温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

伊東温泉 鈴伝荘 その2(内湯)

2021年07月28日 | 静岡県
前回記事の続きです。


館内には4つのお風呂があり、いずれも貸し切りで使います。
4つのうち2つは内湯で、大と小がそれぞれ1つずつ。いずれも緋色のカーペットが敷かれた1階の廊下に面しています。

●内湯(大風呂)

まずは内湯の「大風呂」から入ってみます。上述のように貸切で使用しますので、入室の際には札を裏返して「入浴中」を表示し、内鍵をかけておきます。


私はいつものように一人でこちらの宿を利用したため、当然お風呂を貸し切るときも一人で使わせていただくのですが、こんな大きな浴場を独り占めするのは、なんだか申し訳なくなってしまいます。
ひょうたんを半分に割ったような形状をした浴槽は、昭和の面影を色濃く残す豆タイル張りですが、床からの立ち上がり部分には伊豆青石が採用されています。この浴槽には無色透明の自家源泉「傳太郎の湯」が張られており・・・


窓に向かって右側には、サッシの下に穴をあけて貫通させている塩ビ管の湯口があり、こちらからは50℃近い熱めのお湯が注がれています。分析表に記された「傳太郎の湯」の泉質名は単純温泉ですが、しかしながら実際に含まれる成分は硫酸塩泉に近いものがあるため、塩ビ管の下部には硫酸塩の白い析出がしっかりと付着していました。


一方、向かって左側には獅子の湯口が設けられ、こちらからは適温かややぬるめのお湯が供給されていました。2つの湯口から温度差のあるお湯を投入することにより湯船の湯加減を調整しているわけです。源泉の湧出温度は55℃なので、塩ビのお湯は源泉そのままのお湯であるのに対し、獅子の口が吐き出すお湯は冷まされているのですが、こちらの施設では冷ます際に加水など無粋なことはせず、O県B府温泉などでみられる湯雨竹を用いることによって、成分の変動を極力避ける形で湯温だけを下げています。こちらのお湯はとても繊細なタイプの泉質であり、加水や加温など手を加えると源泉の持ち味が台無しになってしまうので、こうした工夫は大変ありがたいのです。温泉に対して造詣が深いご主人ならではの工夫に感謝。お蔭様で実に心地良い温度が維持されており、実際に肩まで湯船に浸かった私は、あまりの気持ち良さについ微睡んでしまいました。

●内湯(小風呂)

内湯にはもう一つ、小さなお風呂もあります。
こちらがその小さなお風呂の入り口です。


小と名がつくだけあって、本当にこぢんまりしたお風呂ですが、むしろ私のような一人客にとってはジャストサイズかもしれません。こちらも大風呂同様に昭和の香りが漂う造りで、大風呂と同じデザインコンセプトなのか、ひょうたんを半分に割ったような形状をした豆タイル張りの浴槽が設けられており、床からの立ち上がり部分に伊豆青石が採用されている点も共通しています。


こちらのお風呂では湯口にも伊豆青石が用いられています。
大きなお風呂同様に、こちらでもこの湯口からは冷まされたお湯が投入されており、一方で熱いお湯は塩ビ管を浴槽底部まで伸ばした上で投入していました。

次回記事では残り2つのお風呂(露天風呂)を取り上げます。

次回に続く。
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伊東温泉 鈴伝荘 その1(客室・朝食)

2021年07月25日 | 静岡県
(2021年4月訪問)


今年(2021年)4月某日、仕事に疲れた私は何も考えず温泉に入りたくなり、以前湯めぐりを趣味とする方から薦めていただいた伊東温泉のとあるお宿へ向かうことにしました。まずは伊豆急行の南伊東駅で下車します。東急東横線のお下がりであるこの電車も、まもなく房総半島を走っていたJR209系電車に置き換わるそうです。この昭和の武骨なステンレス車両が伊豆半島から消える日も時間の問題なんですね。


駅から線路沿いに歩いていると、やがて看板を発見。この看板が立っている角を曲がると・・・


今回の宿泊先である「鈴伝荘」に到着しました。
瓦葺の建物は古風だけどなかなか立派。一見すると民家のようでもあります。


路地を挟んだ向かいの駐車場には小さなポンプ小屋があり、中でこのポンプが動いていました。
源泉なのかしら?


玄関前では「傳太郎の湯」と名付けられた温泉のお湯が流れています。駐車場のポンプで汲んだお湯なのかな。
宿名は「鈴伝荘」ですけど、その中の「伝」は傳太郎さんの伝なのかな。


「傳太郎の湯」モニュメントの反対側では、信楽焼のたぬきがお出迎え。体の正面にぶら下がっているはずの大きな〇玉はつつじで隠されていました。倫理的な事情なのか、あるいは偶々なのか(玉々にあらず)。


玄関でご主人にあいさつし、お部屋へと通されます。今回あてがわれたお部屋は2階の一室。こちらのお宿の客室はみな和室のようです。
説明が遅くなりましたが、湯めぐりの先達はなぜこの宿を薦めてくださったのか、そしてなぜ私が選んだのか・・・。それはコストパフォーマンスが頗る良いからです。宿泊プランは素泊まりか朝食付きかの二択で、朝食付きの場合は1人約6,500円で、時季や人数などによる増減は無く通年定額です。しかも宿にはお風呂が大小合わせて4つあるのですが、そのすべてで自家源泉がかけ流されており、いずれも貸切で利用するのです。お風呂に関しては次回記事で述べてまいります。


