映画の豆

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「哀れなるものたち」

2024年01月28日 | 美学系

ヨルゴス・ランティモス監督
アラスター・グレイの同名小説を映画化。
天才外科医のゴドウィン・バクスターは、
身投げした女性の遺体を蘇生させ、彼女の頭に生きた胎児の脳を移植し
ベラ・バクスターという女性を創造する。
彼女は幼児ほどの知能しかもたなかったが、
次第に自我が芽生え、様々なことを学び、世界へ飛び出してゆく。

死体損壊罪がないことからも分かるように、
科学が発達した別世界の話です。馬車に蒸気の動力が付いていたので
スチームパンクに分類できるかも。
牡蠣や耳、脳、軟骨、などを思わせる
曲線を多用した衣装や美術がべらぼうに美しかった。

ここ数年見た映画の中で一番セックスシーンが多かった。
嘔吐、動物が死ぬ、性器が映る。
人体を切る、突き刺す、脳や内臓が映る。
ご家族での鑑賞や初デート向きではない。
満席一歩手前だったが、みなは一体何目当てなんだろう。

最後までばれ反転

ラスト、いい感じにシスターフッドを絡めて終わったが、
ランティモス監督が世間を学習しなさっただけで
彼が本当に撮りたいのは、無慈悲な女性がカエルを潰したり
人間が耳に食いついたりする行為ではないかと勝手に思っている。

なるほど、売春が汚らしい罪深い行いであるというのは
一部地域の価値観で、女性は自由にそれを楽しみ、金銭と学びも得ることができる、
という考えは分かる。
しかしそれは感染症のリスク、妊娠のリスク、世間の大半の人からの蔑視、
売春婦を下等人種と見る集団から犯罪被害に遭う確率が上がる、
というデメリットを本人が完全に理解している場合に限り有効だと思うのだが
この映画では後者になるほど考慮されていないように見える。
(このへんの問題をクリアして、なおかつ女はセックスを楽しみまくれ!
でも最後はシスターフッドだぜ!で締めたのが
SFポルノ「バーバレラ」だと思う。1968年の作品)

放蕩三昧をしてきた女泣かせの弁護士が、ベラにめちゃくちゃにされるのは
コメディとして楽しかった。
マーク・ラファロ氏、ベソかきながらキレる演技上手かったな。

男たちは女の学習や自由な行動を阻むが、
ベラはお構いなしにやりたいことをやり、自我を構築していくという
フェミニズム文脈なのだが
「バービー」の時のようにボコボコに叩いている日本の一般男性は
今のところ見当たらない。
まあ後半ずっとセックスシーンなので啓蒙部分の記憶は残らないのかも。知らんけど。

ゴドウィン・バクスター、父親からモルモット扱いを受けて育った
不能のマッドサイエンティストというインパクトあるキャラクターだったが
ウィレム・デフォー氏が巧く演じて、過度に生々しくも可哀そうにも醜くもならず
適度な狂人だった。
ただ、ベラがいない寂しさを新たな女型蘇生死体で埋めるという行為がえぐすぎて、あのエピソードを入れるなら彼の最期をあの安らかなものにした処理はやや優美さに欠けるように感じた。ベラが「怪物たち!」と吐き捨てたあの流れのままでいくか、せめて美しい青年の2号蘇生死体にするべきだったのでは。

映画の話ではないが、女の体を蘇生した怪物とメアリ・シェリーがバディとなる、
シスターフッド、フェミニズムを描いた物語ということで
藤田和日郎さんの「黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ」を思い出した。


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