読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

エリザベス・ヘインズの『もっとも暗い場所へ』

2017年03月13日 | 読書

◇ 『もっとも暗い場所へ』(原題:In to the Darkest Corner)
             著者: エリザベス・ヘインズ(Elizabeth Haynes)
             訳者:小田川佳子       2013.5 早川書房 刊
                        (ハヤカワ・ミステリー文庫)

   

        怖い本である。が、ホラーではない。何が怖いかというと主人公の元恋人の所業、本性の
   怖さ。
   DV の実態と被害者に及ぼす後遺症の恐ろしさがひしひしと伝わる。主人公が後遺症をど
   う乗り越え、見えない敵とどう戦うのかが本書の読みどころの一つ。
   
   舞台はイギリスはロンドンのカムデン。
   結構奔放な生活を送っていたキャサリン(キャシー)・ベイリーは、ある日さるクラブの
   青い目を持つハンサムなドアマン・リー・ブライトマンと出会う。まもなく二人は熱烈
   な恋に落ちる。
   ところがこの二人の行き着く先には…。

   本書は冒頭と終段はランカスター州とロンドンの高等法院の刑事法廷における審理場面
   であり、ここでミステリーの核心部分が提示される。

   リーはおとり捜査に携わる警官であるが、独占欲が強くキャサリンの行動を逐一把握し、
   拘束しようとする。
   「おまえは俺のものだ。俺の売女(ばいた)だ。俺の言うとおりにすればいいんだ。わか
   ったか?」

   次第に恒常的な言葉による暴力、暴力的性行為から監禁、瀕死の重傷を負わせるところま
   でエスカレートし、ついにリーは逮捕されるが、裁判では加えられた傷はキャシーの自傷
   行為の結果などと巧みな弁舌で切り抜け、3年余りの服役で再び娑婆に戻ってきた。
    キャシーは再びリーに居所を知られ、かつての地獄に立ち戻るのではと強迫神経症状に
   陥る。

   ストーリーはキャシーとリーの出会いがあった2001年6月21日以降の二人の関係の進行と
   リーのDV(家庭内暴力)の結果極度の強迫神経症、PTSD(外傷後ストレス障害)に捉わ
   れ、新しい恋人チャールズの協力でつらい記憶と病から立ち直ろうと努力する2007年7月
   1日からの生活の二つの流れが交互に語られる。わずらわしさもあるが、終盤では一気に
   事態が急変しサスペンスが盛り上がる。

   普通の関係であったキャシーとリーの仲が、次第に異常な独占欲と暴力性を示し始めたリ
   ーの本性の怖さと、これに抵抗しようとしながらも、ついすがっていくキャシーの姿が腹
   立たしくも痛々しい。なぜ逃げないのか。
   暴力の後に、「ごめん。なぜこんなことをするか。君を愛しているからだ」と反省するそ
   ぶり。
   つい許してしまうDVの実態が赤裸々に表わされる。

   新しい恋人チャールズの協力でつらい記憶と病から立ち直ろうと努力する生活、そこに1本
   の電話が。カムデン警察署公衆安全課から「リーが出所しました」。

   キャシーは再び悪夢に苛まれる。だが今はチャールズの助けなどあってリーに果敢に立ち
   向かう覚悟もできつつある。また警察の担当刑事サムも心強い味方となっている。
   案の定リーはキャシーの新しい住まいを嗅ぎ当て、襲ってきた。そしてリーはキャシーと
   の激しい立ち回りの末ついに逮捕された。

   ようやく悪夢から逃れチャールズとの結婚も控えたキャシーに獄中のリーから手紙が届く。 
   
   「親愛なるキャサリン、いつもおまえのことばかり考えている。会って、何もかも済まな
   かったと言いたい。せめてものお詫びの印に、おまえに贈り物がある・・・」

   そこにあった贈り物とは。そして手紙の2枚目には驚愕のメッセージが。
   それは本書を読んでのお楽しみ。
  

コメント
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