和室のお部屋は8畳だったかと思います。安いからといって備品に手抜かりなく、ちゃんとテレビなどは用意され、Wifiも使えます(私の部屋は若干弱かったかも)。


窓の外にはお庭が広がり、藤棚ではちょうどの藤の花が咲いていました。


トイレや洗面所など水回りは共用です。この共用部に置かれたウォーターサーバーの水やお湯、お茶、コーヒーは無料サービスで、冷蔵庫も自由に使えます。小型冷蔵ケースに入っている缶ビールは、セルフで代金を納めて各自で取り出します。


朝食は1階の大広間でいただきます。お安い宿ですが朝食は見た目も中身もしっかり作られており、伊豆名物のアジの干物も、籠の中に収められた小鉢の各料理も大変美味。これであのお値段だとは信じられません。

さて、次回記事では館内に4つあるにお風呂について見ていきましょう。

次回へ続く



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箱根湯本温泉 吉池旅館(日帰り入浴)

2021年07月16日 | 神奈川県
(2020年9月訪問)

「名物に旨い物なし」という言葉に反し、有名温泉地には名湯が多いのですが、必ずしも全部が名湯というわけではなく、そもそも施設数が多く、お湯を大切にしていない施設も存在するため、きちんと狙いを定めて訪問しないとハズレに遭遇してしまいます。このため温泉についても「名物に旨い物なし」的な印象が生まれてしまいがちです。

関東屈指の温泉観光地である箱根の箱根湯本には、皆様ご存じの通り、老舗旅館や大規模ホテルまで、多種多様の温泉施設が営業していますが、この箱根湯本も施設数の多さ故、素晴らしいお湯に出会えるか否かは、事前の下調べがモノを言う典型的な有名温泉地と言えましょう。私がまだ温泉に対する造詣が深くなかった学生時代、箱根湯本で何回か宿泊したことがあるのですが、その時の悪い印象が強かったため、温泉巡りをするようになってからも、箱根にはあまり興味を示しませんでした。しかし温泉マニアの先達の情報を見ているうちに箱根でも素晴らしいお湯に出会えることがわかり、その後は足繫く数え切れないほど箱根へ通っております。

さて、今回取り上げるのは箱根湯本の有名旅館「吉池旅館」です。東京の下町にお住まいの方ならば、吉池と言えば御徒町を連想するかと思いますが、あの吉池が箱根で旅館を経営しているのです。昭和の東京で生まれた私にとって、吉池と言えば御徒町駅前のゴチャっとした食料品店を思い浮かべますし、また同じく御徒町には同系列の古いビジネスホテルもあって、思いっきり昭和な商いをする古いイメージがあるのですが、後述するように箱根の「吉池旅館」は御徒町に漂う雑多な昭和臭が全くしない、ラグジュアリー感のある旅館であり、且つ温泉を大切に扱う素晴らしい温泉施設なのです。上野(御徒町)エリアに拠点を置きながら関東の外縁部で温泉旅館を経営するという意味で、吉池と聚楽は似た者同士ですね。ついでに言及すると、吉池も聚楽も創業者が越後出身という共通点も有しています。


箱根湯本の土産物商店街から「湯本橋」で早川を渡って温泉場の方へ入り、しばらく歩くとすぐにたどり着きます。
威風堂々とした構えのこの旅館は昭和16年創業の大きな老舗旅館で、元々は三菱財閥岩崎家の別荘だった土地を旅館にしたもの。1万坪の敷地には回遊式の庭園が設えられ、園内には須雲川から水を引いてせせらぎが作られ、また大きな池ではたくさんの鯉が泳いでいます。


立派なエントランスの前には、御徒町の本店と同じ字体で「吉池」と書かれた看板が立っています。余計な知識が無けりゃこの看板に引っかかることは無いのでしょうけど、私にとってこの字体は御徒町の雑然とした街並みと直結しているため、この文字が箱根の温泉旅館を示しているという事実に対して違和感を覚えずにはいられません。ま、どうでも良いことなのですが…。


ラグジュアリ感溢れるロビーからは、岩崎家の別荘だった庭園を眺められます。このロビーにいるだけでも実に雅やかな気分です。大抵この手の立派な旅館は日帰り入浴を受け付けないのですが、「吉池旅館」はありがたいことに、日帰り入浴を積極的に受け入れています。フロントで日帰り入浴したい旨を告げ、日帰り入浴にしては少々高めの料金を支払いますと、スタッフの方から小さい紙に名前や連絡先を記入するよう求められました。コロナ対策なのでしょうか。あるいは宿帳のように日帰り入浴利用者をしっかり記録しているのでしょうか。

ロビーから奥へ伸びる廊下を歩き、2階から1フロア上がって3階へ進み、更に廊下で奥へ奥へとどんどん進んでゆくと、やがて浴場ゾーンに到達します。この廊下の長さだけでも、いかに吉池旅館の敷地が広いかを実感できるでしょう。


男女暖簾の手前には休憩兼待合の空間があり、ドリンクサービスを提供するスタンドが設けられています。またこの空間が男女別の浴場や貸切風呂、露天風呂、そして屋外プールなど各施設へつながるハブにもなっています。さらにはこの空間には温泉掘削のボーリングピットが展示されていたり・・・


当旅館の湯使いに関する説明プレートが掲示されています。この説明によれば「お風呂は全て自然流下方式かけ流し温泉」であり「新鮮な温泉を適温でお楽しみ頂く為に工夫を」施したんだそうです。またこの図によればサイフォンの原理によりお湯を屋外へ排出しているようです。循環しないかけ流しの温泉に入れるのですね。実に楽しみです。


