のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

第 二 部  五、依頼主  (パルマとパルガ1)

2014-12-02 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

パルマとパルガ

 

 窓のない部屋の一角にテーブルが置かれ、そのテーブルの上にローソクが灯されている。ローソクが揺れる度に、黒い人影がゆらゆらと部屋の壁の上を動いた。テーブルに向かい合って座っているのは総勢で八人だった。テーブルに向かい合って座っているために、それぞれの顔が、ローソクの光を受けて照らされ、闇の中に浮かび上がっていた。

  老婆が二人、体格のいい男とでっぷり太った男、それに子供が四人、それぞれが緊張した面持ちをしてローソクの光を受けているのだ。

 老婆の一人はパルマといい、カラスを使う妖術師で、横に座っている太った男ジルの母親だった。もう一人の老婆はパルガ、パルマの妹だった。この国一番の魔道師と言われていた。

  体格のいい男の名はバックルパー、樽職人でエミーの父親だった。四人の子供は、エミーの他にカルパコ、ダルカン、エグマといった。

 バックルパーはパルガを見るなり、それが夢に見た魔道師パルガだと分かった。一体これはどういうことだとバックルパーは詰め寄ったが、パルマがそれをこれから説明するからとなだめたところだった。

 「パルガ、そろそろ初めようかの。」

 「心得た。しばらく待って下され、姉様。」

 パルガはそう言って、テーブルを立った。テーブルのある場所から奥には、方形をした高台があって、四辺のどちらからも三段の階段を上がって、その高台の上に登ることができた。その方形の台の四隅に祭壇が設けられていた。パルガはその台に上り、祭壇に立てられた大きなローソクに火を灯していった。サークルが四隅の炎に照らし出された。その床には極彩色の曼陀羅が描かれていて、パルガはその中心に立って低い声で呪文を唱え始めた。

 「さあ、一人ずつ、このサークルに上ってくるのじゃ。」

 パルガは呪文を用いてサークルの周辺に結界を張ると、サークルの上に皆を呼び寄せた。 「さあ、この円の上に並んで座るのじゃ。」

 パルガの指示にしたがって、七人はサークルに描かれた円周の上に並んで車座に座った。その中心にパルガが立って再び呪文を唱え始めた。

 「パルザク、マルザク、エクドラ、クモラク、」

 「マントグラムス、クンストザロス、エクエクザクロス、パルザク、パルドク」

 「ハローグ、バローグ、ヴァンクル、ザンクル、」

 バックルパーとエミー達は目を瞑ってパルガの呪文に聞き入った。呪文の意味は分からなかったが、サークルの上に漂う空気が奇妙に心を落ち着かせて、ただパルガの発する呪文の声音だけが頭の中で微妙に振動した。その呪文の流れのままに身を任せて瞑想していると、突然不思議な事が起こった。特に言葉を交わした訳ではないのに、バックルパーの頭の中で、疑問だったすべての事柄が突然理解に変わったのだ。

 なぜユングがエミーのために図書館から鍵や古文書を持ち出したのかということや、引ったくりに盗られてしまったというユングの託した品物が、実はジルが仕組んだ偽物の品だったということまで、まるで自分が体験したことのように頭の中に浮かんで来たのだ。

 エミー達にも同じことが起こっていた。パルマがカラスを使って依頼文を仕組んだことや、それは、黄泉の国の悪魔を封じ込める為にどうしても必要だったということが、まるで自分の考えとして初めから頭の中にあったようにすべてを理解したのだ。今まで知りたいと思っていた疑問に対する答えが、突然その前から知っていたことのように理解している自分に気づいたのだ。

 この理解は、あの夢と同じ感じだとエミーは思った。するとその思考はそのまま魔道師パルガの使う夢の術の理解につながった。それはまるでパルガの頭脳がそのままエミーの頭に入って来て融合したような感覚だった。気が付いたらエミーは悪魔がどんな力を持っているのかを知っていた。

 悪魔には実体が無く、どんな人間の心の中にもその触手が伸びて来ているのだ。それはまるで世界そのものが悪魔だった。無理に悪魔の体を想像すると、その体は宇宙の果てから、エミーの心の奥底に至るまでそのすべてに影響を及ぼす巨大なもの、それは世界の隅々にまで及び、その姿は想像することさえ出来ない広がりを持っていた。エミーの中にある悪魔の部分が動くと、それはそのまま悪魔の思考につながった。そう思うと、エミーはぞっとした。どこに隠れようが、その隠れたその身の中に悪魔の触手が組み込まれている。逃げようのない巨大な闇の力、それが悪魔だったのだ。

 そればかりではない、悪魔は、その力に支配された人間を操るばかりか自然界そのものをも操る力を持っている。エミーやカルパコが遭った事故は悪魔の力だった。悪魔は偶然を操って邪魔者を攻撃するのだ。悪魔はヅウワンの歌を恐れた。ヅウワンの歌の響きは悪魔の力を破り、封じ込める力を持っていたのだ。ヅウワンの死は悪魔のそんな力が関係していた。悪魔の使った偶然がどこにあったのかエミーには分からなかったが、自分の生活の中に、巧妙に仕組まれた悪魔の偶然が潜んでいると考えると、いいようもない恐ろしさを感じた。

 その思いはバックルパーにも同じだった。時々自分の中に感じる悪魔のような声、それは実際、悪魔そのものの触手だったのだ。自分の体の半分は悪魔の体の一部だというバックルパーの理解は、自分の体をかきむしりたくなるような衝撃を与えた。この体の半分がヅウワンを殺したのだ。噴水で滑らせた足は、巧妙な悪魔の力に違いなかった。そう思うとバックルパーは、無意識のまま小刻みに体を震わせていた。

 「一体悪魔は何をしようとしているのだ。」バックルパーは唸るように言った。

 「それはわしから答えよう。」パルマが口を切った。

 

 

第二部 五、依頼主 (パルマとパルガ2)

 

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