温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

天ヶ瀬温泉 旅館本陣

2020年10月27日 | 大分県
※本記事は2019年12月に訪問した際の様子を述べています。
2020年7月の豪雨災害により現在こちらのお宿は休業中です。一日も早い復興と営業再開を祈念する意味も込めまして、今回記事に致しました。本記事をご覧の際には事情をご理解賜りますよう何卒お願い申し上げます。


天ヶ瀬温泉「旅館本陣」で日帰り入浴を楽しませていただきました。川の左岸を行き来する駅前通りとは反対側の右岸に位置しており、目の前には河原に点在する共同浴場の一つ「益次郎の湯」があります。すぐ目の前を川が流れる眺めの良いロケーションです。


玄関からお邪魔し、帳場で日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。やや古風な建物な建物ですが、清掃が行き届いており、本陣という言葉を宿名にする矜持が伝わってきました。


宿の建物は傾斜地に沿っており、お風呂は眺めの良い最上階に設けられているのですが、エレベーターが無いため、階段を延々と登ることになります。脚が不自由な方やお年寄りには厳しいかもしれませんが、健常者でしたらむしろ足腰が鍛えられて健康促進に役立つでしょう。ちょっとした困難を乗り越えるからこそ、その先で待っているご褒美はより素晴らしいものになるのです。


途中の踊り場にある流し台など尻目にどんどん上がってゆきますと、最上階のちょっと手前で「姫湯」、つまり女湯の前を通過しました。殿方はさらに更に上へ。


やっと浴場までたどり着けました。どうやら6階に相当するようです。多くの建物にエレベーターやエスカレーターなどが設置されている昨今、6階まで階段で上がるような機会はあまり無いかと思いますので、入浴前に思いがけず良い運動ができちゃいました。
脱衣室はコンパクトながらロッカーが設置されています。ただし100円有料です。




自分の足で6階の高さまで登ってきた甲斐がありました。お風呂は内湯ですが、川と温泉街と一望する素晴らしい眺めが得られます。
眺めの良い窓に面して設けられている湯船は4~5人サイズ。最近改修したのか、浴槽は比較的新しい木材で囲われており、やや無機質な室内に視覚的なぬくもりをもたらしていました。
一方、窓とは反対側(山側)には洗い場が配置され、シャワーが3つか4つが取り付けられています(記憶が曖昧で申し訳ございません)。


湯口から滔々と注がれるお湯は無色透明ですが、硫黄泉によく見られる湯の華が付着しており、流れに身を任せるようにユラユラと揺れていました。また湯船の中では大小さまざまな大きさの白い湯の花が浮遊していました。
湯口のお湯を口に含んでみますと、微かな塩味とともに、マイルドなタマゴ感、そしてゴムテニスボールのような硫黄風味が感じられました。トロミのある湯船に浸かると、ツルスベとキシキシという相反する浴感が拮抗して肌に伝わってきました。なお湯使いはかけ流しです。

まるで天守閣のような高楼のお風呂から温泉街を見下ろすと、ちょっとした殿様気分になれました。そんなユニークな構造をしたこちらのお宿は、ワンちゃんと泊まれるお宿でもありますから、ペットと一緒に旅をする方々にとっても貴重な存在です。
豪雨被害に見舞われ大変お気の毒ですが、一日も早い営業再開を祈っております。


源泉名:合資会社成天閣
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 62.8℃ pH7.5 湧出量測定せず(自然湧出) 溶存物質1.059g/kg 成分総計1.059g/kg
Na+:253.0mg(85.47mval%), Ca++:21.8mg,
Cl-:267.3mg(57.69mval%), HS-:0.5mg, S2O3--:3.8mg, SO4--:77.4mg, HCO3-:211.5mg(26.55,mval%),
H2SiO:177.3mg, H2S:0.2mg,
(平成26年12月24日)

大分県日田市天瀬町湯山1138
0973-57-2317
ホームページ

2020年10月27日現在 臨時休業中

私の好み:★★+0.5
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天ヶ瀬温泉 瀬音・湯音の宿 浮羽