空調が完備された脱衣室は、綺麗でよく整備されており、とても気持ちよく使えます。また意図的に薄暗くすることで落ち着いた雰囲気を演出しているようです。確かにシックで良い感じなのですが、本当に暗めなので視力弱い人にはちょっとツラいかもしれません。なお室内のロッカーは鍵付きです。


浴場内の写真は公式サイトから拝借しました。私個人の感想を老婆心ながら申し上げますと、公式サイトで紹介されているこの写真は浴場内の開放感や明るさなどが伝わりにくいので、できれば別の写真に差し替えた方が良いのではないかと思っております。
それはさておき、男湯の内湯は元々植物園だったらしく、天井が高くて観葉植物も植わっており、とっても開放感且つボタニカルな雰囲気です。洗い場は2ヶ所に分かれており、また右手には小さな洞窟風呂があります。中央に位置する主浴槽は非常に大きく、パッと見た感じですと40~50人は余裕で入れるかと思います。開放感のある空間に大きいお風呂という組み合わせは非日常を楽しむ上でとても効果的に働く要素ですね。この浴槽内には伊豆青石のような色合いのタイルが張られており、浴槽内のステップには実際に伊豆青石が採用されています。また縁には木材が用いられています。

この浴槽は途中で深くなっており、手前側は一般的な深さですが、奥は立ち湯に丁度良い深さになっています。そして最奥の岩積みから熱めの温泉が滝のように落とされ、浴槽のお湯を満たしています(このお湯は熱いので打たせ湯は厳しいかも)。この熱い湯の滝が落ちている影響か、深い立ち湯ゾーンの方が僅かに熱いように感じられたのですが、でも全体的には湯加減が均等に調整されていますので、滝以外にも浴槽内に供給口があるのでしょう。
上述で述べたように、浴槽のお湯はオーバーフローせず、槽内の穴からサイフォンの原理によって排出されています。
加温加水循環消毒の無い完全かけ流しの素晴らしいお湯です。


男湯の露天風呂は一旦着衣してホールへ戻り、別のドアから屋外へ出ることになります。綺麗で使い勝手が良かった内湯の脱衣室とは対照的に、露天の脱衣所は至ってシンプル。棚に籠が置いてあるだけです。またロッカーやドライヤーなどの備品も無いため、私は貴重日や荷物などは内湯のロッカーへ収めたままにし、露天では着替えるだけにしました。
更には、露天風呂の入浴ゾーンには洗い場も設けられていないので、あらかじめ内湯で体を綺麗に洗っておく必要があります。つまりこの露天風呂は内湯の利用を前提としているのでしょう。
旧岩崎家庭園に融合している露天の岩風呂は、一部に屋根が掛かっているものの大変開放的であり、すぐ目の前を庭園のせせらぎが流れていて、実に良い雰囲気です。時間を忘れてじっくり浸かっていたくなります。湯加減もちょうど良く、しかも完全かけながしの湯使いなんですから、文句の付けようがありません。

ちなみに、今回利用できなかった女湯は、内湯・露天とも浴槽が2つずつあり、しかも内湯は御影石と総檜の浴槽が設けられているんだとか。

さて、お湯に関するインプレッションですが、こちらの施設では6つの源泉をミックスして各浴槽へ供給しており、そのうち1つは庭園内で湧出する自家源泉(湯本第12号)なんだそうです。6源泉をあわせた合計湯量は毎分720L。その豊富な湯量を活かして全てのお風呂で完全かけ流しの湯使いを実現しています。また源泉温度が高いため、加水せずに温度調整しているそうです。お湯の見た目は無色透明ですが、含む塩化土類・食塩泉という泉質名とは裏腹に石膏感と芒硝感を有し、少々トロミや引っかかる浴感が得られます。源泉にも依りますけど、箱根湯本のお湯は循環させたり加水しちゃうと水道の沸かし湯と区別がつかなくなりますが、本来は無色透明の硫酸塩泉的な特徴を示すことが多く、こちらのお湯もそうした特徴を有する典型例といって良いでしょう。お湯の個性がはっきり表れている上、湯使いも鮮度感も良く、大変素晴らしいお風呂です。おすすめ。


ちなみに上述の休憩兼待合の空間には2室の貸切風呂が面しており、日帰り入浴でも予約なしで利用することが可能です。訪問時は1室が空いていたので、ちょっと拝見させていただきました。家族やカップル等で利用するにはちょうど良いか寧ろゆとりがある規模感で、且つとても綺麗に維持されており、当然ながらお風呂はかけ流しの温泉が供給されていま。こんな立派なお風呂も利用できるのですから有難いですね。


お風呂上りに旧岩崎家別荘の庭園を散策させていただきました。


須雲川から引水した川が庭園寧を流れ、錦鯉が悠然と泳ぐ大きな池へと流れ込んでいます。


せせらぎの音を聞きながら奥の方へ進んでゆくと、一軒の立派な木造建築があり・・・


説明によれば国の登録有形文化財「旧岩崎弥之助邸別邸和館」で、1904年(明治37年)に建築されたんだそうです。


実に素晴らしい庭園ですので、こちらへ訪問の際は是非散策してみてください。


湯本第12・72・84・89・99・112号混合泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 63.4℃ pH8.1 成分総計3212mg/kg
Na+:750mg, Ca++:339mg,
Cl-:1570mg, SO4--:347mg, HCO3-:48.8mg, CO3--:6.0mg,
H2SiO3:77.8mg, HBO2:40.4mg,
(平成25年1月9日)
加水加温循環消毒なし

