映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「ゼロ・ダーク・サーティ」

2013年02月19日 | 実話系

ビンラディン暗殺を成功に導いた女性CIAエージェントのお話です。
彼女の異常ともいえる執念と、淡々と作成遂行する実行部隊を
乾いた質感で撮ってあります。
突撃の様子がすごかった。現実と錯覚するくらい。

内容ばれ
・フィクションで見る拷問って、苦しめるのが目的と化しているのが多いですが
 情報を得るために拷問するのであって、相手の正気を保ったまま、
 心だけ折らなければいけないいわば頭脳戦なのですね。
 あの最初に拷問していたひと、健康な精神を持った頭のいい人なのでしょうけど、
 だからこそ拷問で成果をあげ、心にダメージを負ったのでしょう。
・主人公のマヤは残酷な拷問に目をそらすけど、カメラは逆にぐぐっと克明に映し、
 (屈強な男が屈強な男を拷問するシーンはおいしいですね、分かります監督)
 そして後になるとマヤも平気で捕虜の殴打を指示するようになるという。
・恥ずかしながら拷問史とか拷問博物館とか和洋問わず大好きなのですが、
 現代でも拷問の手数って画期的なものは増えてませんね。
・ガンダルフ!
・マヤの髪がずっと綺麗に巻いてたのですが、
 一体どうやってセットしてたのか聞きたいよ。
・上司の名前をリークしたのは、マヤ…?おそろしい子…?
・アメリカの人も上司がヒステリーを起こして怒鳴り始めたら
 みんなでうつむいてテーブルをじっと見るんだ。ふーん。
・マヤは高卒でCIAに入ったと言ってましたが
 別の映画で大学時代に洗脳されて二重スパイになった話とかあったので
 そういう意味で多いケースなのかな?と思った。
 でも人脈作りという利点もあるし一長一短ですね。
・超有力な情報提供者をみなで歓待しようとしていたら、それは罠で
 自爆テロでCIA局員7人死亡って本当にあった事件なんですね。
 そして指揮を執っていたアルカイダ専門の有能なエージェントは映画と同じ子持ちのお母さん。
 マヤのモデルになった女性と現実に仲が良かったかは分かりませんが
 映画でのあのデスクトップ画面は、一瞬だけど、この映画には数少ない暖かい部分。
・映像は映せなくても熱源で人数と性別が分かり、歩調で年齢が分かるのですね。すごいなあ。
 ビンラディン、女連れで住んでいなければ、
 もう数年生きられたんじゃないの?と思います。
 ゴミはすべて焼却するくらい徹底してたのにね。
・戦い慣れたプロの精鋭なのに、それでも操作ミスでヘリ1機墜落したりとか、
 それを爆破して証拠隠滅しようとしている時にもう1機来て「わー!あぶないぞー!くるなー!」とか
 結構グダグダですね…。
・今のゴーサインって「やさしく肩をつかむ」なのですね。それともあの隊だけかな?
・男は問答無用で撃つ、女も動きが不審なら迷わず撃つ、死んだ人間も念のため1発撃っとく、
 と暗殺はみなさん冷静で機械的でした。
 漫画の主人公が死んだふりをしてあとで反撃するとか、あれはフィクションだけのお話なのですね。
・暗殺して終わり!じゃなくて、死体を収納したりパソコンとか資料を押収したり
 おおいそがし。時間制限あるし。
・音楽は(ポタとかも手掛けられた)売れっ子アレクサンドル・デスプラさんですが、
 内容に合わせて抑えめの曲が多いので、得意技を封印されてた感じ。
・マヤのモデルの人は、残念ながら現在窓際に追いやられていると聞きます。
 CIA伝統の男尊女卑のせいだとも、
 あるいはあまりにも彼女がエキセントリックすぎるせいだとも。
 http://www.cinematoday.jp/page/N0048945
・そういえば暗殺以降、都心部を狙ったおおきなテロはなくなりましたね。
 生け捕りとかなさらなくて本当によかったです。
 「ミュンヘン」が10本くらい撮れてるところですよ。

関係ないけど監督の、あの戦士のように引き締まった肉体と、
異様な若さの秘密を知りたいので美容本を出してほしい。


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「脳男」

2013年02月14日 | アクション映画

予告をちゃんと見ていなかったので
サスペンスだと思っていたらダークヒーローものでした!