2020年10月21日 | 大分県
2020年7月の豪雨で甚大な被害を蒙った大分県天ヶ瀬温泉。懸命な復旧作業により一部の旅館や河原の露天風呂は営業を再開していますが、いまだに再開できないお宿もあり、復興は道半ばです。そこで当地を応援する気持ちも込めて、今回記事では2019年末に巡った当地の温泉を取り上げます。


この時に訪ねたのは温泉街の通りから細い道に逸れて坂を上がったところにある「瀬音・湯音の宿 浮羽(ホテル浮羽)」です。


宿の目の前には源泉と思しき施設を発見。


軒先には「立ち寄り湯営業中」の提灯が吊り下げられていました。今回は日帰り入浴での利用でので、この提灯を目にして安心しました。
(現在の日帰り入浴営業状況についてはお宿へご確認ください)
古風な旅館が多い当地にしては珍しい小奇麗なお宿で、玄関を入った先にあるロビーにはピアノが置かれており、「洋風なお宿なのかしら」と想像しながらフロントで日帰り入浴をお願いしますと、なぜか宿帳へ名前などの記入を求められました。


フロントのスタッフさん曰く、お風呂は4階にあるとのこと。ロビー奥にあるエレベーターで4階へ上がり、連絡通路を渡って隣の棟に渡って通路の突き当りまで歩きますと、ようやくお風呂にたどり着きました。


エアコンが効いて快適且つ綺麗な脱衣室を抜けると内湯。
この内湯も明るく清潔感があります。男湯の場合、正面に浴槽が据えられ、右手に洗い場が配置されています。なお取り付けられているシャワーは5箇所で、吐出されるお湯はボイラーの沸かし湯です。


内湯の浴槽は半径約1.5メートルの円形で、湯口から温泉がふんだんに供給されており、縁から大量にオーバーフローしています。湯船のお湯は無色透明で、湯中では白く小さな湯の花が少々ですが舞っていました。なお源泉温度は70℃以上ですが、内湯の湯口では既に適温でしたので、おそらく加水されているのでしょう。


内湯のお風呂で温まったところで、続いて露天へ向かいます。ドアを開けて専用の屋外通路を進むと・・・


まず右手に五右衛門風呂が2つ設けられていました。いずれも源泉かけ流しの温泉ですが、一般的な湯加減のものと、ややぬるめにセッティングされているものに分かれています。後ほど触れますが、内湯・露天・五右衛門風呂のうち、お湯の状態が良かったのはこの五右衛門風呂でした。


そしてこの裏庭のような場所に露天風呂が設えられています。正直なところあまり開放感は無いのですが、笹や常緑樹の緑に囲まれていますし、風も通り抜けますので、露天風呂に期待したくなる爽快感は得られるでしょう。


露天風呂は石造りで奥に長く、その最奥に湯口があります。内湯と異なりこちらから出てくる温泉はかなり熱いのですが、私が訪れたのは冷え込んだ年の瀬であり、また露天風呂の表面積も広いため、湯船自体はややぬるめの湯加減になっていました。


外気で冷却されるためか、露天風呂の湯中では大量の湯の華が浮遊していました。湯の華が出やすい泉質なのですね。

先ほどの五右衛門風呂のところでも申し上げましたが、こちらの浴場にある内湯・露天・五右衛門風呂という3種類のお風呂のうち、私個人の感覚で最もお湯のコンディションが良かったと感じたのは五右衛門風呂でした。浴槽の小ささとそこに注がれるお湯の量のバランスが、他の浴槽よりも良いからでしょう。浴槽の中では白い湯の花が大量に舞っているのみならず、硫黄の匂いもはっきり嗅ぎ取れます。肌に伝わるシャキッとした感覚も良好でした。次点は露天風呂で、内湯は加水の影響か前2者に比べてやや薄いように思われました(でも湯加減は最も良好でした)。湯口のお湯を口に含むと僅かに塩味が感じられる他、軟式ゴムテニスボールのような硫黄風味がしっかり伝わり、とろみやツルスベ感も明瞭。匂いや浴感が白い湯の華と相まって温泉らしさを楽しませてくれます。各浴槽ともかけ流しの湯使いであるのが嬉しいところです。
なお分析表によればこちらの温泉は溶存物質1.000g/kgとのこと。日本の温泉法では溶存物質1g/kg以上で単純温泉ではない泉質名を名乗れますから、正にギリギリのところで辛うじて「単純」の名前から逃れられているわけです。そんなことを頭の片隅に置きながら入浴するとより一層面白く入浴できるかもしれません。今回私は入浴のみの利用でしたが、次回はご当地の味覚を楽しみながら宿泊で再訪してみたいものです。