神奈川県足柄下郡箱根町湯本597
0460-85-5711
ホームページ

日帰り入浴13:00~22:00(最終受付20:00)
2,250円(入湯税込み)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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川崎市川崎区 朝日湯源泉ゆいる

2021年07月09日 | 神奈川県
前回記事に続いて、東京界隈で開業したばかりの温泉施設を取り上げます。
今回ご紹介するのは、2021年3月にオープンした川崎市川崎区の「朝日湯源泉ゆいる」です。私は開業した同じ月の下旬に訪問しました。前回記事では「新規開業やプレオープンなどという言葉にあまり心が躍ら」ないと豪語しちゃいましたが、昨年も今年も新規開業の温泉施設を何軒も訪問していますので、なんだかんだ言って所詮はミーハーな人間なのかもしれません。


まずは尻手駅から南武線浜川崎支線に乗車します。川崎から立川を結ぶ南武線は、データイムの場合で1時間に各停6本と快速2本が運転されていますが、尻手と浜川崎の間を2両編成の電車が行き来する浜川崎支線は、大都市圏にもかかわらず、1時間に2本程度しか運転されないので大変不便。川崎市臨港地区の貴重な公共交通機関であるはずですが、あまりに不便なため、このエリアの方はほとんどが川崎駅から路線バスを利用しています。この記事の後半でお伝えしますが、今回取り上げる「朝日湯源泉ゆいる」へ公共交通機関でアクセスする場合も、実は川崎駅から路線バスを利用した方がはるかに便利です。


週末の日中だからか、2両編成だというのに車内はガラガラ。その一方で、乗客の絶対数が少ないにもかかわらず、昼間から車内で缶酎ハイを飲む乗客が複数名いらっしゃり(しかも男女問わず)、この地域のカラーが良く現れているように思います。全線乗り通しても10分かからないのに、それすら我慢できずにアルコールを口にしてしまうのですから、余程なんでしょうね。そんな左党に驚きながら、車窓に工場が広がり、貨物用の線路が輻輳し始めると、終点浜川崎駅に到着。


浜川崎駅からあまり雰囲気の良くない歩道を進んで貨物線を潜り、バスの車庫を左に見ながら、産業道路を横断して、広い道をしばらく歩くと、今回の目的地「朝日湯源泉ゆいる」に到着です。


以前は臨港地区の住宅街で営業する一軒の銭湯でしたが、一旦閉館した後、川崎区では初となる大深度掘削により温泉を掘り当てて、温泉入浴施設としてリニューアルオープンしたんだそうです。


リニューアルした朝日湯は、以前のような地域庶民の生活に根差す銭湯というより、温泉やサウナで体を温めながら館内でゆっくり過ごすことを目的としたリラクゼーション施設と称すべき営業スタイルへ変貌しています。それゆえ、料金設定は物価統制令に依らない少々高めの設定となっており、それを知らずにいきなり訪ねると、その料金設定に面食らうかもしれません。

まず館内に入り、下駄箱の鍵をフロントに預けます。番台ではなくフロントというカタカナ表記が相応しい雰囲気です。下駄箱の鍵と引き換えに、精算用バーコードが付いたロッカーキーと、大小1枚ずつのレンタルタオルを受け取ります。なお館内着の用意もあるのですが、こちらは別料金です。

1階にはフロントとレストランが設けられています。上画像はレストランの様子。お風呂上がりに館内着姿でビールを飲みながら寛ぐお客さんの姿も見られました。銭湯らしくないその光景から察するに、早くも施設側の目論見通りに利用されているようです。


浴場は2階ですので、エレベーターか階段で2階に上がります。玄関から2階浴場まで真新しい館内を進んでいると、限られたスペースを上手く工夫しながら各設備を配置しているような印象を受けました。
脱衣室にはロッカーがたくさん設けられており、しかも一つ一つのロッカーは縦長なので容量が比較的大きく使いやすいかと思います。またドライヤーもたくさん用意されているので、他人が終わるのを待つことなく髪を乾かすことができるでしょう。
新しいだけあってどこもかしこもピカピカでしたが、スタッフの方がこまめに清掃していらっしゃるので、その新しい輝きに磨きをかけているようでした。

なお建物は3階建てで、3階には休憩ゾーンが設けられており、近年のスーパー銭湯と同様に漫画の蔵書多く、お座敷でみなさん横になっていました。

浴場の様子については、文章のみで説明させていただきます。また、私が実際に利用した男湯の説明となります。
悪しからずご了承ください。

お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。脱衣室から浴室に入り、サウナ、そして垢擦りルームの間を抜けると、右手に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付きカランが11基並んでおり、さすがに新しい施設なのでシャワーからの吐出圧力は良好でした。なお洗い場に用意されているアメニティ類は、「アロマドール(ダージリンティー)」という名前の、良い香りがするちょっとクオリティの高そうなものでした。

洗い場の向かいには、区内初の大深度掘削により揚湯した温泉を張る主浴槽(温泉風呂)が据えられています。大きなL字形をしたタイル張りで、湯加減はぬるめにセッティングされており、私の体感で38~40℃だったように記憶しています。後述しますが、こちらのお湯は非常に塩辛いタイプの食塩泉であり、一般的な湯加減にしてしまうとすぐ逆上せてしまうため、このようにぬるめに調整してくれると、体への負担を重くすることなく湯あみできるんです。長湯仕様のおかげで実に心地良く入浴できました。

