があってもおかしくなさそうな外観でして、本当にここが温泉なのかと何度も看板を確認してから玄関を入りました。


 
照明をちょっと落として大人な雰囲気を醸し出している館内は、床が畳敷きになっているので足元快適です。右の方には大広間や食堂も設けられています。
料金とともに下足用のロッカーキー(100円リターン式)をフロントに差し出すと、引き換えに脱衣室のロッカーキーを手渡してくれました。


 
落ち着いた和なテイストなロビー周りと違って、脱衣室は室内面積こそ広いものの実用本位な感じで、無機的なスチールロッカーがズラリと並んでいるのですが、よく清掃されており、2台の洗面台をはじめとしてひと通りの備品も揃っているので、使い勝手は良好です。



脱衣室の奥の方にはこのようなガランとした小部屋が続いていたのですが、これって何のスペース?



陽光が差し込む大きな窓と高い天井が印象的な浴室は、暖色系の色調に統一されており、湯気篭もりが無く開放的で快適です。浴室へ入って正面に水風呂、その右側にサウナがあり、水風呂の左側には主浴槽が据えられています。


 

洗い場にはシャワー付き混合水栓が計14基並んでおり、シャワーから吐出されるお湯には源泉が用いられているようです。ありがたいことに備え付けのシャンプー類はシャンプーとコンディショナーがちゃんと別個に分かれていました。温泉施設によくあるリンスインシャンプーは、本当にリンスが含まれているのか疑わしいほど洗髪後にゴワゴワしますから、このようにコンディショナーが独立していると、個人的にはその施設を高く評価したくなります。


 

石板敷きの内湯主浴槽は4m×5mで、20人は楽に入れそうな容量を有しています。この槽はやや深めの造りとなっており、槽内のステップに腰掛けるとちょうど良い具合に肩までお湯に浸かれました。
まるで用水路から水田へ水を引いてるかのように、湯口からドバドバ大量に温泉が投入されており、湯船では42~3℃といった湯加減で、そのお湯はさざ波をつくって縁へ到達した後、惜しげも無く洗い場へザバザバと溢れ出ていました。

お湯は無色透明ですが極わずかに黄色を帯びているようにも見えます。湯口のお湯を口にすると、芒硝の味と匂いが弱く感じられ、微かな塩味とほんのりした甘さも得られました。館内には湯使いに関する表示が見当たらず、公式HPにて「かけ流し」とアナウンスされているだけですが、豪快に溢れ出ている内湯の様子からその説明に偽りはなく、少なくとも放流式であることは間違いないでしょう。ただし加温や消毒の有無に関してはよくわかりません。


 
住宅街に立地しているため露天風呂の周囲は塀で囲まれていますが、天然石や植栽を配することで日本庭園のような風情を創り出しています。露天の浴槽は4~5人サイズの岩風呂で、内湯よりややぬるめの41~2℃となっていました。


 
露天風呂でも岩の隙間からお湯がしっかりオーバーフローしていましたが、内湯に比べて投入量が若干少ないためか、溢れ出しは内湯より幾分控えめです。しかしながら、投入時の勢いによって波立っていた内湯では確認できなかった泡付きが、この露天風呂に入浴していると薄っすらながらはっきりと目視でき、この泡付きのおかげか、硫酸塩泉でありながらスルスルとすべるような滑らかな浴感が気持ちよく、お湯から上がった後もしばらくはその滑らかさが肌の上に残ってくれました。
なお露天エリアの端の、瓦の庇の下には壺湯が2つ並んでいたのですが、私の訪問時は2つとも空っぽでした。この時だけ空っぽなのでしょうか、あるいは恒常的に空なのか…。


 
露天風呂には後述する「石の湯」の屋上へ上がる階段があり、何があるのかと期待しながら上がってみますと・・・ただ単に防水塗装が施されているだけの何にもないテラスが広がっているばかりでした。こりゃ冬だと吹き晒しで寒いだろうし、夏はひどく暑そうだぞ。でも真夏にデッキチェアを出してここで日焼けしたいなぁ。


 
周囲には高い建物がありませんから、屋上テラスからは住宅地越しに、鋸歯状に連なる安達太良の稜線を眺望することができました。先ほどは「何もない」なんて述べてしまいましたが、いやいや、裸のまんまでこのような眺望が楽しめるだけでも十分かもしれません。この時はボンヤリとこの景色を眺めながら、お湯で逆上せかかった体を冷却しました。結構気持ち良いもんですよ。なお露天風呂ゾーンも見下ろせます。


 
上述の屋上テラス下にあるのは「石の湯」という設備でして、ちょっぴり蒸し暑い室内には足つぼを刺激するような小石が敷き詰められており、その様子から想像するに、筵を敷いて岩盤浴的な使い方をするものと思われます(今回は見学のみにとどめました)。なおこの「石の湯」は男湯限定であり、その代わり女湯には炭酸風呂が設けられているんだそうです。

湯上がりには滑らかな浴感が肌に残ると同時に、パワフルな温まりも持続し、なかなか汗が引きませんでした。無色透明と侮ることなかれ、相当な実力を持つ良泉です。爽快かつ開放的な浴室と露天風呂で豪快な掛け流しのお湯を楽しめる、充実した温泉浴場でした。


 
住宅街だからか、路線バスの便には比較的恵まれている場所ですので、帰路は「久留米水天宮」バス停から郡山駅へ戻ることにしました。往路で利用した「山崎」バス停よりもこちらの方が本数が多いので、路線バスでアクセスするならこちらの方が便利かと思います。


 
ちなみにバス停は久留米地域公民館の前にあるのですが、公民館の敷地内には石碑が立てられており、これによれば当地は九州・旧久留米藩の士族たちが明治11年に入植して開墾されたんだそうです。それゆえここの地名は久留米なんですね。明治期に国家プロジェクトとして安積疎水が掘られて安積野の開墾が行われましたが、この事業には会津や二本松と言った近隣のみならず、岡山・鳥取・土佐そして久留米など西国からも旧藩士が移住し、彼らの尽力によって、それまで水利が悪くて荒涼とした原野だった郡山一帯は、一大穀倉地帯へと変貌を遂げたんですね。
ひとっ風呂浴びたついでに、バスの待ち時間で歴史の勉強もできちゃいましたよ。


槻の湯
ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 40.0℃ pH8.9 75L/min(動力揚湯) 溶存物質1126mg/kg 成分総計1126mg/kg
Na+:348.1mg(94.57mval%), Ca++:14.5mg(4.52mval%),
F-:6.1mg, Cl-:203.5mg(35.79mval%), Br-:0.5mg, SO4--:401.6mg(52.14mval%), HCO3-:51.9mg(5.31mval%), CO3--:22.5mg(4.68mval%),
H2SiO3:40.0mg, HBO2 :32.9mg,

郡山駅前から福島交通バスの「鎗ヶ池団地(池の台)」行で「山崎」バス停下車徒歩3~4分、もしくは「柴宮団地」行で「久留米水天宮」バス停下車徒歩3~4分(いずれも駅から15~6分・320円)
福島県郡山市大槻町堀切西11-3  地図
024-939-1126
ホームページ

※残念ながら2020年6月に閉館したようです。
9:00~23:00(最終受付22:30) 第3水曜定休
600円/90分(利用時間によって料金が異なるので詳しくは公式HPを参照のこと)
ロッカ・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (4)
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