源泉名:ホテル浮羽
77.1℃ pH8.1 溶存物質1.000g/kg 成分総計1.002g/kg
Na+:252.3mg(86.45mval%), Ca++:20.7mg,
Cl-:265.5mg(57.22mval%), SO4--:93.3mg, HCO3-:180.2mg(22.54mval%), CO3--:10.8mg,
H2SiO3:133.9mg,
(平成8年11月1日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

大分県日田市天瀬町赤岩3-5
0973-57-3171
ホームページ

日帰り入浴 16:00まで
800円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
(日帰り入浴の情報に関しては2019年時点のものです。現在の状況については直接お宿へご確認ください)

私の好み:★★+0.5

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由布院温泉 束の間(日帰り)

2020年10月14日 | 大分県

今回より再び2019年末に巡った大分県の温泉へ戻ります。
全国的に有名な由布院温泉の中でもとりわけ評判が高い「束の間」(旧庄屋の館)で日帰り入浴を楽しんできました。実は本来ならば宿泊する予定だったのですが、諸般の都合により宿泊予約を泣く泣くキャンセルすることになり、仕方なく日帰り入浴で利用したのです。由布院駅前の観光案内所でJR九州「楽チャリ」の電動アシスト自転車を借り、モーターの力を借りて由布岳の麓をひたすら登ること約15分で目的地に到着しました。いかにも九州の人気宿らしい、モダン和風の小洒落た雰囲気です。


温泉櫓などあちこちから勢いよく上がる温泉の蒸気によって、施設内は白く包まれていました。当地の地熱資源が豊かであることを実感します。もちろん自然に上がっているものもあるのでしょうけど、演出として意図的にあげている箇所もあるのかな(下衆の勘繰りかしら)。


こちらのお宿は大きな建物の中に客室を収容している一般的な旅館とは違い、全室が一棟貸しとなっています。つまり小さな離れの集合体なんですね。お宿側ではこれを「ストレスフリーをコンセプトにした温泉保養集落」と称しているようです。それらの「集落」は由布岳の麓の傾斜地に沿って建ち並んでいるため、奥へ向かう階段を上がってから後ろを振り返ると、由布院の街並みを眺望できると同時に、目下の各棟も一望できます。


通路をどんどん進んで日帰り入浴の受付棟へ。各棟には温泉のお風呂があるため、宿泊や休憩利用のお客さんはわざわざ大きな露天風呂に行かなくても入浴できるのですが、日帰り入浴の客が入れるのは大露天風呂のみ。
受付棟に入って小さな券売機で料金を支払い、券を受付のスタッフに手渡します。脱衣室は広い板の間で、棚や篭もたくさん用意されており、使い勝手はまずまずです。


お風呂は写真NGですので、公式サイトから画像を拝借致しました。上画像は脱衣室から露天へ出たところを撮ったもの。脱衣室の引き戸を開けるといきなりこの景色が広がり、青いお湯が視界に飛び込んでくるので感動してしまいます。私が訪ねたのはキンキンに冷え切った年の瀬の朝一番。厳しい寒さのため露天風呂は真っ白な湯気に覆われており、湯気の向こうに霞むお湯の青さも相まって、とても幻想的でした。

しかしながら、本当に露天だけで内湯や屋内の洗い場などなく、洗い場も完全露天状態ですから、私が訪問した時のような寒い日にはちょっと身に堪えます。その洗い場にはシャワーが5箇所ならんでいるのですが、寒かったからか私がコックを開けてもなかなかお湯が出てこない・・・。寒くてたまらず、仕方なく桶で湯船のお湯を掬って掛湯させてもらったら・・・まぁ何ということでしょう! お湯がとってもヌルヌルしていてウナギ湯と言わんばかりの感触だったのです。これはすごい!