この温泉浴槽で面白いのは、10~15分ごとに湯口から非加温の生源泉と思しきお湯を投入していることです。浴槽のお湯は加温循環されているのですが、これだけではなく、間欠的に源泉と思われるお湯を投入し、お湯の鮮度を向上させているのです。分析表によれば湧出時のお湯は35℃だそうですから、そのまま湯口まで導かれたらそこそこの温度が維持されているはずですが、メタンガスを多く含む東京湾岸の化石海水型温泉ですからどうしてもガス抜きを行わなければならず、またお湯の量も限られているために一旦貯湯槽でストックする必要があり、湯口から出てくる源泉(と思しきお湯)は水道水並みに冷たいものでした。でも、浴槽内では循環された熱い加温湯が投入されているわけで、この非加温湯の投入により上述のような入りやすいぬるめの湯加減になっているのでした。

主浴槽の隣にある3人サイズの小浴槽には熱い温泉が張られており、私の体感で43℃前後だったかと思うのですが、こちらにも主浴槽と同じく間歇的に非加温の源泉が投入されていました。
なお、露天風呂は無いものの「外気浴」と称する小さな空間が設けられており、鎧戸越しに入ってくる外気をデッキチェアーで横になりながら全身に受け、これによってクールダウンを図ります。この空間には天井扇風機が回っており、外気によるクールダウンを補助していました。

こちらのお風呂で、実は温泉以上にプッシュしているのではないかと思われたのがサウナです。一見すると普通のこじんまりしたサウナなのですが、定時にロウリュウのサービスが実施され、ちょうど私が入浴した時もその実施時間がやってきて、浴室内のおじさんやお兄さんたちが「待ってました」と言わんばかりに続々とサウナへ入っていったのでした。

またサウナに関連してこの施設の特徴のひとつになっているのがサウナの隣にある水風呂です。施設側の説明によると、何と関東地方で最も深い水風呂なんだそうで、実際に入ってみますと、身長165cmの私が完全に沈んでしまうほど深く、しかも井戸水を使っているのでとっても冷たいのです。冷たいので回転が早く、皆さん早々に出ていきます。深いので溺れないよう注意してくださいね。この水風呂は上述の外気浴と並んでクールダウンに役立つ施設であり、ロウリュウが人気なサウナで熱くなったり、あるいは強食塩泉のお風呂で逆上せかかった体を、こうしたクールダウン設備によってしっかり冷ますことができるのは有難いところです。

更に面白いのが、水風呂と温泉風呂の間に挟まれた炭酸風呂。最近は多くのスーパー銭湯でも炭酸風呂を見かけますが、こちらのはひと味違うのです。と申しますのも、6~7人サイズの浴槽に張られた真湯に炭酸ガスが溶かされているのですが、炭酸ガスが溶けやすいようお湯がかなりぬるめにセッティングされており、その温度を活かしているのか、炭酸の濃度がかなり濃いのです。他の施設ではなかなかお目に掛かれない濃さの炭酸であり、実際に入ってみますと、忽ち全身が泡だらけになり、肌の表面でパチパチ弾けるのでした。

さて肝心のお湯に関するインプレッションについて述べましょう。間歇的に湯口から吐出される非加温の生源泉と思しきお湯は無色透明に見えますが、浴槽のお湯は薄く緑色を帯びた暗めの黄色で、例えて表現すれば濃く淹れたジャスミンティーみたいな色をしています。分析表によれば、ヨウ素や臭素が相当多く含まれているはずなのですが、しっかり抜いているのか、あるいは私が鈍感だからか、あまり感じられませんでした。またこの手の化石海水には鉄分などの金気も多く多く含まれているはずですが、やはりあまり伝わってきませんでした。ストックの段階でしっかり取り除かれているのでしょうか。でも非常に塩辛く、食塩泉らしいツルスベの滑らか浴感もしっかり肌に伝わってきます。また、強食塩泉ですから、たとえぬるいお湯に浸かっていても、パワフルどころか凶暴なまでに温浴効果が発揮され、湯上がり後は汗がいつまでも引きませんでした。あまり温泉に長湯せず、適度に水風呂へ入るなどクールダウンを図りつつ、お風呂から上がるときには上がり湯を掛けるなどして、しっかり火照り対策をとりましょう。


退館時、フロントでバーコード付きリストバンドキーを返却し、利用料金を精算します。支払いにはクレジットカードが使えます。建物から出て、裏手の駐車場を覗いてみると、そのの一角に源泉施設と思しきものがありました。京浜地区の温泉・鉱泉といえば黒湯が有名ですが、当然ながら目の前には東京湾が広がっており、地下深くには古東京湾の化石海水が眠っているわけですから、深く掘削すれば高確率でこのような強食塩泉が湧出するのでしょうね。


そういえば、退館時に、ロッカーの番号がその日の抽選番号と同じ(つまり抽選に当たった)ということで、上画像の手拭いをいただき、施設の方と記念撮影しちゃいました。どうやら施設のツイッターアカウントでその写真が掲載されたようです。興味がある方はご覧あれ(3月下旬の投稿かと思います)。


冒頭で路線バスの方がはるかに便利と申し上げました。この施設の目の前には「川24系統」の「臨港中学校前」バス停があるんです。川崎駅から出る「川24系統」のバスは本数が多いので、私のように南武線浜川崎支線ではなく、路線バスの利用を強くおすすめします。


川崎朝日湯温泉
含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉 35.0℃ pH7.44 蒸発残留物25.86g/kg 成分総計25.80g/kg
Na+:8825.0mg, NH4+:101.3mg, Mg++:218.0mg, Ca++:400.0mg, Fe++:9.5mg,
Cl-:15250.0mg, Br-:70.1mg, I-:23.6mg, HCO3-:458.2mg,
H2SiO3:137.6mg, HBO2:10.5mg, CO2:21.6mg,
(平成29年4月26日)
加水あり(温泉供給量が不足した場合)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環あり(衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため)

