写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

「点の記憶」

2009年08月14日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画
 大連港を出た引き揚げ船は佐世保港に着いた。岸壁に立つや否や、頭にDDTの真っ白い粉をかけられた。
 長い行列を作って汽車に乗る。客車は窓の上まで荷物でいっぱい。その上にかがみこんだ。早朝、岩国駅に着いた。黒く底の見えない池を縫うようにして家に向かって歩いた。
 岩国の空襲は終戦の前日、8月14日だったという。あとわずか一日を待たず、五百余名の命が散った。あの池は数千発の爆弾穴だったことを後になって知った。
 5歳児にとっての敗戦は、線にならない点の記憶。不気味なまん丸い水たまりは、今でもはっきりと覚えている。
 (2009.08.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
  (写真は、岩国大空襲の岩国駅前爆弾穴)

16 コメント

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あれから64年 (tatu_no_ko)
2009-08-14 08:45:30
掲載おめでとうございます。
引き揚げという経験はありませんが、満州から帰った親戚の話は聞きました。また、駅前の空襲で救援隊の一員として駆けつけた父の話を思い出し、2度と起きてはならない起こしてはならないと思います。
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さすが (anne)
2009-08-14 15:43:23
さすがですね。
おめでとうございます。子供に自慢できますね。
昨日は、広島で、忘れ得ぬロシア見に行きました。書道のお祝いに高いBAGを買いました。
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黒い穴の記憶 (pfaelzerwein)
2009-08-14 15:45:22
「線にならない点の記憶」というか黒い穴の記憶ですね。心象風景が見事に表現されてますね。
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Unknown (くじらぐも)
2009-08-14 21:55:27
幼い頃、祖母から空襲の恐怖体験を聞いたことがあります。幼心に二度とあってはならないことと記憶しました。
今、親となりその思いを強めます。

よくぞ、御無事で。
その一言につきます。
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好調持続… (yattaro-)
2009-08-14 22:33:39
さすが、目の付け所・タイミング・内容……。
情報を頂きながら実行に移せないこのルーズさ。
益々選者に嫌われてしまっているようです。
懲りずに・諦めずに…と思いつつやや疎遠。
ついに地金のサビが……。
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爆弾の穴を見ました (kanopin)
2009-08-14 23:25:46
時機を得た投稿で流石ですね。
臨場感溢れて感じるものあり。
終戦の前日とは・・・
岩国に当時叔母が居て、小学校の頃かと思いますが、大きな穴が空いていて、フナが泳いでいたのを思い出します。
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tatu_no_koさん (ロードスター)
2009-08-15 21:47:03
今日のtatu_no_koさんのブログで、より詳しい状況を知りました。ありがとうございました。
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anneさん (ロードスター)
2009-08-15 21:50:40
私は11日に院展と忘れ得ぬロシアを見に行きました。院展も良かったですね。
いいバッグをお求めとか、今度見せて下さい。入選、良かったですね。改めておめでとうございました。
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pfaelzerweinさん (ロードスター)
2009-08-15 21:52:42
多くの記憶はありませんが、点の記憶をつづってみました。pfaelzerweinさんはどんな記憶があるのでしょうか。
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くじらぐもさん (ロードスター)
2009-08-15 21:55:47
そのあたりは空襲はあったのでしょうか。8月はやはり戦争のことを思う月です。
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