露天の湯船はとても広く、しかも(多少の深浅はあるものの)全体的に浅めの造りです。庭園の池のように大きな湯船の半分近くには屋根が掛かっており、屋根がないところでは由布岳を望めます。上述のように私は朝いちばんで尋ねたため、お風呂に入った当初は他客がいなかったのですが、さすが人気施設だけあり、しばらくすると続々と日帰り入浴客がやってきました。でも広いので混雑は気になりません。長湯にちょうど良い湯加減なので、雄大な景色を見上げながらヌルヌルの青白湯にいつまでも浸かっていられました。時間を忘れる湯浴みは実に素晴らしいですね!

お湯は白みを帯びたコバルトブルーに濁っており、微かに硫化水素臭を放っています。湯口のお湯を口に含んでみますと、薄塩味とミネラル的な味が感じられました。浴槽のまわりにはカルシウムと思しき析出が付着しており、鱗状の白い模様もたくさん形成されています。なお湯口から出てくるお湯は激熱なので、決して直に触れないように気を付けましょう。

雰囲気が良く、お湯の色が美しくて、その感触も感動的なのですから、人気を博すのも頷けます。露天風呂だけでもブリリアントなのですから、宿泊したら尚一層感動することでしょう。今回は泊まれなかったのですが、次回こそは宿泊してみたいものです。


ゆふいん束ノ間の湯
ナトリウム-塩化物温泉 97.4℃ pH8.7 湧出量測定せず(498m掘削自噴) 溶存物質1.237g/kg 成分総計1.237g/kg
Na+:374.0mg(92.18mval%),
Cl-:413.0mg(69.43mval%), S2O3--:0.3mg, SO4--:97.6mg(12.10mval%), HCO3-:112.0mg(10.97mval%),
H2SiO3:156.0mg, HBO2:9.1mg,
(平成29年10月12日)

大分県由布市湯布院町川上444-3
0977-85-3105
ホームページ

日帰り入浴9:30〜18:00
800円
ロッカー・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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多摩境天然温泉 森乃彩 (旧「いこいの湯多摩境店」)

2020年10月08日 | 東京都・埼玉県・千葉県
前回記事まで連続して九州の温泉を取り上げていましたが、今回は一旦東京へ戻ります。
私が最も数多く利用した温泉施設である町田市の「いこいの湯多摩境店」は2018年に突如として営業を中止し、その後復活することなく廃業に至ってしまいました。どうやら建物に何らかの問題が発覚し、安全上の理由で営業が続けられなくなったらしいのですが、平素からなるべく東京圏以外の温泉を取り上げている私もこの時ばかりは強い衝撃を受け、「Good bye forever! いこいの湯多摩境店」と題して拙ブログで悲しみの心情を記事に致しました。東京圏では屈指のクオリティを誇る温泉でしたので、是非とも復活してほしいと願い続けていたら、その甲斐があったのか、2019年にブログ読者の方から工事車両が出入りしているという情報が寄せられたため、同年初冬に現地へ行ってその様子を確かめ、「いこいの湯多摩境店に復活の動き」というタイトルで簡単にレポート致しました。
そして、ついに2020年10月1日、「多摩境天然温泉 森乃彩」としてリニューアルオープン!! 居ても立っても居られなくなった私は、さっそく開業4日目の10月4日に出かけてまいりました。


通りに面して建つ看板は、躯体こそ以前のままですが、名前はしっかり新しいものに掛け替えられていました。料金や営業時間が若干変更されたようですね。


駐車場のレイアウトや建物の外観など、いわゆる外見はほとんど以前と変わりありません。


強いて言えば、軒先の暖簾や提灯が新しくなった程度でしょうか。


玄関前に立っている、当地の温泉を「仙水の湯」と称している理由を説明した(どうでもよい)看板も以前のまま・・・かと思いきや、ちゃんと施設名が「森乃彩」に修正されていました。居ぬきのように見えますが、些細な箇所でも手直しするところはちゃんと直しているようです。

さて、旧「いこいの湯多摩境店」時代は東京電力系の不動産子会社が運営を始めた後、運営会社が何度か変わり、そして2018年にクローズへと追い込まれてしまったのですが、リニューアル後の「森乃彩」はよみうりランドが運営することになりました。よみうりランドは稲城市の温泉施設「季乃彩」やよみうりランド内の温浴施設「丘の湯」(非温泉)も運営しており、同社にとっては3箇所目の温浴施設となるわけです。私は今でも稲城「季乃彩」の回数券を購入して定期的に利用していますので、同じよみうりランドが運営していると知っててっきり不愛想、いや、あっさりした接客なのかと覚悟していたのですが、さすがにオープン直後だからかスタッフの皆さんはとても愛想よく対応なさっていました。