川崎市川崎区鋼管通3-1-2
044-333-4126
ホームページ

10:00~23:00(受付終了22:00) 毎週水曜定休
平日1540円(5時間) 土休日1760円(5時間) (別途入湯税150円)
料金にはレンタルタオル(大小1枚ずつ)が含まれています

私の好み:★★
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吉川市 アクアイグニス武蔵野温泉

2021年07月01日 | 東京都・埼玉県・千葉県

皆さん、初物はお好きですか。
私は普段からさほど初物に特段の関心を持たず、たしかに新米やら新茶はとても美味しいので大好きですが、例えばカツオは初鰹より脂の乗っている戻りガツオの方が断然好きですし、初茄子や初茸などにも興味はありません。そもそも食い意地が人一倍張っているので、初物だろうが何だろうが兎に角美味けりゃ何だって良いのです。丘を歩くダボハゼみたいなもんです。
施設の場合も似たようなもので、若い頃から新規開業のお店や複合施設に関心を持たず、いや若干興味はあるものの、生来のへそ曲りが災いして意図的に関心を持たないようにし、場合によっては口先で貶してみたりしながら、しばらく月日が経ち世間の関心がある程度落ち着いたところで「どれどれ、どんなところか行ってみるか」と重い腰を起こしてようやく訪問するに至ります。温泉の場合も然りで、新規開業やプレオープンなどという言葉にあまり心が躍らず、ある程度時間が経って、湯使いや施設の良し悪し等の情報がネット上で散見されるようになった段階で、タイミングが合えば行こうかな、といった心情になるのです。このため私は新しい温泉施設とあまりご縁が無いのですが、そもそも、普段から情報を得るためのアンテナを張っていないので、新規開業の情報自体が入って来ず、自分からご縁を遠ざけている嫌いすらあるわけです。

前置きが長くなりましたが、こんな面倒臭い性格をしている私が、今回偶然或る温泉の新規開業情報を得て、すぐさま行ってみたくなり、開業の翌週、実際に訪問してまいりました。その温泉とは「アクアイグニス武蔵野温泉」。今年(2021年)6月12日に埼玉県吉川市で開業したばかりです。なぜ普段は新規開業に興味を示さない私が行ってみたくなったのか。なぜ好奇心が天邪鬼に勝ったのか。その理由は「アクアイグニス」だからに他なりません。

以前拙ブログで三重県湯の山温泉の手前に位置する片岡温泉「アクアイグニス」を取り上げたことがありました。私は旧片岡温泉の頃からこの温泉が好きで、その後大規模リニューアルを果たして農・食・湯の小洒落たリゾート施設「アクアイグニス」となってからは、お湯は勿論のこと、雰囲気やコンセプトが益々気に入り、中京圏屈指のおすすめ温泉として屡々推奨させていただいています。
その「アクアイグニス」が何と我が関東地方へ進出するというのですから、是非とも自分の目と肌で確かめてみたくなり、開業間もないタイミングで訪問することにしたのです。

場所は「イオンタウン吉川美南」の一角。イオンの一部施設と知って若干の不安を覚えましたが、とにかく行ってみなけりゃ分からない。複数の河川や用水路が縦横に流れ、田んぼや畑の中に倉庫や住宅がモザイク状に点在する、どこまでも真っ平らな荒川利根川の氾濫原を車で走ってゆくと、やがて典型的な新興住宅地に入り「イオンタウン吉川美南」
に到着しました。目的の「アクアイグニス武蔵野温泉」があるのはイオンタウンの東端ですので、駅改札に近い中央の駐車場ではなく、家電量販店などをぐるっと回って東側の駐車場を目指します。


駐車場の建物には大きく「AQUAIGNIS」と表示されているのですが、イオンタウンの駐車場も兼ねているため場内にはたくさんの車が止まっていました。なお私が訪問した6月下旬時点で駐車場は無料だったのですが、7月からは有料となるようです。温泉利用客の割引などについては施設へお問い合わせください。


三重県の「アクアイグニス」では著名パティシエ辻口博啓のパティスリーがありますが、吉川美南ではやはり同氏が手がけるショコラトリーが新設されました。温泉が含まれる棟の1階には上画像のような大きなショコラトリーが幅を利かせており、もしかしたら温泉よりもはるかに目立っているかもしれません。


2階には同ショコラトリーのイートインコーナーが設けられ、多くの方がスイーツとドリンクを楽しみながら寛いでいらっしゃいました。ほとんどのお客さんは同じ棟にある温泉とは無縁かと思われます。


この2階には、他にも複数の店舗が連なっています。上画像はベーカリーで、アクアイグニスに入っているベーカリーと同じ名称です。比較的大きな店舗で、店内で焼き上げている他、イートインスペースも広く確保されています。余談ですが、店舗前に飾られていた開店祝いのお花を見ると、仙台銀行などなぜか宮城県の企業の名前が目立っていたようです。


2階をぐるっと回ったところ、ベーカリーのほか、イタリアンや中華、そして回転寿司の「金沢まいもん寿司」などが入っていることを確認しました。イタリアンのお店「イル・ケェッチァーノ」は三重県の本家「アクアイグニス」と同じである一方、中華料理や「金沢まいもん寿司」は三重県の本家にはありません。温泉棟に入るこうした飲食店は、無論三重県の本家「アクアイグニス」と合わせている面もあるのですが、ただ単に同じ建物で営業しているわけではなく、ちょっとした意図があって温泉棟で営業しているんですね。この点については後述します。

さて、館内をぐるっと回ったのですが、目立つのは飲食関係ばかりで、肝心の温泉の入口がちっとも見つからない。
どこから入れば良いのかしら?