連続爆弾テロ事件で犯人として逮捕された青年、鈴木一郎と
彼の精神鑑定を担当する事になった女性、事件を追う刑事のお話です。
邦画というか、むしろ世界受けのほうがよさそうな出来だった。
テレビ派生じゃない映画がここまで頑張ってくれるととてもうれしい。

鈴木一郎の異様な過去が明らかになるにつれ
彼は連続爆破犯ではなく、犯人を殺すために現場にいた事が分かってくるのですが、
演じる生田斗真くんが、
ふぉぉぉ女神様じゃあ!って拝みたくなるくらいともかく綺麗です。
シャープな美形ではなく、やや癖のある美形なのがいい。
(人外のものが美しい青年に変身しているその最終段階のような)
名優などいなくても、名演技はある程度メイクとカット割と脚本で作れる!
お客を持ってきてくれるすべての若手を、
こういう風に撮ってあげればいいのに!と思いました。
主人公がいかれた美青年、
ラスボスがいかれた百合ップルというのも新しい感じ。
(あの女の子18歳なのですね。演技上手いし
あんな役やっちゃうと来なくなる仕事もあるだろうにすごい)
(そして好きな漫画家さんの名前に中村明日美子さんと、ヤマシタトモコさんがありますね…)

ただし内容が内容なので人体切断や重度の火傷、ペド要素などを含みます。
最後に「動物は虐待されていません」って出ました。
性善説真っ向否定なので、合う合わないはあります。
私は否定派なので波長が合ってスッキリしました。

ラストばれー

すべての人間は正しい方に向かえるという考えの精神科医に感情移入していたひとには
大ダメージのラストだと思います。
私は、犯罪被害者の遺族に犯人と対峙させて、遺族の心を変化させる、という治療のところで
顔が既にななめに歪んでいたので、ラストにほっこりしました。(暗黒ほっこり)
だいたい殺して止めないとこの人死んでたし、そこらへんの子供がいたぶり殺されてた状況で
殺しちゃダメーって……。

息子を愛して長年忍耐強く守ってきた母親に「息子は殺されて良かったです」
って泣きながら言わせるところとか、「うわあ、えぐい…」と思いました。
しかしあのペド役の子はそろそろノーマルな役にシフトしないと普通の仕事が来なくなるぞ。

・感情がないってそんな珍しい症例なの?意外でした。
・神様を語る所が3ヶ所あったけど、(百合ップルが・患者の母が女医に・女医の母が)
 あれなんだろ。わざとなのか癖なのか。


狂った富豪の祖父に処刑人の英才教育を施されるって、
なにかを思い出すと思ったら横溝の「真珠郎」だ。

原作は爆破魔は男性で、かなり話が違うようなのでそのうちに読もうと思います。

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「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」

2013年02月05日 | サバイバル系

映像がとてもとても美しく、
映像だけをひたすら追うのもよし、
冒険についてどきどきするのもよし、
設定について考え込むのもよしという
色々な楽しみ方のできる映画です。
モニタで見るのは勿体ないので映画館での鑑賞むき。

インドで動物園を経営する一家の息子パイは、
動物たちを売ってカナダに移住すると決めた父親と共に
貨物船に乗りこんだが、嵐によって船は沈没してしまう。
ただ1人生き残った彼は救命ボートに乗り込むが、
ボートには動物園から連れて来た虎がおり、
1人と1匹の漂流が始まるのだった、というお話。

虎がフルCGらしいのですが、もうまったく分からない。
OPの動物や、フランスの公営プール、インドの街並み、
鏡のような海面、夜の海、ともかく綺麗でした。
自然の美しさとも少し違う、けれど完全に幻想的なものでもない、
中間の美しさ。

パイはヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教を信仰する子で、
その独特の考え方も面白かったですが、それを許容する家族もまた面白かった。
パイがインド人ではなく、また監督が台湾人のアン・リーさんでなければ
この映画はこんな風にはならなかったと思う。
(原作者さんはカナダ人のようですが)
唯一神、絶対神のいる、白か黒かの世界では起こり得ない物語のような。
もしかして3つの宗教は円周率と関係があるのかなどうかな…?
お父さんは
「どの宗教も信じるという事は、何も信じていないのと同じだ」と諭しはしたけど、
叱ってやめさせたりはしなかった。
パイのお父さんは、いかにも知的な人という感じでお話も興味深いものが多かった。

パイの名前の由来になった世界で一番美しいプール
「ピシン・モリトール」ですが残念ながら1989年に閉鎖されておるようです。
http://haikyo.crap.jp/s/6931.html
廃墟になっても美しい。(リニューアルの話もあるようですね)
「ピシン」はインドではあまりいい意味ではないらしく「立ちション!」とからかわれたパイは、
自分で「愛称はパイです!由来は円周率です!」と自己アピール。

ラストばれ…?

虎の名前リチャード・パーカーは、検索したら不思議なお話が出てきて
ポーの長編小説「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」において
脱出した4人の男のうち、食料にされたキャラクターの名前がリチャード・パーカーであり、
その47年後に実際に起こった「ミニョネット号事件」で脱出した3人の男に
漂流中食われてしまった水兵の名がリチャード・パーカーだったらしい。

お話は、2層構造になっていますが、片側がどうしても受け入れられない人もいるでしょう。
でも、ちゃんと無視してしまえるような作りになっています。
複雑な物語だけども、
虎がいなかったら生きられなかった、というパイの言葉は真実なのでしょう。
全然違いますが「落下の王国」を思い出す。



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