外観に大きな変化が無いように、館内も劇的な変化はありません。ただ、いくつかの変更点を確認しましたので、以下列挙致します。特に最後の(9)は私のような温泉マニアにとって非常に重要な変化点です。

(1)下足箱は以前のままだが、鍵にICタグが付けられた。
(2)退館時は自動精算機で支払い。

(1)と(2)は一つのセットとして捉えるべき変更点です。以前は入館時に受付で下足箱の鍵と引き換えに精算用のリストバンドを受け取っていましたが、リニューアル後は下足箱の鍵につけられたICタグで館内サービスの利用料金を管理し、退館時、出入口に新たに設置された自動精算機にICタグをタッチし、精算完了後にプリントアウトされるQRコードを退館用ゲートに読み取らせて退館する、というフローになりました。近年の温浴施設でよく見られる仕組みですね。とはいえ、自動精算機の反応がいまいち遅いうえに2台しかないため、出口では若干の滞りが発生していました。しかも今時珍しくクレジットカード未対応(現金のみ)というのは非常に残念。今後の課題になるかと思います。

(3)2階休憩ゾーンは当世風に改良
説明の順番が前後しますが、近年開業している他の温浴施設と同じようなサービス水準になるよう、2階の休憩ゾーンは大幅に手が加えられていました。具体的には、以前はお座敷だった窓側の空間にはリクライニングソファーがたくさん並べられ、多くの漫画本が本棚に陳列されていました。近年の温浴施設では漫画喫茶的空間を重宝する傾向にありますね。一方で別の部屋をお座敷に変え、これまた近年人気の大きなビーズクッションが用意されていました。さらに、1階にも休憩スペースが設けられていました。以前より休憩スペースが増加し且つ多様化したことは評価すべきかと思います。

(4)男女各浴場に向かう廊下に並行して、渡り廊下状の休憩スペースを新設
受付を過ぎて右に折れると、まず男湯の入口があり、そこから長い廊下を進んだ先に女湯が位置しています。この位置関係は以前と同様なのですが、この廊下に並行する形で窓のない渡り廊下のような板の間が増設され、長いベンチが置かれていました。お風呂上がりに風に吹かれながら涼んで休憩したり待ち合わせするのに丁度良い空間です。

(5)脱衣室は以前のまま
クロスの張替えや備品交換などリニューアルに際してクリーンアップされているものの、ほとんど変わっていません。でもロッカーは完全新品へ取り替えられました。以前より収納庫数が多く、これに伴い嵩も高くなっています。

(6)内湯もほとんど以前のまま
浴場内(内湯)も、私が見た感じではほとんど以前と変わっていないようでした。もちろん水栓などの修理は行われたのでしょうけど(どのシャワーも吐出圧力は良好でした)、特段目に付くような変更点はありません。いや、節穴だらけの私の目には映らなかっただけなのかもしれません。もし現地へ行ってお気づきの点があればご教示ください。

(7)ミストサウナは改装

(画像は公式サイトより拝借)
以前からこの施設のミストサウナでは、ヨモギを当てたスチームが充満している室内で、体に塩を塗り、ヨモギの香りに包まれながらしっかり発汗するサービスが提供されていました。リニューアル後も同様なのですが、その室内がすっかり改修されました。常に高温多湿の状態に置かれる部屋なので傷み方が激しかったのかもしれません。改修されたとはいえ以前同様にヨモギ塩サウナを楽しめますので、これも大きな変化とは言えないかもしれません。

(8)露天風呂はかなり変化

(画像は公式サイトより拝借)
大きな変化が見られない(と思しき)内湯に対し、露天風呂は分かりやすく変貌していました。
浴槽の配置自体は以前のままなのですが、以前の岩風呂「あつ湯」や「檜風呂」に設けられていた屋根が取り払われ、黒く塗られたパーゴラ風の屋根が岩風呂「あつ湯」のみに建てられました。また「檜風呂」が撤去され、その代わりに加水されたぬるめの温泉が注がれる石板張りの「くつろぎ湯」が新設されました。以前は上述のような屋根があったため、多少の雨でも入浴中には凌ぐことができましたが、リニューアル後は屋根が無く、あっても柱と梁しかないパーゴラですから、露天で雨を凌ぐことはできません。その代わり以前よりも開放的になったと言えるでしょう。