一旦建物から1階屋外へ出てみますと、2階へ上がる屋外エスカレーターの左下に、小さな入口を発見。温泉の存在を示すようなわかりやすい看板が全くないのですが・・・


この小さな入口を入ると、壁にはアクアイグニスのロゴが掲示されていました。どうやらここが温泉入口で間違いないようです。それにしても、なぜ分かりにくい入口にしたのかしら。難解である方が上品で洒落ているという発想なのかしら。


下駄箱のリストバンドに鍵とバーコードが付いており、このリストバンドで入館料金や館内で利用するサービスや物販の精算管理を行います。
まず受付で利用プランやレンタル品使用の有無を申し出ます。後述しますが、浴場内にはサウナが無く、もし利用したい場合は別途料金且つ予約制のミネラルミスト浴(しかも4,000円!!)がその代わりになりますので、どうしても体を蒸したい方は、入館時に受付で利用を申し出る必要があります。私はサウナがあっても無くてもどっちでも良いので、今回ミネラルミスト浴は利用していません。

受付前には物販コーナーがあり、三重県の本家と同じような、小洒落た雑貨や食材等が売られていました。


受付や物販コーナーを抜けると、奥に長い休憩スペースが設けられています。内装コンセプトは三重県の本家に近づけているように思われます。一方、三重県の本家にはビーズクッションがたくさん用意された広い休憩スペースが確保されていますが、さすがにこちらは広くなく、クッションも固めで、大勢が横になれるような感じではありません。


浴場入口は休憩スペースの目の前です。


こちらは館内図。細い線と最小限の文字、ピクトグラムだけで図示されたデザイン性重視の平面図なので、具体的な情報はあまり得られませんが、大体のレイアウトはわかるかと思います。


更衣室には温泉に関する説明プレートが掲示されていました。曰く、この温泉は地下1500mから湧出する天然温泉であり、泉質は「含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉」で、冷え性や疲労回復、健康増進に効果があるとのこと。私なりに表現しますと、古東京湾の置き土産ともいうべき化石海水型温泉の典型例であり、黄土色に強く濁る塩辛いお湯で、埼玉県東部や千葉県東葛地域など、荒川や江戸川流域の氾濫原で営業するスーパー銭湯で汲み上げられていることが多いタイプの温泉です。


(画像は公式サイトから拝借)
公式サイトから拝借した上画像は日没後の女湯内湯を撮ったものかと思います。落ち着いた雰囲気の浴場に入ると、まず掛け湯の小さな甕が置かれており、その左右に洗い場が配置されています。男湯の場合は右側に、女湯は左側にそれぞれ長く洗い場が伸びており、シャワー付きカランが計17基(いや、もうちょっとあったかな)ズラリと並んでいます。なお、シャワーの前に置かれているアメニティ類(辻口茶園のシャンプー等)や、白い腰掛・風呂桶などは、三重県の本家「アクアイグニス」で使われているものと同じです。

内湯に設けられている浴槽は、源泉風呂、温泉浴槽、非温泉浴槽の3種類。
非温泉槽は3つの浴槽のうち最も大きく、ややぬるめで透明なお湯が張られています。ここで使われているお湯は、どうやら独特の機器を用いることで真湯に何かしらの効果を与えているらしいのですが、実際に入ってみたところ塩素臭がとても強く、あまり長湯したくなるようなお湯ではありませんでした。

一方、注目すべきは「源泉風呂」。他の浴槽よりちょっと高い位置に設けられた6~7人サイズの浴槽で、その名の通り、源泉から汲み上げられた温泉が掛け流しかそれに近い状態の湯使いで提供されているのです。多少温度調整されているようですが、加水は行われておらず、源泉から湧出した濃くて熱いままの温泉が供給されています。
上述したように、当地のような埼玉県東部で汲み上げられる温泉は、大体が古東京湾の化石海水であり、黄土色に濃く濁り、塩辛くて、メタンガスを伴い金気臭やヨード臭を強く放つという共通点を有します。もっとも、入浴に供される時点でメタンガスは曝気されるのですが、こちらの温泉もまさにその共通する特徴がはっきりと見られ、とても濃厚な食塩泉の濁り湯に入浴できます。ただ、近隣の化石海水型温泉に比べるとやや金気の味や匂いが弱いような気がしました。武蔵野線で吉川美南駅のひとつ隣にある新三郷駅から徒歩圏内にあるご近所の「早稲田温泉めぐみの湯」とほぼ同じタイプと言っても差し支えないでしょう。

窓に面する温泉槽は源泉浴槽より低い位置にあり、非温泉槽の次に大きなもので、源泉浴槽から流れ落ちる温泉を受けつつ、循環したお湯も併用して使っているようでした。そのためか、濁り方やお湯から受けるパワーが源泉風呂より若干マイルドなのですが、それでも十分強食塩泉らしい浴感を得ることができました。


