さて、癌と並んで、私たちの健康を阻(はば)む、もう一つの難敵が心臓病である、その代表的な病状が、突然我々を襲い、瞬く間に心筋細胞の一部が死滅していく恐ろしい心筋梗塞だ!それは動脈硬化できた血管内のプラークが、はがれて血栓となり、冠動脈(心臓の筋肉にエネルギーを供給する動脈)を詰らせ、心臓を動かし全身に血液を送るポンプ役の心筋に、血液が行かなくなる恐ろしい病気である!例え一命をとりとめても、心臓を元通りに戻すのは困難となる!ところが、この心臓病の治療に大きな効果を挙げるのでないかと期待される善玉エクソソームのメッセージ物質があったのです!・・・
何やら突然スタジオに、番組恒例のと称してLEGOブロックのような “人体つぶやきマシン・Dr.山中バージョン”なるものが運び込まれ、それを使って、そのメッセージ物質の効果たるものを紹介することになった?まず心筋細胞と腎臓とが交わす臓器間のメッセージ物質を使った呟きが交換された、心筋細胞から「疲れたわ~しんどいわ~!」の呟きが発せられると、その呟きに対して、腎臓から「おしっこしよか?」の呟きが返って来た、これは心臓に負担がかからないように、腎臓が尿の量を増やすことで心臓の血圧の量を減らし血圧を下げようとする腎臓からの労(ねぎら)いの呟きだった、更に同じ心筋細胞から「どんどん細胞増やそうか~、炎症抑えてや、もっと強くするで!」と呟きがあった、すると別の心筋細胞から「まかせとき!」と返って来て仲間の心筋細胞を回復させようと元気づけたのだ!・・・
この様に臓器細胞間で、やり取りされる相互援助の呟き“エクソソームの抗炎症作用”を利用して心臓の病気を防ごうとする研究が、今、押し進められているようだ!この箇所の山中先生の解説は、何故か余り歯切れが良いものだとは言えなかった??次に進もう・・日本人を悩ませる心臓病によって、年間20万人もの日本人が亡くなっていると云われている(えっ、こんなに?)、実は心臓には他の臓器とは異なる厄介な特徴があり、医療を困難にしているようだ、多くの臓器は古い細胞が新しい細胞に入れ替わりながら活動している、しかし、心臓はその入れ替わりのペースが極めて遅く、50年かけても3割ほどしか細胞が入れ替わらないとさている!その為、傷ついた心臓はなかなか元通りにはなってくれない!・・・
如何にかして心臓の細胞を新しく作り出すことが出来ないかと、アメリカ・LAにあるシーダーズ・サイナイ心臓研究所所長の心臓研究の権威、エデュアルド・マラバンさんは、その難題に挑(いど)んで来た!研究を続けてきた結果、心臓の中に極僅かだが細胞を再生させるメッセージ物質が潜んでいることを突き止めた!一人の助手が冷蔵室から、メッセージ物質が詰まったエクソソームが散りばめられた一つのシャーレを取り出した、そして心臓の細胞を増殖させるため「どんどん細胞増やそう!」のメッセージを発するエクソソームを取り出していった、しかし、メッセージ物質の数が少ないため、普段はゆっくりとしたペースでしか再生する力しかない、そこで、マラバンさんは、このメッセージ物質を人工的に増やして、病気になった心臓へ投与すれば失われた細胞を急速に蘇らせることが出来るのではないか?と考えた・・・
マラバンさんが心筋梗塞を起こしたマウスに、メッセージ物質を投与したところ、大きな成果が現れた、心筋梗塞を起こしたマウスの心臓の壁は半分ほど薄くなっていたが、一方、メッセージ物質を投与して人工的に増やしたマウスでは、増えるはずのなかった細胞が増殖し、みるみる壁が厚くなっていった!・・マラバンさんは今、1年以内のヒトでの臨床試験の開始を目指して急ピッチで研究を進めていた!『今この心臓由来エクソソームの解明は、医学に革命をもたらしつつあります、もし体内から治療に役立つメッセージ物質を取り出すことが出来れば、従来の常識を覆(くつがえ)す非常に強力な薬になるでしょう!』と力強く語ってくれた!・・・
ここで、「これこそが正しく究極の再生医療だと!」と感銘を受けた山中伸弥先生は「iPS細胞のように外で作り、外から移植するのでなく、それは身体の中の細胞を増やしたり細胞自身で臓器を再生させる安全な医療だ!それ故、どんな医療でも常に、副作用の可能性はあるが、この研究が完成すれば実に大勢の患者さんへの福音となるでしょう!」と結んだ・・これまで8回に渡って取り上げて来たシリーズ人体を通して、最先端の科学が明かした様々な“身体の中の巨大な情報ネットワークがもたらした恩恵”を観て来た、その始まりはたった一つの小さな受精卵だった、メッセージ物質に導かれ誕生した私達は、人生を終える瞬間まで、ミクロの物質がこの身体を支え続けてくれる、懸命に尊い命を守る臓器同士の会話、かけがいのない営みが貴方の身体にも秘められている、これらに感謝して第7集(最終回)を締めたいと想います、そろそろ今宵は、ここらで終わりにしても、よかろうかえ・・・完