(9)泉質などが変化
さて、本記事における重要なポイントへとやってまいりました。
旧「いこいの湯多摩境店」時代の当施設で私が最も気に入っていたのは、施設の良し悪しでもスタッフの対応でもなく、お湯の質そのものでした。当地で湧く温泉は琥珀色を帯びた食塩泉で、モール泉のような特徴も兼ね備えており、芳しい香りを伴うツルスベ浴感が大変気持ちよかったものです。また湧出量が毎分438L、湧出温度が48℃もあったため、加水や加温することない掛け流しのお湯に入ることができました。多摩地区とはいえ都内でこれだけのハイクオリティなお湯を提供している施設は他になく、下手に遠方へ出かけるよりもはるかに良質な湯あみを楽しむことができました。当時の分析表(抄出)は以下の通りです。

ナトリウム-塩化物温泉 48.6℃ pH7.9 438L/min(動力揚湯・1700m掘削) 溶存物質2942mg/Kg 成分総計2957mg/kg、
Na+:1007mg(95.57mval%),
Cl-:1466mg(89.42mval%), Br-:4.3mg, I-:0.8mg, HS-:0.05mg, HCO3-:287.4mg(10.18mval%),
H2SiO3:31.6㎎、HBO2:97.6mg, H2S:痕跡
(平成16年1月27日)

さて、リニューアル&再オープンに際し、改めて分析が行われました。

その数値(こちらも抄出)は以下の通りです。

ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 31.6℃ pH8.24 蒸発残留物0.8457g/kg 成分総計1.016g/kg
Na+:250.9mg(88.77mval%),
Cl-:131.1mg(31.17mval%), Br-:0.1mg, HCO3-:489.9mg(67.65mval%),
H2SiO3:97.9mg, HBO2:2.1mg,
(令和2年3月10日)

まず泉質名が、ナトリウム-塩化物温泉からナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉に変わっています。つまり以前は食塩泉だったものが、今では重曹メインの温泉になったようです。pHが7.9から8.24へと弱アルカリ性に傾いたことも、この泉質変化の影響ではないかと推測されます。そして特筆すべきは湯温と溶けている成分の量。湧出温度が48.6℃から31.6℃へ大幅に低下し、成分総計も2957mgから1016mgへと約3分の1にまで薄まってしまいました(本来ならば溶存物質で比較したいのですが、新データにその記載が無かったため、成分総計で比較しました)。

実際に私が露天風呂に入って実感したことは、お湯の色が以前の紅茶のような琥珀色から黒湯に近い濃い色へ変色した一方、匂いや味がかなり薄くなり、ツルスベ浴感も以前に比べると幾分パワーダウンしたという点です。また、以前は加温しないでも体が真っ赤になるほど熱かった岩風呂「あつ湯」は、以前と同じかけ流しであるもののしっかり加温されていました。源泉温度が31.6℃なので当然ですね。こうした私が実感した質的な変化は、上述の新しい数値によっても裏付けられるでしょう。どのような理由なのかは不明ですが、湯温が下がり薄まってしまったことは事実。営業再開に歓喜しながら露天風呂に浸かったにもかかわらず、このようなお湯の変質を体感した私は、歓喜の感情をどのように持っていったら良いのか複雑な心境になりました。
実はこのような泉質の変化は私も何となく予想していました。というのも、以前の施設が閉館される前から源泉のコンディションにはバラつきがあり、匂いや味がしっかり伝わるときもあれば、妙に薄い日もあったのです。ですからリニューアルに伴って薄くなったのではなく、以前からその現象は既に現れていたものと思われます。となれば、源泉かけ流しの「あつ湯」浴槽も、前施設の晩年においては、非加温を謳っておきながら実は加温されていたのかもしれません。
なぜ温度が下がって薄くなってしまったのか、その理由はわかりませんが、もしかけ流しに拘って長年お湯を汲み上げ続けた結果、地下水が浸入して希釈されてしまったのであれば、運営業者はともかく、無責任にかけ流しを持て囃す私たちユーザーサイドの意識を問い直す必要があるのかもしれません。草津や別府と異なり、東京圏の温泉は石油などと同じ有限の地下資源ですから、汲み上げ続けたらいずれ枯れてしまうのは当然のこと。地球が長い年月をかけて生み出してきた温泉という有限資源を、あっという間に使い果たしてしまうのは、地球に生きる者として無責任と言わざるを得ないでしょう。かけ流しの温泉は確かに気持ちよいのですが、今一度立ち止まってその使い方を考え直すべきなのではないか・・・復活した多摩境の温泉に入り、私はそう反省せずにはいられませんでした。