(画像は公式サイトから拝借)
こちらも公式サイトから拝借した画像で、やはり女湯の露天を撮ったものかと思います。露天の主浴槽には屋根が掛かっており、大きなサイズの浴槽に温泉が張られているのですが、こちらはしっかり循環ろ過されており、塩辛いものの透明度が高く、内湯の源泉風呂よりはるかに薄い感じがします。また、露天の主浴槽からちょっと離れたところに寝ころび湯があり、こちらにも温泉が使われているのですが、同じく循環ろ過されて薄められた状態でした。
火山の麓の温泉と異なり、平野部の温泉は化石資源と同様に有限であり、且つ地盤沈下も考慮すべきであるため、無闇に汲み上げずに節約しながら有効活用しなければなりませんから、お湯を循環ろ過させることはやむを得ません。個人的にこの露天で残念なところは、外壁のすぐそばに電柱が立ち電線が架かっている点です。せっかくデザイナーさんが頭を捻って考え上げたおしゃれな露天風呂も、目の前の電線と電柱が艶消ししてしまい、下手すりゃその辺りのスーパー銭湯と大して変わらないんじゃないか、と思わせてしまう気配すら漂っていました。

また、私は全く気にならないのですが、浴場内にサウナが全くない点も、一部の利用者からは残念に思われるところでしょう。上述のように、この施設でサウナ的なものに入りたければ、別料金で予約制のミネラルミスト浴を利用することになりますが、料金がかなり高いため(4,000円)に二の足を踏んでしまうお客さんが多いのではないでしょうか。なお、サウナが無いということは水風呂もありません。パワフルどころか強烈に温まり、肌にべたつきも生じ、場合によっては体力を奪ってしまう強食塩泉ですので、夏季の湯上り時には温泉から水風呂を経由して更衣室へ向かいたいものですが、これができないため、私は温泉浴槽から上がった後に、シャワーで水を浴び続けました。それでもお風呂あがりには若干の疲れを感じましたので、やはりサウナは無くても水風呂は欲しいところです。

なお三重県の本家「アクアイグニス」の温泉(片岡温泉)は体に優しいアルカリ性単純泉。全浴槽でふんだんにかけ流されています。塩辛くて体へ影響が大きい吉川美南の強温泉とは正反対なんですよね。


さて、風呂上がりにお腹が空いたのでお食事をいただくことにしました。上述の休憩スペースの奥に飲食ゾーンが広がっており、同じ棟の2階で営業する「金沢まいもん寿司」の海鮮ものの食事やショコラートのスイーツなどがいただけます。価格帯は一般的なスーパー銭湯の食堂より高いものの、味はかなり良く、私がいただいたサーモンといくらの丼もスーパー銭湯とは思えない味でした(特にネタもさることながら舎利が美味しかったなぁ)。
落ち着く洒落た空間の中でお湯の癒しと食の楽しみを融合させるというコンセプトは、本家「アクアイグニス」にも通じており、これによって近隣の同業他店と差別化を図っていると解釈すべきなのでしょうね。



そんな屁理屈を考えながら呑気にモグモグ食べていたところ、テレビカメラが近寄ってくるではありませんか。どうやら夕方のニュース番組(関東ローカル)でこの温泉施設が取り上げられるとのことで、実際に海鮮丼を頬張っていた私たちに白羽の矢が立ち、食事についてのコメントを求められられたのでした。私は温泉について熱弁を奮ったのですが、テレビ局としては2階の人気レストランと1階のお風呂がつながっている特殊な構造に重きを置いているらしく、食事の質問ばかり繰り返され、結果的に食事を高評価しながらモリモリ食べる食い意地張った中年のオッサンが翌日のテレビ画面に映ったのでした。


入浴料金や館内の各種サービス利用料金は、退館時に一括精算します。出口ゲートの傍には青い光を放つ自動精算機が1台だけ稼働していたのですが、現金しか対応していないとのことで、クレジットカード決済を希望する多くのお客さんは有人カウンターで列をなすはめに。


帰り際、施設の向かいの空き地でたまたま源泉施設と思しきものを見つけました。
おそらくここからお湯が引かれているのでしょう。
そういえば施設名は「アクアイグニス武蔵野温泉」ですが、この場所で武蔵野を名乗るのはちょっと違和感を覚えます。たしかに旧武蔵国のエリア内ですし、目の前を武蔵野線の電車が走っていますが、武蔵野を名乗れる範囲は、北は川越、東はせいぜい荒川流域の千住辺りまでではないかと思います。ま、別に問題なく入浴できるので良いんですけどね。

雰囲気が良く、湯使いもまずまずなのに、入浴料が土日祝で750円、平日650円というようにリーズナブルに設定されている点は大いに評価したいところです。一方、浴場内に無料のサウナが無い点は賛否が分かれるところでしょう。また、まだ開業して間もないためか、他にも色々なところで改良の余地があるように感じられましたが、でもこの手の施設はブラッシュアップしてより良くなってゆくものですから、ハード面・ソフト面とも今後の改善を大いに期待しています。
なお本家の「アクアイグニス」では宿泊できますが、ここでは宿泊不可ですのでご注意を。


(仮称)イオンタウン吉川美南温泉
含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉 44.9℃ pH7.3 393L/min(動力揚湯) 溶存物質22.59g/kg 成分総計22.60g/kg
Na+:7813mg(87.88mval%), Ca++:435.3mg(5.62mval%), Mg++:260.9mg(5.55mval%), Fe++:5.8mg,
Cl-:13520mg(99.23mval%), I-:11.4mg, Br-:27.3mg, HS-:0.1mg, HSO4-:0.1mg, HCO3-:152.2mg(0.65mval%), H2SiO3:53.3mg, HBO2:174.7mg, CO2:12.8mg, H2S:0.1mg,
(平成29年7月4日)
加水無し
消毒あり
加温あり(源泉から100m離れているため温度下降を考慮し昇温機使用)
かけ流し浴槽以外は循環ろ過あり

埼玉県吉川市美南3-25-1
048-973-7900
ホームページ

9:00〜24:00 無休
平日650円、土日祝750円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (6)
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