オープン直後なので混雑しているかと思いきや、意外にも大した混雑は見られませんでした。まだアピール不足なのか、あるいはコロナの影響なのか・・・。現代のニーズに応えるよう館内施設やサービスが新しくなり、またお湯も良質であることには違いありませんので、今後も時間を見つけて利用したいと思っています。リニューアル後も地域の方々から愛される施設になりますよう願うばかりです。


東京都町田市小山ヶ丘1-11-5
042-860-1026
ホームページ

9:00~24:00(受付23:00まで)
3・6・9・12月の第2火曜定休
平日780円・土日祝 930円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤー完備

私の好み:★★+0.5

.
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由布院温泉 加勢の湯(西石松)共同浴場 2019年12月再訪

2020年10月02日 | 大分県
引き続き大分県の温泉を巡ります。前回の大分市から鉄道で内陸へ移動し、全国的に有名な由布院へとやってまいりました。拙ブログでも由布院の温泉は何度か取り上げていますが、今回は数年前からの宿題だった或ることを果たすために、駅前の観光案内所で自転車を借りて某所へと向かったのでした。


その場所とは加勢の湯(西石松)共同温泉です。拙ブログでも2013年に一度取り上げていますが(当時の記事はこちら)、その時には浴槽にお湯が張られておらず、入浴することができなかったのです。そこで今回再び訪ねて入浴を果たしたかったのでした。


昔ながらの共同浴場ですから常に無人。料金箱に湯銭を納め、仏様に合掌してから中へ。


よかった…。今回はしっかりお湯が張られていました。


お湯を汲み上げるベビコンポンプもしっかり稼働音を唸らせており、湯口からは絶え間なくお湯が注がれていました。


前回訪問時には気付かなかったのですが、壁に掛かっていた古い鏡には、「国防地下」(足袋)という文字があってビックリしました。世界長ゴム(現在の世界長ユニオン)の足袋なんでしょうけど、あきらかに戦中か戦前のものですから、75年以上も入浴客の姿を映し続けているのかと推測されます。その間に日本社会は大きく変わっても、湯あみする人の姿はおそらく大して変わっていないはず。


古き良き時代の雰囲気を今に伝える、実に素晴らしい佇まいです。
モルタルの浴槽は2~3人サイズで、浴槽内で女湯側と貫通しています。浴槽に注がれたお湯は縁からしっかりオーバーフローしていました。言わずもがなの完全かけ流し。


湯船には温度計が下げられていました。この時の湯加減はちょっと熱め。それゆえ、お湯の投入量は絞り気味になっていましたが、でも東京の下町の銭湯に比べたら大したことないでしょう。
湯船のお湯は無色透明でほぼ無味無臭。サラサラとした優しいお湯で、多少熱くても気持ちよいので、いつまでも浸かっていたくなります。実際、私は湯船に入ったり出たりを繰り返し、ここに1時間ほど居続けました。お湯が良いのはもちろん、この雰囲気に包まれることに恍惚感を覚えるのです。やっぱり昔ながらの共同浴場はブリリアントですね。


単純温泉 67.7℃ pH8.1 湧出量測定せず(掘削動力揚湯) 溶存物質0.615g/kg 成分総計0.650g/kg
Na+:125.0mg(90.97mval%),
Cl-:66.1mg(29.38mval%), HCO3-:238.0mg(61.61mval%),
H2SiO3:144.0mg, CO2:35.2mg,
(平成31年4月16日)
加温循環消毒なし
加水は多少あるようです

大分県由布市湯布院町川南 

7:00~22:30
100円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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